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第9回 羅府日本人合同教会の日曜文化放送

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羅府日本人合同教会(合同教会)は羅府日本人組合教会、羅府長老教会および日本人ベツレヘム組合教会の3教会が合併して1918年2月に発足した教会である。

渡辺宗三郎牧師(合同教会ウェブサイトより)

同教会は日本文化放送協会(第3回参照)に熱心に働きかけ、1937年11月14日より新しい日本語番組を開始することとした。番組は「日曜文化放送」と呼ばれ、合同教会の渡邊宗三郎牧師の担当により、毎週日曜日の20時半から30分間、ロングビーチのKGER局から放送された。

初日の番組については以下の内容が予告されている。

  • この放送を始めるについて 杉町八重充
  • 祝辞 鈴木耕一副領事
  • 聖歌「栄える久遠」合同教会聖歌隊 指揮 煤孫龍男
  • 説教「我が世に頼るべきもの」渡邊宗三郎牧師

初回は放送開始にあたってのお祝いという堅苦しい形式のものとなっているが、翌週からは本来目指していたと思われる内容が打ち出されている。すなわち、牧師の説教に加えて、日本から輸入したレコードを流すというものである。宗教色を前面に打ち出さず、娯楽的要素を加えて一般リスナーにも配慮したものであった。

第2回の番組内容は以下の通りである。

  • 流行唄「ねらい定めて」(軍用機ぶし)勝太郎、市丸、灰田勝彦
  • 独唄 「銃後の祈り」  金広つぼみ
  • 端唄 「義太夫くづし」 寅由貴
  • 歌謡曲「白芙蓉」  千葉早智子
  • 聖歌 「チルビルの歌」 合同教会聖歌隊
  • 説教 「動機の浄化」  渡邊宗三郎

その後もこのスタイルを踏襲した番組編成が行われた。

日本のレコードは流行歌、端唄、歌謡曲、童謡、愛国歌、軍歌、三曲、小唄、民謡、追分、米山甚句等幅広いジャンルの曲が流された。そのレコードも時局を反映した軍事色の濃いものがよく選ばれた。例えば、「形見の戦闘帽」(渡辺はま子)、「遺品の軍刀」(南はるみ)、「軍国綴方教室」(樋口静雄)、「噫西住戦車隊長」(竹本嘯)、「軍国櫻だより」(井田照夫)である。加えて浪花節、義太夫、薩摩琵琶、落語(金語楼、三亀松ほか)、漫才(砂川捨丸・中村春代ほか)等も取り上げられた。

説教については基本的に渡邊宗三郎牧師が担当したが、同牧師が不在の時にはロサンゼルスの各教会の牧師(総勢19人)が出演した。

日曜文化放送の番組案内(『加州毎日新聞』1939年6月10日)  

教会が関与する番組として欠かせないのがクリスマスの特別番組である。

1937年は、合同教会聖歌隊による英語の歌、煤孫龍男の聖歌「さやかに星はきらめき」、そして渡邊牧師の特別説教が放送された。1938年は、「聖歌107番」(コロンビア聖歌隊)、「聖歌97番」(神戸女学院生徒)、「聖歌93番」(日本ビクター合唱団)といった日本からとりよせたレコードに加え、楠木ヤス子の讃美歌独唱と渡邊牧師の宗教講話「生誕を空うせざれ」が放送された。

1940年6月16日に放送された番組が日曜文化放送の最後となった。

最終日の番組として、流行歌 「砂上の花」〔「無情の花」のことか?〕(二葉あき子)、落語 「掛け取新戦術」(春風亭柳橋)、生田流筝曲 「楓の花」(越智蒼生子・金澤生糸子)、讃美歌、説教(渡邊宗三郎)がリスナーに届けられた。

この日の放送が最後という事前予告はなく、後日今後の放送を一時中止すると報じられた。中止の理由には触れられていない。

 

*本稿は、『日本時間(Japan Hour)』(2020年)からの抜粋です。

 

© 2020 Tetsuya Hirahara

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このシリーズについて

1921年にいち早く商業ラジオ放送を始めたロサンゼルスでは、1930年から定期的な日本語ラジオ放送が始まった。シアトル編に続き、今シリーズでは戦前ロサンゼルス地域での日本語放送の歴史を全5回に分けてたどる。

*本シリーズは、平原哲也氏の著書『日本時間(Japan Hour)』からの抜粋で、『羅府新報』からの転載です。

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シリーズ「日本時間 ~日本語ラジオ放送史~」

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執筆者について

中学生の頃から外国の短波放送を受信する趣味を始める。ラジオ全般の歴史にも興味を持ち、近年は南北アメリカ大陸で放送されていた日系移民向けラジオ番組の歴史について調査している。2020年に北米大陸で戦前に行われていた番組を紹介する『日本時間(Japan Hour)』を自費出版。

(2022年 9月更新)

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