六几 なお

(むつき・なお)

フリーランスライターの六几なお(ペンネーム)は、1991年京都生まれ。京都精華大学卒。ボストンに留学経験あり。趣味は心をざわつかせる創作物にふれること、旅、買い物、カフェ巡り。自身の文章をたくさんの人に読んでもらうため奮闘中。

(2022年6月 更新)

community en ja

第9回 イマジン・リトル東京ショートストーリー・コンテスト

教えて

私は美しい。 パパから「ノアがこの世で一番可愛いよ」と言われて育ったから、何の迷いもなく自身が美しいのだと、物心ついた頃から知っていた。 カフェテリアで配膳される量が人よりも多かったり、話したこともない人間から告白されたり、連絡先を渡されたり。 赤の他人から与えられる好意の積み重ねがパパの言葉を裏付け、いつしか私の自信となった。 「ねぇ、パパは自分がかっこいいと気付いたのはいつ?」 右手に持ったマグカップから、淹れたてのコーヒーが湯気を立てている。シカゴで開催される学会に参加する為、早朝に家を出たママを見送り一息ついていたのだろう。 もしママが今この場に居たとしたらこんな質問はしなかった。 男女差別の激しい日本を飛び出し、海を渡ってアメリカで教授になった度胸も勇気も間違いなく尊敬に値するけれど、事実としてママは美しくはない。一六〇センチに届かない身長と、適当に括ったポニーテール。化粧気のない平らな顔と地味な洋服。勉強しなさいと叱る声は低くて男みたい。 「多分ノアと同じくらいだよ」 口角をきゅっと釣り上げる、パパの笑い方が大好き。若い頃モデルをしていたパパは、年を取った今でも十分にかっこいい。すらりと伸びた手足と輝く金髪に、晴れた日の空みたいに透き通った碧。優しくて人懐っこい性格。パパと出会った人はほぼ全員、パパの事が好きになる。 私のすべてはパパ譲りで、ママの…

続きを読む