ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2023/7/17/joshua-thomson/

日本で生まれ育ったイギリス人 — ジョシュア・トムソンさん

祖父母の代で渡日

ある時、「You Tube」のお薦め動画に白人男性とアフリカ系女性との対談が上がってきた。薦められるままに見始めたが、気付くとあっという間に26分の動画を見終わっていた。

どこが面白かったのか?まず、動画の発信者の白人男性ジョシュア・トムソンさんもゲストのティファニーさんも日本語がネイティブ級に上手だったこと。そして外見から判断すると明らかに「日本人ではない」二人が実は日本で育っていたこと(つまり日本語がネイティブだということ)。ジョシュアさんの動画からは、「ほとんど表には出ていない日本の多様性」が実感を伴って伝わってきた。

姉のアリーシャさんと。ジョシュアさんの動画でたびたび共演。  

こうして、ジョシュアさんの動画に出会った後、日本生まれ育ちながらさまざまなバックグラウンドを持つ人々をゲストに招いたジョシュアさんの動画シリーズ『ジョシュアinロンドン』を私は次から次へと見続けた。それによってジョシュアさん自身が誰なのかも分かってきた。

彼の祖父母は父方、母方共にプロテスタント系のキリスト教宣教師として、日本に1950年代から60年代に日本に渡ってきた。父方の祖父はオーストラリア出身、母方の祖父はニュージーランド出身だが、ジョシュアさん自身の国籍はイギリス。その理由は、ジョシュアさんの父方の祖母の故郷であるロンドンで、ジョシュアさんの父親が生まれたことでイギリス国籍となったからだ。

ジョシュアさんは1990年代に東京で生まれ、埼玉県で育ち、日本の公立小学校、インターナショナルスクールの中学、さらに地元埼玉県の公立高校に在籍した。

義理人情を大事にする

ロンドンで「自分を愛せるようになった」とジョシュアさん。

動画を見たことで、ジョシュアさんのアイデンティティーをさらに深掘りしたくなった私は、現在ロンドン在住のジョシュアさんとのインタビューを敢行。最初に「自身を何人だと思うか?」という直球の質問を投げてみた。

「誰と話しているかによって、自分をどう紹介するかは違ってきますね。イギリス人から聞かれたら『I am from Tokyo, I grew up in Japan』と答えますし、相手が日本人だったら『日本育ちのイギリス人なんです』って答えます」。

次に、「周囲の日本人とは違うな、と自覚したのはいつか?」と聞いた。

「実は3歳から5歳までアメリカで生活したことがあって、その時に『自分はここの国の人なんだ』と思ったんですね。でも、やたらと日本語が生活の中に入ってくるわけです。親が日本語で会話していたし、親戚が日本から遊びに来たこともあったし。その後、日本に戻って1年間、家で母親に日本語を習ってから幼稚園の年長組に入りました。幼稚園で『ジョシュアくん、なぜ目が違うの?』とか『髪の毛が違う』と他の子どもに言われて、自分の家族は日本人じゃないけど日本に住んでいるんだということを認識するようになりました」。

つまり、ジョシュアさんは日本社会に属していないように感じていたようだ。

普通に受け入れてもらえた公立高校時代。

その疎外感を脱することができたのは、公立高校に通っていた頃だと振り返る。

「高校の友達が『トムソンは外人だよね。だから何?』って感じで、普通に受け入れてくれたんです。中学ではインターナショナルスクールに通ったんですけど、英語で人と話すのが苦手だったし、自分は日本人と一緒にいた方が心地いいことに気付きました。それはおそらく、自分のユーモアのセンスが日本的だからだと思います。

でも、今度は高校の時に『The OC』というアメリカを舞台にしたドラマを見始めて、英語っていいじゃんって思うようになったんです。それをきっかけに、もっと自分のルーツとつながりたい、そのために英語も楽しみたいと思うようになりました」。

その後、ジョシュアさんはモデルなどの芸能活動を経た後、2022年にロンドンに引っ越した。今改めて自分の中に感じる日本人的な点、日本人的ではない点とはどんなところだろうか?

「日本人的なところは、何事にも丁寧なところですね。人間関係でも義理人情を大事にします。イギリス人ってそこのところがゆるいなって思います。人と人との関係性が弱いんです。それから日本人って人の話を聞くのが得意ですよね。僕もそうです。(日本の)学校では『人の話を聞く』ことを徹底的に教え込まれますから。

逆に日本人的でないところは、日本人の家庭で育ったわけではないので、日本的な行事や習慣を100%理解してない点です。たとえば友達の家に行って仏壇があったりすると『日本(の家)だな。自分は日本の人じゃないんだな』と実感しました」。

日本人が知らない世界を動画で伝えたい 

こうして、日本で生まれ育ちながら日本語と英語、日本人的な部分と日本人的ではない部分などを行ったり来たりしていたジョシュアさんだが、イギリスで変化が生じたと打ち明ける。

「日本にいると、どうしても『外人のジョシュア』という目で見られます。でも、イギリスに来て自己肯定感が強くなり、自分を愛せるようになりました。同時に日本の外に出ることで、なぜ外国人が日本に行きたがるのかという本当の理由を知りました。以前は、西洋とは違う物珍しさが理由なのかと思っていたけど、日本料理の繊細さをはじめとして文化の奥深さが魅力なのだと今は理解できますね」。

今後は動画を通じて、日本人が知らない世界の情報を伝えていきたいとジョシュアさんは話す。

「日本はガラパゴス化しているから、このままだと世界に置いていかれるんじゃないかと思います。僕が動画を配信している理由は、日本の方に知らない世界を伝えるお手伝いがしたいということです。僕の動画を見た人が新しい価値観を得ることができたらうれしいです」。

 

YouTube:『ジョシュアinロンドン
Instagram:@jj.jj.7

 

 

© 2023 Keiko Fukuda

日本 多文化主義 (multiculturalism) 在日非日系人
執筆者について

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2020年7月 更新)

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