1947年サンパウロ生まれ。2009年まで教育の分野に携わる。以後、執筆活動に専念。エッセイ、短編小説、小説などを日系人の視点から描く。
子どものころ、母親が話してくれた日本の童話、中学生のころ読んだ「少女クラブ」、小津監督の数々の映画を見て、日本文化への憧れを育んだ。
(2023年5月 更新)
この執筆者によるストーリー
第十話 キミコの再出発
2013年4月23日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ
100年以上前にブラジルに渡った移民たちは、いつかは日本に戻れると思っていた。1980年代から日本に行き始めた逆デカセギのほとんども、いつかはブラジルに戻れると信じていたのだろう。しかし、世の中はそう甘い物ではなかった。いろいろな事情があって、一度帰国したあと、再び日本へ行くデカセギが少なくなかった。キミコもその1人だった。 「元気を出して!かあさん。仕方ないさ」 息子のアレックスに声をかけられ、キミコは、はっとした。「ここは確かにブラジルだ。そして、私はやっと戻って来たの…
第九話 サクラの花の咲くころ
2013年3月21日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ
真司とリンダは子どものころの友だちだ。と言っても、同じ学校に通ったこともなく、同じ公園で遊んだこともなかった。 真司は6歳のとき、お父さんの仕事の関係でブラジルに住むようになった。 お母さんは元ピアニストだったので、すぐにピアノ教室を開いた。生徒は日本企業の駐在員の子どもたちだった。 真司はアメリカンスクールに通っていた。その上、習い事もたくさんしていた。英語、バイオリン、チェスの教室などだ。 ある日曜日、お母さんはピアノのコンサートへ、お父さんはゴルフ場へ行くので、真司は…
第八話 カーニバルの悲しい出来事
2013年2月8日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ
私は日系二世の70歳のおばちゃんです。昔からカーニバルにはあまり興味がありませんでした。カーニバルとはブラジル人にとって、年に一度の楽しみだとしか思っておらず、「ブラジル人ではない」と認識している私には関心がなかったからです。しかし、当時から日系人会では「バイレ・デ・カルナバル」というカーニバルのダンスパーティーが開かれ、日系の若者たちも楽しむようになっていました。私も友だちと一緒に行ったことがありましたが、特別な思いはありませんでした。 24歳で結婚した私は4人の子どもに…
第七話 ケンジンニョのすばらしい年末年始
2013年1月24日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ
日本生まれのケンジンニョは両親が別れた後、母親と一緒にブラジルへ渡った。 日本に残った父親は1年半後、約束どおり、息子を迎えに行ったが、意外なことが起きていた。元の妻のヌビアは再婚してリオに住んでいて、息子のケンジンニョは、父方の祖母、つまり自分の母親の家で暮らしていた。驚きだった。 しかし、空港に出迎えに来ていた息子を見てマサオはほっとした。ケンジンニョはニコニコ、おばあちゃんの側から離れなかった。「イラセマばあちゃんのとこからなんで出たの」「イラセマばあちゃんはとてもや…
第六話(後編) マユミは此処!FELIZ NATAL!
2012年12月24日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ
第六話(前編)を読む>> 何と言ってもナタール(クリスマス)はデカセギにとって特別な祝日だ。無関心な人は誰もいない。みな、その日が来るのを心待ちにしている。家族や友人と集り、その時だけは多忙な生活をしばし忘れ, 懐かしいブラジルの思い出話に花を咲かせる。 しかし、問題は日本でのクリスマスが祝日でないことだ。仕事を休めない人は前日にお祝いをするしかない。それでも、クリスマスを祝うのがデカセギの一番の楽しみだ。 クリスマスイブに大勢の人がパストール・マコトの家を訪ねる。地域…
第六話(前編) 「Mayumi」は今、何処?
2012年11月21日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ
早朝、大きなバスケットを両手でかかえた若い女性が街を歩いていた。 公園のベンチに座り、ひと休みする。空を見上げると、濃い灰色の雲がどんどん横に流れ、自分も一緒にどこかへ連れて行かれるような気がした。下を見ると、枯葉が敷き詰められたカーペットのようで、今の自分の道しるべに見えた。「きっと、正しい方向に導かれているのだ」と、立ち上がり、バスケットを大事そうにかかえ、公園を出て行った。 すると、さらに、空は曇って今にも雨が降りそうになってきた。強い冷たい風も吹いてきたので、女性は…
第五話(後編) クレイト 血と汗&サンバの物語
2012年10月30日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ
前編を読む>> ふたたび転々と職を変えた。そのため、ブラジルの家族の存在はどんどん薄らいでいった。2歳になった娘の写真も見たことがなかった。そして、気がつくと、サンバのインストラクターになっていた。今まで一度も考えたことがなかった。まったくの偶然だった。 それは、ある日、彼が電車を待っていた時のことだった。反対のホームに紺のユニフォームを着た女子高生を見かけた。長い黒髪のお下げで淑やかな感じがかわいかった。早速話しかけようと、ジェスチャーを使い、いろいろ試みたが、彼女は…
第五話(前編) クレイト 血と汗&サンバの物語
2012年10月23日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ
子どもの頃、クレイトはごく普通に暮らしていた。原っぱでサッカーをしたり、先生に叱られたり、近くの山に登って怪我をしたり、木登りをし手足の骨を折ったり、ゼーさんの庭のマンゴを盗み、逃げる途中、足をくじいたりしたものだ。 しかし、8歳のとき全てが変わった。母親が故郷のペルナンブーコに帰ったのだ。下の二人の娘を連れ、「わんぱく坊主」のクレイトを残して行った。以前から底なしに酒を飲む父親はさらに大酒飲みになり、とうとう病気で入院してしまった。退院後は、行方が分からなくなり、見かけた…
第四話 サウダーデ
2012年9月26日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ
ある日、キミコは息子の引越しを手伝っていたとき、思いがけない物を見つけた。引き出しの底にビスケットの缶があった。子どもの頃、たまにしか食べられなかった「Biscoitos Duchen」だった。とても懐かしく思ったが、息子の家に置き忘れた覚えはなかった。それなのに、どうしてアレックスが大事そうにしまっていたのであろうか。何が入っているのだろう、と気になった。 すると、孫のマルコが「バチャン、早く行こうよ」と呼びに来た。引越しだったので、みんなで外食。そのとき、キミコはビスケ…