ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2012/9/20/temaki-zushi/

手巻き寿司:ウェルカムホームパーティ

食は、私たちが生きる上で欠かすことのできないものです。私たちは、食事をすることで生きるために必要な栄養やカロリーを摂取するとともに、食を通して他者と関わっています。母はいつも、「食事を美味しく感じられるのは有り難いこと。いつか味がわからなくなる日が来たらとても寂しいわ」と言っていました。そしてこの言葉は、日本に住む祖母が、味付けがうまくできなくなり、夫のために食事を作る喜びを失い、料理をしなくなったと聞かされた私の心に、どっと押し寄せてきました。私は、弟たちと私が日本へ帰国する度に最高のお料理で歓迎してくれた祖母に、今回のこの投稿を捧げます。

2006年の祖父母との日本国内旅行

私の記憶にある限り、祖父母は、私たち一家が千葉の実家に帰省する度、いつも最高のごちそうを準備してくれていました。いくつものテーブルの上に、従兄弟や叔父叔母、そして私たち一家を迎えるための、刺身や卵焼き、キュウリ、鰻、海苔、ご飯、そしてみそ汁が並べられました。祖父母は、家族のための手巻き寿司パーティでいつも私たちを歓迎してくれました。

パーティの準備は、家族皆で協力して行いました。暗くて埃っぽい押し入れから、小さなちゃぶ台を全て引っ張り出し、居間に並べ、テーブルの行列ができました。大きかったり幅が広かったり、サイズはまちまちでしたが、全員がその周りに座るための十分なスペースを確保しました。次に、座布団をきれいに並べ、宴の準備をしました。アメリカで育った私にとって、あぐらをかかないように座布団に座るのは至難の業でした。日本では、今でも女性のあぐらは良く思われません。

食べ物が運ばれ、様々な種類の魚や材料をいくつものテーブルの上にまんべんなく配置することは、大きなパズルを並べるようなものでした。魚を乗せる皿の多くが祖父母の手作りということもあり、形がいびつだったり不揃いだったりすることで、配置するのは本当に大変でした。でも、なんとか全てが卓上に収められ、いよいよ食べ始めます。いただきます!

手巻き寿司を食べるには、実はもう一手間かかります。手の平に1枚海苔を乗せ、ちょうどいい量のご飯をその上に乗せます。そして、ご飯粒を押し潰さないよう平らにし、具を選び、落ちないように好きなだけ乗せます。ちょうどいい量の刺身をとるのはいつも難しいのですが、欲張って全部乗せてしまいたくなると大変です。最後に、自分で巻いた手巻きを醤油とわさびにつけます。さあ召し上がれ!

たくさんのテーブルを囲んでの楽しい夕食

子供は麦茶やカルピスでわさびの辛みを流し込み、大人はとっておきの酒や焼酎を飲みます。この時間は本当に楽しく、親戚たちと互いの近況報告をし、お腹がはち切れそうになるまで食べ続けるのです。

私は、手巻きパーティを、日本への帰国のハイライトの一つと考えていたので、パーティの準備が年老いた祖父母の手に負えなくなり、やめてしまった年、とても切ない気持ちになりました。でも、この頃から私は、自分で手巻きパーティをするようになりました。大学へ行き始めると、私は友人たちをアパートに招き、日系人や日系以外の人たちとこの食文化を共有するようになりました。

かつて、私たち一家の帰国を歓迎するパーティだったものが、今では私の生活の一部となり、アメリカに居る周りの人たちと共有できるものとなりました。私がもう少し年をとり、自分の家庭を持った時、私はこの伝統を継承し、自分の子供たちのために手巻きパーティを開くでしょう。日本文化を紹介する最良の方法は、手巻き寿司の他にはないと思うのです。

© 2012 Eri Kameyama

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このシリーズについて

世界各地に広がるニッケイ人の多くにとって、食はニッケイ文化への結びつきが最も強く、その伝統は長年保持されてきたました。世代を経て言葉や伝統が失われる中、食を通しての文化的つながりは今でも保たれています。

このシリーズでは、「ニッケイ食文化がニッケイのアイデンティとコミュニティに及ぼす影響」というテーマで投稿されたものを紹介します。

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執筆者について

亀山絵里さんは、UCLAでアジアンアメリカン研究を専攻し、「Acts of Being and Belonging: Negotiating Shin-Issei Transnational Identitie」と題した修士論文を執筆し、近年修士号を取得しました。現在亀山さんは、日系アメリカ人市民同盟(JACL)のパシフィックサウスウェスト地区で、プログラムアソシエイトとして働いています。

(2012年9月 更新) 

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