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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2023/1/20/masa-takumi/

2018年渡米、グラミー賞にノミネートされたミュージシャンのMasa Takumiさん

コメント

音楽業界の最高峰の地へ 

2023年2月、ロサンゼルスで授賞式が開催される第65回グラミー賞グローバルミュージックアルバム部門のノミニーの中に日本人の名前がある。その名はMasa Takumi。日本では宅見将典という名前で、ミュージシャン、作曲家、プロデューサーとして活躍し、プロデュースを手がけたアーティストにはEXILE、DA PUMP、AAAといった錚々たる名前が並ぶ。

Masaさんは、あるきっかけを経て2018年1月から、活動のベースをロサンゼルスに移して今に至る。なぜ、アメリカで活動しようと思ったのか、渡米後、自身に変化はあったか、さらに将来のビジョンについて、グラミー賞授賞式を1カ月後に控えた時期に話を聞くことができた。

渡米のきっかけは、2011年のグラミー賞授賞式への出席に遡る。

 「僕がバンドメンバーとして参加したアルバムがグラミー賞にノミネートされたので、会場で実際の式に出席しました。31歳でした。その時に式の演出やアーティストの圧倒的なパフォーマンスに、(音楽の)世界の最高峰がいかにすごいかということを目の当たりにし、彼ら(パフォーマー)がまるで自分たちとは違う生き物であるかのようにさえ感じたのです。特に感銘を受けたのは、僕の想像の枠を超えたアッシャーとジャスティン・ビーバーのパフォーマンスでした。

その時からアメリカに1年のうちに何カ月か滞在するようになったのですが、本格的に拠点を移すべきだと思い、O1ビザを申請しました。日本では僕の作曲した作品がレコード大賞にノミネートされていたこともあり、問題なくビザが取得できました」。

日本では安定した活動が期待されていたMasaさんだが、アメリカでの再スタートに迷いはなかったのだろうか。

「2018年1月、日本を飛び立つ日には、まるで日本から『行くな』と止められているように、大雪が降っていました。自分でも無謀だと思いましたが、スーツケース2つと機材1つを持って、ロサンゼルスでの家も決めずに飛んできました。昔からそうなんですが、やるかどうか決める時に少しでも『やった方がいい』の方に心の針が振れていたら、僕はとにかくやるんです。アメリカに対しては実はそれほど深い興味はないです。でも、ロサンゼルスが音楽業界のトップだから、ここに欲しいものがあるからということが、僕がここで活動する理由です」。


アメリカで得られた価値観

ロサンゼルスに通い始めたのは30代になってからだったが、言語の壁をどうやって乗り越えたのだろうか?

「ここでは、言葉が分からなくても仲間に入れてくれます。どうやって仲間に入れてもらえたのか?とにかく僕は楽器を弾くしかないと、楽器演奏でアピールしました。さらに、子どもの頃からマジックが好きなので、(英語が)しゃべれない時はマジックを披露して仲良くなりました」。

その腕前はマジックキャッスル(マジック業界の最高峰)に、マジシャンとしてオーディションに合格したほどだと言うから本格的だ。

そして、アメリカに暮らし、アメリカで活動することで「新しい価値観を得られた」とMasaさんは話す。

「日本にいると価値観が一辺倒になることが多いですよね。でも幸せの形は一つではないはず。アメリカに来て” Be yourself”であることの大切さを実感しました。日本では『車も持ってないの?』とか『家にテレビないの?』とかって否定的に言われたりしますけど、実際、今、日本で車を持ってないし、テレビも家にありません。そういう価値観の押し付けを日本で受けることが多いことに、アメリカに来て気付きました。アメリカにいると自分が信じていること、やりたいと思っていることをなんでも実現できるような気持ちになれます。

一方で、日本に帰る時に飛行機が羽田に近づいてくると、『ああ、俺、無理かも』と弱気になったりもします(笑)。でも、もちろん、日本は安全で食べ物が美味しいことに始まり、誇るべき文化を持つ最高に美しい国です。それに、アメリカに自分が住んでいるからといって、日本でアメリカのカルチャーを前面に押し出すようなことも絶対にすべきではないということも自覚しています」。

人の心に花を咲かせたい 

さて、今回のグラミー賞へのノミネートは5回目の挑戦で実現したのだとか。

「自分で音楽を作り、プロジェクトとして取り組んでチャレンジしてきました。今回は僕の誕生日の翌日の11月15日に、グラミー賞オフィシャルのYouTubeの配信でノミネートを知りました。周囲からは事前に『(ノミネートという)バースデープレゼントがもらえるんじゃないの?』と言われていましたが、僕自身はそう簡単にいくとは思っていませんでした。でも、発表された瞬間、ドーパミンが出てきて、嬉しさのあまり、あれだけ叫んであれだけ泣いたことはないというくらい興奮しました」。

ここにたどり着くまでに、応援してくれた人たちから受けたポジティブなエネルギーも、また必ずしも好意的ではなかった人たちからのネガティブなエネルギーも全て前に進む力に替え、音楽に注ぎ込んだと語るMasaさん、「今は(戦争も起こり)世界がおかしなことになっていますが、僕の音楽を聴く人の心にその人の花を咲かせてほしいという気持ちです」と語る。離れた母国を客観的に眺めることで再発見した「日本の美しさ」をテーマに、Masaさんが今後ますます世界的に活躍していくことを応援したい。

* * * * *


第65回グラミー賞・最優秀グローバルミュージックアルバム部門に
ノミネートされたアルバム「SAKURA

 

公式サイト: https://www.masa.world

 

© 2023 Keiko Fukuda

カリフォルニア州 グラミー賞 ロサンゼルス 宅見将典 音楽 音楽家 アメリカ合衆国
執筆者について

国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社勤務を経て1992年渡米。ロサンゼルスの日本語情報誌の編集長を2003年まで務めた後、同年フリーランスとして活動開始。人物取材、アメリカの教育事情、日本食事情などをテーマに取材を続け、2024年に郷里の大分に活動拠点を移す。その後もオンラインを通じて取材執筆活動に従事。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2024年10月 更新)

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