ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2023/10/9/tjs-radio/

第13回 新オーナーに聞く ー ロサンゼルスの日本語ラジオTJS

インターネットラジオに 

子どもたちを学校に送っていく朝の時間帯、車内で聞いていたのはロサンゼルスの日本語ラジオ局の番組『LAモーニング』だった。その後、下の子どもが高校を卒業すると、日本語ラジオを聞く機会がなくなってしまったのだが、私が知らない間にTJSはインターネット放送に切り替わっていた。インターネット放送にすることで、FMよりも音質が良くなり、高額な電波料金が不要になり、世界のどこからでも聴けるというメリットが生まれた。それを実行に移したのが、2021年9月、前のオーナーから引き継ぐ形で新しいオーナーとなったファンデンベルグ勇(通称:サム)さんだ。

  元は子役だったTJSオーナーのサムさん。写真はNHK朝ドラ『風見鶏』の出演者たちと。サムさんは中央。

サムさんは大阪府寝屋川生まれの兵庫県西宮育ち。父はオランダ人、母は日本人で、幼稚園から高校まで当時は六甲山の山中にキャンパスがあったカナディアンアカデミーに通った。中学生の頃には、NHKの朝ドラ『風見鶏』に出演、主人公の息子アルベルトを演じた。

高校卒業後は一度、日本の一般企業に就職したが、航空機メーカー、ノースロップが運営する技術系の大学に入学するために、1982年にロサンゼルスに渡り、機械工学、宇宙工学、シビルエンジニアリングを専攻。ロサンゼルスの日系企業にエンジニアやITディレクターとして勤務した後、2015年に経営コンサルタントとして独立した。そして、今から5年ほど前、母校、カナディアンアカデミー時代からの知り合いを通じて、TJSラジオを紹介され、経営再建に携わることになったのだと振り返る。

TJSの歴史を残したい

「僕がTJSと関わるようになって、いろいろなアイデアを出しました。当時は日本語の番組しかなかったから英語の番組も二世、三世向けにあった方がいいと、僕自身が英語のMCを務めたりもしました。また、インターネット放送に切り替えたのも、妨害電波などの影響で音が聞こえづらい状況が続いていて、そのせいでスポンサーが降りたりもしていたので、思い切ってインターネットにしようと提案したのです。そして、試聴するためのアプリも僕が開発しました。ITのバックグラウンドが役に立ちました」。

前のオーナーが個人的事情で日本に永久帰国を決めた時が、サムさんにとっての転機になった。

「彼から相談されました。僕が会社を受け継ぐか、そうでなければ20年近く続いた日本語ラジオ局の歴史が消えてしまうと思いました。僕がテイクオーバーしなければ、前オーナーは会社を手放す覚悟だったからです。僕は3日考えて最終的に『(ラジオ局の経営を)やります』と答えました」。

サムさんのオーナー就任とともに、TJSは新しいフェイズに入った。番組構成を見直し、サムさんの関西方面でのコネクションを活かして、ラジオ大阪OBC、大阪のレディオ・バルーン、神戸のFM MOOV、芦屋のアシヤ・ラヂオと提携して番組数を一気に増やした。「アシヤ・ラヂオは、(ギタリスト)のクロード・チアリの息子さんのクリス・チアリが経営していて、彼のお姉さんのクリステルが担当している番組をTJSで配信中です」。

視聴者の要望も積極的に取り入れている。「アーバインの高齢者ホームの方から電話をいただいて、パソコンで番組を聴いているが、流れている曲が新しすぎてついていけないって言われたのです。高齢者だから民謡とか、そういうものが好みだと分かり、施設の皆さんが集まるホームルームの時間に合わせて、午後2時から3時の時間帯には懐かしい曲を集めて流しています。皆さん、おやつを食べながら、日本の古い曲を聴いてくれているようです」。

音楽といえば、サムさん自身が高校生の時にDJをやっていたそうだ。その時のDJ魂が今、数十年の時を経て、神戸からロサンゼルスに場所を変えて甦ったと話す。「TJSの機械が最新ではない分、何十年も前に身につけたDJのスキルがここで役立っています」とサムさん。

芸人“たむけん”の番組がスタート

そして、最近話題になっているのが50歳になってアメリカ移住を果たしたお笑い芸人、たむらけんじ(以下、たむけん)さんの看板番組がTJSでスタートしたこと。その経緯について聞くと、話は2年前に始まっていた。

「2年前、ロサンゼルスでRising Japanというフェスで、たむけんさんと知り合いました。彼はMCで呼ばれていたのです。TJSのことを話すと、彼は日本語ラジオがあることに驚いていましたね。また、彼はフェスでの仕事を通じてアメリカ移住に可能性を感じ始めたようです。そして実際に2023年5月、50歳の誕生日にロサンゼルスに移住したたむけんさんの番組が、TJSで10月10日にスタートします(取材時は9月末)」。

今後の日本語ラジオ局経営の抱負を聞いた。

「とにかく、多くの人が聴きたいと思う良い番組作りに努めたいし、番組数を増やしたいです。そして、TJSのことを知ってもらう必要があるので、日本人が集まるイベントには積極的に顔を出してPRに精を出していきます。あとは、スタッフを育てることが目標。今は中のことは自分1人でやっていて、社員は僕1人です。番組を担当するMCは皆フリーランス。ウェブサイト、番組作り、営業など1人でやるのは本当にしんどいので、分身がほしいです(笑)」。

最後の質問は、オランダ人と日本人のハーフであり、日本のインターナショナルスクールに通い、アメリカに渡って40年以上になるサムさんのアイデンティーについて。

「僕の外見から『外人さんや』って言われることが多いけど、中身は日本人です。将来?日本を訪ねるのは好きだし友達も大勢いるけど、住むのはずっとこっちでしょうね。日本は僕には狭すぎる。LAはなんといっても広いし、気候が良くて気持ちいいですからね」。

今後も少しでも多くの人に日本のカルチャーを伝え続けていくために、アメリカでラジオ経営に取り組んでいく覚悟だと話してくれた。

 

*TJS公式サイト: http://www.tjsla.com

 

© 2023 Keiko Fukuda

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このシリーズについて

アメリカ各地で発行されている有料紙、無料紙、新聞、雑誌などの日本語媒体の歴史、特徴、読者層、課題、今後のビジョンについて現場を担う編集者に聞くシリーズ。 

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執筆者について

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2020年7月 更新)

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