ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2024/3/2/bbbr/

第8回 オンリー1目指すBBBRグループ

第8回目はBBBRグループの倉智隆昌代表(40歳、神奈川県出身)に話を聞いた。2004年、21歳の時に日本からブラジルに渡り、現在四つの法人を経営している。


BBBRグループの4事業

BBBRコンサルティング:日本の中小企業へのブラジル現地でのビジネスサポート及び日本企業の技術を通じて海外の課題解決を支援する、JICAのODA(政府開発援助)案件のコンサルティング。

ラテンアリメントス:醤油やダシなど「和食に合うオリーブオイル」をコンセプトに開発した、チリ産EVオリーブオイルの日本への輸入販売。

一幸舎ラーメン

一幸舎:常に成長と革新を続ける豚骨ラーメン専門店。福岡の一幸舎元来の技術である「呼び戻し」と呼ばれる技法を忠実に再現し、またラーメン用の醤油ダレは博多から直輸入で取り寄せている。「呼び戻し」とは、熟成した濃厚なスープに新しいフレッシュなスープを加えて、一定の濃度とうま味をキープする職人技である。

「俺たちがやらなければ誰がやる」という使命感のもと、横浜発祥の「家系ラーメン」も約3年間の試行錯誤を重ねて開発。豚骨スープに鶏ガラスープを加え、親鳥の皮から取った鶏油(チー油)を加えて風味を向上させている。麺は「逆切り麺」と呼ばれる特注麺で、麺をカットする断面を大きくすることにより、その断面から水分が多く入りモチモチとした食感の麺となる。この麺を作る為だけに日本から特別な製麺機を輸入している。

一幸舎ブラジル

今年はオープン5周年を記念して、東京で食欲旺盛な若者に人気の「二郎系ラーメン」の提供も開始した。

「ラーメンキチガイ」と称されるほど、ブラジルでも本格的なラーメン店のポリシーを貫くその心意気について、「今は気づいてくれなくとも、10年後か20年後に、マーケットの発展の一助になっていることを信じて努力しています」と倉智氏は語る。

慶史(けいし):「一幸舎」のオープンを皮切りにラーメン市場に本格参入したことで、麺の需要に気づき、本格的な製麺技術を追求する為に製麺工場「慶史」を立ち上げた。デフォルトだけで12種類のラーメンの麺があり、また要望があれば顧客に合わせて特注麺の開発も行っている。

また麺だけでなく、うどん、そば、餃子、小籠包、シュウマイ、肉まん、スープ、醤油ダレなども製造し、多彩なバリエーションと確かな技術で、現在は約170店舗のレストランに商品を卸している。


BBBRグループを支える理念・使命・ビジョン

倉智隆昌代表

倉智氏は企業を経営する上で、理念や使命の必要性を強く説いている。理念や使命が確立されていないと、経済的・名声的に成功した時点で、その充足感からモチベーションを失ってしまうからである。同氏の理念は平たく言えば「世のため、人のため」であり、使命は生涯を通じて達成すべきミッションである。

BBBRグループの企業理念は「従業員の物⼼両⾯の幸福を追求し、事業を通じて社会の発展に貢献する」「利益とイノベーションを同時に追求する」こと。使命は「マイノリティーにしかできない事業を行う」「日本とブラジルの架け橋となる」こと。

ここでいうマイノリティーとは中小企業のことであり、中小企業にしかできないチャレンジを行っていくという使命感が込められている。ビジョンは「ナンバー1ではなくオンリー1を目指す」である。また事業成功の条件は「成功するまで諦めない」「一つのことを極める」「顧客が喜ぶことを最優先に考える」であると同氏は語る。

この理念や使命の通り、会社の設立以来、日系社会を入り口としてブラジルの市場に日本から新しい技術や文化をもたらしている。

シンギュラー社のメンバーと


新しい挑戦、犯罪予測AIを活用したブラジルの治安改善へ

倉智氏の新しい挑戦として、犯罪予測AIを活用した、ブラジルの治安改善への取り組みが挙げられる。これは警察組織が持つ犯罪データをAIに読み込ませることにより、将来、どの日時や場所で、どのような犯罪が発生するかを予測するソリューションである。これを活用して、警察組織がより効率的なパトロールを実施することを目的としている。

同氏は、日本の防犯技術を通じてブラジルの治安改善を促す事業に、6年余りの歳月を費やしている。今回のパートナーであるシンギュラー・パータベーションズ社は、日本で犯罪予測AIを研究するエキスパートの集まりであり、ミナス・ジェライス州ベロ・オリゾンテ市の市警で実施されたトライアルでは、2カ月間で銅線の盗難が69%減少し、十分な結果を出すことができた。

この結果を受け、現在、ブラジルとメキシコを中心とした16の警察組織からトライアル実施の要望が寄せられている。また同氏は8月に設立予定のシンギュラー社のブラジル法人のCEOに就任予定だ。

ブラジルの最大の課題ともいえる治安問題。日本のAIソリューションがどこまでブラジルの治安改善に貢献できるか、今後も真剣勝負が続く。

BBBRグループ社概要
正式名称:BBBR Servicos e Desenvolviment Empresarial Ltda. (BBBR株式会社) 
所在地:
サンパウロ、東京
設立年月:
2009年
従業員数:
49名
事業内容:
企業進出コンサルタント、食品貿易、外食サービス、食品製造

 

*本稿は、『ブラジル日報』(2023年7月22日)からの転載です。

 

© 2023 Tomoko Oura

このシリーズについて

パンデミックの厳しい環境の中でも事業を継続してきたブラジルの日系企業。コロナ禍も落ち着き始め、サステナビリティを目標とした新しい価値基準が求められる中、本連載では「ブラジルで活躍する日系企業の今」をご紹介する。ブラジル日本商工会議所協賛企画。『ブラジル日報』からの転載。

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執筆者について

1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。大学卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミを中心に取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。

(2023年9月 更新)

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