ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2024/1/19/canon-brasil/

第6回 「共生」の理念のもと幸せに暮らしていける社会をめざすキヤノン・ブラジル社

第6回目はキヤノン・ブラジル社の氷沢昌平シニアディレクターに話を聞いた。

日本からの進出企業が集中するパウリスタ大通りから少し離れ、日系人も多く暮らすメトロ・コンセイソン駅隣接の企業ビルに事務所を置く同社。ブラジルでは、カメラや複合機、プリンターを主としたキヤノン製品を販売するほか、同社の持つAIテクノロジーを導入したソリューション(業務問題解決法)販売にも力を入れている。


欧米とは異なるブラジルでのビジネス展開

主力商品のカメラ「R100」

半世紀ほど前、ブラジルの日本人移民にとって、日本製のキヤノンのカメラを持っていることがステータスだったというエピソードがある。そんな日本人移民の期待とともに1974年にキヤノン・ブラジル社は設立された。来年にはブラジルで半世紀となる同社は、これまで日本から輸入されたキヤノンのカメラやプリンター、複合機を販売してきた。

キヤノンのカメラと複合機は世界シェア一位、米国でもシェア一位を占めている。キヤノンに限らず、同業界は世界シェアを日本企業が大きく占め、カメラでは9割以上、複合機では6割をシェアしている。その大きな理由は、日本の企業以外は部品に必要な小さな精密機器を製造するのが不得手ということによる。そのため、競合となるのは海外でも多くが日本企業である。

世界全体では飛ぶ鳥を落とす勢いのキヤノンであるが、ブラジルではカメラ以外の製品の認知度や市場シェアは、他地域と比べても低い状況にある。その理由は、同社の製品が先進国で好まれる高仕様なモデルが多いため、他社製品と比べて価格が高くなるからだ。ブラジルでは安価な製品にニーズがあり、そのニーズに合わせた製品を同社は多く持っていない。

また、ブラジルでの事業展開は欧米とは異なり、オフィスでの複合機は毎月の投資額が少ないレンタルサービスが主流で、アフターサービスも含めて一つのビジネスモデルが確立されている。レンタル料の未払いや遅延、キヤノンの名前を使用した不良品の模造インクが出回るなど、ブラジルならではのトラブルにも見舞われてきたが、日系人の活躍と日本ブランドの信頼がこれまでも契約の一助になってきた。

キヤノン製品の販売以外にも特にブラジルで期待されているのが、顧客の要望に合わせたAIソルーションによるワークフローシステムの提供サービスである。キヤノンの製造で培われてきた高度なテクノロジーによる業務の効率化やペーパーレス化で、いつでもどこでも確実に必要な書類を検索して印刷できることや、医療現場などでは最速にデータを引き出せるきめ細やかなサービスが高評価を得ている。

パンデミック中、予想外に伸びた売上げ

氷沢昌平シニアディレクター

氷沢氏は2018年にブラジルに赴任し、パンデミック前から今日まで、同社の責任者として危機対応に迫られた。パンデミック直後は多くの企業が社員の出社を制限し、事務所での活動を行わなくなったことで、オフィス機器の売上げが停止した。暗雲が立ち込めはじめたと思った矢先、ホームオフィスとなったことで家庭用プリンターの売上げが急増した。

また、同社がブラジルで直接販売するカメラは関税などを含めた正規価格となっているが、ブラジル市場にはパラグアイ経由で仕入れられた税抜きの安い商品が出回っており、平時はそれらに売上げが吸われてしまっていた。しかし、パンデミックに入ってから約1年半はパラグアイからの流通がストップし、同社の商品がブラジル市場をシェアできる形となった。

結果、パンデミック期間は通常よりも売上げが伸びた。「人間万事塞翁が馬」と氷沢氏は振り返る。

主力商品のInkjet プリンター「GX7010」


「共生」が世界共通の企業理念

キヤノンは「共生」の理念のもと、文化、習慣、言語、民族を問わず、すべての人類が末永く共に生き、共に働き幸せに暮らしていける社会をめざす。ブラジルオフィスの各会議室には、「ブラジル」「日本」他、世界6州の名前が日本語とポルトガル語で記され、暖かな雰囲気が醸し出されている。

日ポ両語で会議室名「アフリカ」と記された事務所の一室

同社ではESG(環境、社会、ガバナンス)への取り組み必要性がいわれる以前から、インクカートリッジの回収とリサイクルを進め、親睦活動を兼ねて社員家族らとサントス海岸のゴミ拾いを行うなど、身近なところから環境に配慮してきた。

社員の吊り下げ名札ケースには、「共生」ともう一つの企業理念である「三自(自発、自治、自覚)の精神」をポルトガル語で説明した札がお守りのように入れられ、社内の一体感を高める努力も日々積み重ねられている。 

キヤノン・ブラジル社
正式名称:Canon do Brasil Indústria e Comércio, Ltda.
所在地:サンパウロ市
設立年月:1974年
従業員数:262名(2023年4月)
事業内容:家庭及びオフィス用のプリンター、スキャナー、複合機、商業印刷機、カメラ、レンズ、映像機器の販売、ソリューション販売

 

*本稿は、『ブラジル日報』(2023年6月17日)からの転載です。

 

© 2023 Tomoko Oura

ブラジル ビジネス キヤノン・ブラジル社 経済学 日系企業 経営 サンパウロ
このシリーズについて

パンデミックの厳しい環境の中でも事業を継続してきたブラジルの日系企業。コロナ禍も落ち着き始め、サステナビリティを目標とした新しい価値基準が求められる中、本連載では「ブラジルで活躍する日系企業の今」をご紹介する。ブラジル日本商工会議所協賛企画。『ブラジル日報』からの転載。

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執筆者について

1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。大学卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミを中心に取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。

(2023年9月 更新)

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