ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2012/10/19/grandmas-pickles-story/

Grandma’s PICKLES Story: おばあちゃんのRAKKYOを世界へ発信

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① 祖母自家製の漬物の味

ハワイのスーパーで売られている漬物。 様々な種類の漬物製品が店頭に並んでいる。最近では、プライベートブランドの商品も目立つようになってきた。※写真は、M.URADOMO FARMS, INCのMAUI TAKUAN.

現在、アメリカの日本食スーパーマーケットには、様々な日本食品が売られている。その中でも漬物の種類は数多く、浅漬けから、ぬか漬けなどの古漬けまで、その食材もしょうが、きゅうり、白菜、らっきょうなど様々である。

最近では、日本からの輸出品だけではなく、現地の日本食品の製造業者が、漬物を製造し、販売しているプライベートブランド製品も見かけるようになった。漬物の味も、現地向けに多少のカスタマイズはされているものの、日本の漬物の味とほぼ変わらない。

アメリカのスーパーで売られているこの漬物であるが、日本でも同様、スーパーで既製品として売られている。しかし、九州の田舎で育った私にとっては、“漬物=家庭での手造り(Homemade)”というイメージが大変強い。

というのも、幼い頃から、農家だった祖父母の元で、家では祖母の自家製らっきょうや梅干しを食べて育ったからである。毎年、旬の野菜が収穫されると、祖母は家で漬物を作り、一年中保存食として、食卓にあがっていた。それが田舎育ちの私にとっての日常だった。

祖父母と母親の子供の頃の写真。 九州の田舎で農家を営んでいた祖父母と祖母に抱かれる幼い母親の写真。当時から田舎では様々な種類の漬物を家庭で作っていた。

② 日本食文化を通して感じる家族のルーツ

私は、大学を卒業後、大学院で勉強するために、3年程ホノルルで生活することになった。当時からたまたま祖母方の叔父家族がホノルルに移民し、日系人として暮らしていた。以前から家族間の交流があったものの、会ったこともない親戚を頼って、海を渡った私が見つけたのが、そこに根付いている日本食文化である”TSUKEMONO”と、そこにある日系人としての私たち家族のルーツである。

日本の祖父母と全く同じ世代のアメリカの日系二世のGrandma SusieとGrandpa Georgeの食生活は、日本の祖父母と同じような食生活だった。料理が得意のSusieは、自家製のたくあんやショウガ漬けを作っており、日本から遠く離れたホノルルでも食卓に漬物が並んでいた。SusieのTSUKEMONOレシピは、日系一世である自分の母親の世代から受け継いだらしい。また、私が幼い頃、私の祖母がホノルルの親戚にらっきょうや梅干しなどの日本食品を送ったりしていたようで、その頃から祖母は手紙とともに、自家製漬物のレシピを送っていたようだった。この頃からすでに、海を越えて日本食である漬物が家族のルーツをつなげていたのである。

また、Susieは、自家製のTSUKEMONOをアメリカ本土にいる家族や日系人の親戚たちへ送ってあげていた。ここにも、家族の絆やつながりを大事にするという日本人の家族に対する考え方が根強く残っていると感じる。

ホノルル、モイリイリ本願寺の仏教婦人会のメンバーと一緒に。 ハワイの日系人のおばちゃんたちは、いつ会ってもとても元気で明るい。年に二回お寺に里帰りする度に、いつも温かく迎えてくれる。

③ TSUKEMONO文化を世界へ発信

私は大学院で、ホノルルの日系人コミュ二ティー開発について研究したのもあり、在学中から、修士論文で取り上げた浄土真宗ハワイ本派本願寺教団の仏教婦人会のメンバーたちと交流することが多くあった。

ハワイのKahumana Organic Farmで栽培されているオーガニックのトロピカルフルーツや野菜。現地生産の野菜や果物を使って、日本独自の調味料祖母から受け継いだレシピで、オリジナルの漬物を製造、販売するビジネスを立ち上げたいと考えている。

現地の日系人のおばちゃんたちは、私が年に一度里帰りする度に、祖母に頼んで作って持ち帰るらっきょうや梅干しを待ち望み、少しずつお裾分けしてあげると大事に食べると言って喜んでくれた。祖母の自家製漬物のように、日本の田舎の家庭で手作りされた味は、日系人のおばちゃんたちにとって、彼女達の祖母や母親の味を思い出させてくれるらしく、大変人気だった。この日本の田舎の家庭での味である祖母のらっきょうや梅干しの味を、アメリカで再現させたいと考えている。

ただ、らっきょうや梅干しのように、収穫時期が年に一度しかない食材は、ハワイで栽培するのは難しく、大半がアメリカ本土や日本からの輸入製品になってしまう。

そこで私は今、現地で生産されたオーガニックを中心とした野菜やフルーツを使って、日本独自の酢、醤油、味噌などの調味料と、私が祖母から受け継いだレシピで、オリジナルの漬物製品を製造、販売するビジネスを立ち上げたいと考えている。そこには、私が祖母から受け継いだ日本古来の食文化の継承という観点だけではなく、これまで私がアメリカでの生活の中で、日系人コミュ二ティーとの交流を通して学んだ”日本の食文化を通して家族のルーツや絆を大事にし、それを後世に継承していく“というスタイルを提案したい。

私がホノルルでのGrandma SusieとGrandpa Georgeとの生活を通して、遠く離れた海外でも、日系人たちによって、日本の食文化が強く受け継がれていること、そしてそれが家族のルーツをつなぐ大事な役割を果たしてきたという事実を、私なりの見解で国内外の日本人、日系人に向けて発信していきたい。

現在商品開発中のらっきょう製品。(Granma’s Pickles Story Seriesの第一弾として、まずはらっきょう製品を開発。今後は様々な食材と漬物の種類を展開予定)祖母のレシピと秘伝の調味料を使って、現在らっきょう製品開発中。定番の甘酢漬(Sweet Vineger)だけではなく、塩漬、はちみつレモン漬、赤ワイン漬、溜まり醤油漬、キムチ漬(Salt, Honey Lemon, Red Wine, Tamari Shoyu, Kimuchi)など日系三世や四世の若い世代に向けてもアピールした商品展開を目指す。これから世界の日系人のために、祖母のらっきょうを売るのが私の夢です。

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このエッセイは、「いただきます!」編集委員のお気に入り作品に選ばれました。こちらが、編集委員のコメントです。

長島 幸和さんからのコメント:

なかなか優れた書き手が多く、それぞれエッセイとして面白く読ませてもらったが、今回のテーマに沿った話として、後藤麻美さんの作品を選んだ。

そこには三つの話がある。まず、ホノルルの叔父家庭に根付いている漬物が家族のルーツをつなげるという役割を果たしている話、二つ目は、筆者が日本から持ち帰った手作りの漬物が仏教婦人会のおばちゃんたちに彼女ら自身の母親の味を思い出させるという、心理的な役割を果たしている話、そして、そうした二つの「発見」が筆者に漬物のビジネスを立ち上げたいという気持ちを育てた話だ。そうした話が簡潔にまとめられており、筆者のビジネスへの意気込みも感じさせる。ぜひともビジネスを成功させてほしいと思った。

中町泰子さんのエッセイも、チャプスイ・レストランが果たしていた役割と、客がどのようにフォーチュンクッキーを楽しんでいたかに触れた部分が面白かった。

中牧 弘允さんからのコメント:

二世の親戚をたよってホノルルに留学した著者がみいだしたTsukemono(漬物)の味。それはアメリカ人になじみの酢漬けキュウリのPickles(ピクルス)ではなく、二世のGrandma(おばあちゃん)がつくるたくあんやショウガ漬けだった。仏教会に集う日系の高齢者たちもラッキョや梅干しなど、日本の漬物が大好物のようである。

たかが漬物、されど漬物。食文化の伝統は家族や団体を通じて引き継がれていくが、くわえてビジネスとして味の継承をかんがえているところが興味を引いた。

微妙な味覚が民族的アイデンティティーだけでなく、海外ビジネスにも通じるところがグローバルと形容される現代の特徴でもあろう。

なお、ブラジルのおかきと花梅の梅干しをとりあげた木村直美さんのエッセイとフォーチュンクッキーの通説に異を唱えた中町泰子さんの小論も甲乙つけがたかった。

 

© 2012 Asami Goto

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このシリーズについて

世界各地に広がるニッケイ人の多くにとって、食はニッケイ文化への結びつきが最も強く、その伝統は長年保持されてきたました。世代を経て言葉や伝統が失われる中、食を通しての文化的つながりは今でも保たれています。

このシリーズでは、「ニッケイ食文化がニッケイのアイデンティとコミュニティに及ぼす影響」というテーマで投稿されたものを紹介します。

編集委員によるお気に入り作品はこちらです。

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執筆者について

University of Hawaii at Manoa, Shailder College of Business にて、MBAを取得。研究分野は、都市行政。ホノルルモイリイリ地区における日本人コミュ二ティ開発について研究し、修士論文では、浄土真宗本願寺派、ハワイ本派本願寺教団の組織形成と文化的継承について執筆。在学中から、仏教婦人会の活動や、日系人地域社会に密着した活動にも積極的に参加。趣味は、切手収集と消しゴムハンコ制作。

(2022年2月 更新)

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