ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2024/3/29/kikkoman/

第10回 クロ―バルなおいしさ届けるキッコーマンブラジル

尾崎英之社長

第10回目はキッコーマンブラジル商工有限会社(以下、キッコーマンブラジル社)の尾崎英之社長に話を聞いた。

日本を代表する醤油メーカー・キッコーマン株式会社のブラジル子会社、キッコーマンブラジル社が2021年11月にブラジルで製造した本醸造しょうゆの販売を開始したニュースは記憶に新しい。日本の伝統的な製法と品質を守り、大豆、小麦を主原料として生産する同社の商品は、しょうゆとともに歩んできた日本人移民の歴史に大きなインパクトを与え、新たな「おいしい記憶」を積み重ねている。


日本人移民と歩んで89年

キッコーマンブラジル社が現在販売する製品は、しょうゆ・調味料系が24品、長年ブラジルで親しまれてきたAZUMA(東)ブランドの清酒が8品、「弥勒米」の名でよく知られる米が1品だ。

キッコーマンのコーポレートブランドマーク

2020年、キッコーマン株式会社はキリンホールディングス株式会社から、ブラジルで清酒、調味料を製造販売しているAZUMA KIRIN社の全株式の譲渡を受けた。これに伴い、キッコーマンブラジル社として新たなスタートを切った。

AZUMA KIRIN社の前身であるカンピーナス農産加工社は、ブラジルに入植した日本人移民のために清酒を製造・販売することを目的に1934年に設立された。当時、多くの日本人移民は過酷な労働の中で楽しみも少なく、日本酒の代わりに当時は良品が少なかったピンガ酒を飲むことで身体を壊す人も多かった。そうした社会背景を受けて、日本人移民に高品質な清酒を提供するという目的をもって設立された。

カンピーナス工場

その後、日本の調味料の製造・販売までを手掛けるようになった。特に清酒は、ブラジルで製造された本格的な清酒として、ブラジル人の間で人気となったサケピリーニャの追い風も受けて広く浸透し、国内市場No. 1の地位を築き上げた。

「おいしい記憶をつくりたい」

キッコーマングループではその目指す姿を「キッコーマンの約束:こころをこめたおいしさで、地球を食のよろこびで満たします」と定め、コーポレートスローガンに「おいしい記憶をつくりたい」を掲げている。キッコーマンブラジル社の本社入口に入ると最初に現れるのが快適なダイニングキッチンで、顧客に寄り添い伯国での嗜好や調理特性にあった商品、レシピ開発を進め、本醸造しょうゆの市場を創造していくように取り組んでいる。

本社事務所に設置されたダイニングキッチン

清澄な赤橙色、本醸造由来のうまみと芳醇な香りが特徴のキッコーマンしょうゆは、世界100カ国以上で愛用されており、どのような料理や素材にもなじむ。キッコーマンブラジル社は、世界有数の食材の多様性を持つブラジルの食文化と真摯に向き合い、その可能性を探り続けている。国内ニーズに合わせた各種調味料も開発し、同社ホームページでは有名シェフによる家庭向けのレシピも紹介している。

本醸造しょうゆベースの調味料では、少し甘めの「タレ」が売れ筋というのはブラジルならでは。他にも、香ばしいゴマ風味が特徴のゴマソースや揚げ物用ソースとしてスウィートチリソースが好評だという。

キッコーマンブランドの本醸造しょうゆと各種製品

本醸造しょうゆが現地生産されたことで、輸入品より手頃な価格で入手できるようになり、ブラジルの他のメーカーとキッコーマンしょうゆを台所に並べて料理によって使い分ける人もでてくるなど、国内のしょうゆ文化は日々進展をみせている。

グローバル感覚のフレーバー清酒

清酒“AZUMA”ブランド製品と新製品・フレーバー酒

日系社会で90年近く親しまれてきた清酒は、AZUMA KIRIN(東麒麟)ブランドからAZUMA(東)ブランドにリニューアルされ、吟醸酒、生酒などがある。昨年12月には新たな清酒の提案として、天然アロマを使用したフレーバー清酒を新発売。ブラジルで一番人気のAZUMA(東)Dourado(金ラベル)の清酒をベースに、ブラジル、アジア、グローバルをコンセプトに「タンジェリーナ×ピメンタ・ホーザ」「白茶×ゆず」「バニラ×ハチミツ」の3種類をそろえ、7月の日本祭りでも試飲を実施して好評を得た。

爽やかな軽い飲み口が、日本酒をまだ知らない人々へのファーストステップとして、また国内外の友人にも話題性のあるお土産として思わず手に取りたくなる。

ブラジルから日本の食文化に逆アプローチできるような期待感も沸いてくる、同社のクリエイティブな活動に今後も目が離せない。

キッコーマンブラジル社概要
正式名称:KIKKOMAN DO BRASIL INDÚSTRIA E COMÉRCIO DE ALIMENTOS EBEBIDAS LTDA.(キッコーマンブラジル商工有限会社) 
所在地:
サンパウロ市
工場:サンパウロ州カンピーナス市
設立年月:
1934年(キッコーマン子会社化は2020年)
従業員数:
130名(2023年3月末日現在)
事業内容:
しょうゆ等調味料の製造販売、清酒・料理酒の製造販売、米の輸入販売

 

*本稿は、『ブラジル日報』(2023年8月19日)からの転載です。

 

© 2023 Tomoko Oura

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このシリーズについて

パンデミックの厳しい環境の中でも事業を継続してきたブラジルの日系企業。コロナ禍も落ち着き始め、サステナビリティを目標とした新しい価値基準が求められる中、本連載では「ブラジルで活躍する日系企業の今」をご紹介する。ブラジル日本商工会議所協賛企画。『ブラジル日報』からの転載。

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執筆者について

1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。大学卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミを中心に取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。

(2023年9月 更新)

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