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第20回メキシコ日本語教師合同研修会を終えて - その2

その1>>

多言語環境で育つ子ども達が一世と違うところは、個人の中で複数の言語と文化が融合した独自の存在だという点です。

日本語、スペイン語、どちらの言語・文化も彼らの一部なのです。従って、二世以降の子どもたちを、一世が持ちがちな日本人かメキシコ人かというような二者択一的なアイデンティティー観で捉えることに無理が生じてきます。多言語環境で育つ子どもたちには、多言語話者、多文化が融合したアイデンティティーを持つ個人としての自尊心を育てるような支援が必要だと思います。

放っておくと社会の主要言語に押されてしまいがちな継承語を維持、発展させていくには、家庭、教育機関、継承語コミュ二ティーが連結し、それぞれが違った役割を果たさなければならないと言われています。

家庭の最も大切な役割は、何と言っても、子どもの言語発達の確固たる基盤を作ることです。なぜなら、乳幼児期の豊かな言語体験が就学後の二言語発達に大きく関わってくるからです。子どもの言語発達の基盤を作るには、保護者が自分の自信のある言語で、まだしっかりとは話せない乳幼児期から、子どもと積極的に関わっていくことが必要です。できるだけ多く子どもに話しかける、子どもの話を聞く、一緒にことば遊びや歌を楽しむ、読み聞かせをしたり、一緒に本を読むなど、毎日の積み重ねが幼い子どもには大きな意味を持ちます。

さらに、国際結婚などで多言語を使用する家庭では、一人一言語の原則が効果的だと言われています。例えば、母親とはいつもスペイン語、父親とは日本語、あるいは、家では日本語、外ではスペイン語というように、人と場面に応じて言語を一貫して使い分ける言語環境を作り上げれば、子どもは混乱することなく、何カ国語でも使い分けるようになると言われています。

学校の役割は家庭ではできない言語教育を提供することです。読み書きを中心とする学習言語力の育成、一貫したカリキュラムに基づいた教科学習などは、個々の家庭で行なうのは難しく、学校教育が得意とする分野です。また、学校には同年代の子どもが集まり、一緒に勉強したり、遊んだり、けんかしたり、妥協しあったりと、子ども同士の様々なインターアクションがあります。家庭以外の場所で、同じような言語環境にある気の合う仲間と出会い、自分の居場所を築き上げていくことは、子どもにとってかけがえのない財産になると思います。

コミュニティーの役割は集団としての活力を保持することです。継承語集団が活力に溢れ、自分たちの言語文化を積極的に次世代に継承しようとすれば、人々の帰属意識が高まり、子ども達の継承語は加算的に伸びていくと言われています。反対に、継承語集団に活力がなく、帰属意識が劣等感に結びついてしまうと、年少者はそれを敏感に感じ取り、主要社会に同化したいがために継承語を否定するようになります。

様々な文化活動を行い、継承語教育を支援し、現地や日本とのネットワークを広げることは、その集団に属する人々の連結感を高めるだけでなく、集団を活性化させ、現地コミュニティーに貢献することにもなります。現地で高い評価を受ける存在となることが継承語集団が発展する鍵になると思います。

私の訪れたメキシコでは、以上の三者がうまく連動し合い、それぞれが次世代の日本語教育に違った貢献をしていると思いました。

日本語が話せること、そして日系社会が社会的に高く評価されている印象を受けましたし、JICAなど日本の政府機関から継承語教育に支援を受けているのも心強いと思いました。学校訪問からは、先生をはじめ学校関係の方々が信念を持って子ども達の教育にあたっていらっしゃる様子が伺えましたし、講演会に出席された保護者の方々の言語教育に対する関心の高さにも心強いものを感じました。ややもすると英語一辺倒になりがちな米国に住む私はメキシコの日系社会についてもっと学びたいと思っています。

*本稿は日墨協会 のニュースレター『Boletin Informativo de la Asociación México Japonesa』155号(2012年5月)からの転載です。

© 2012 Yoshiko Mori

バイリンガル教育 バイリンガル能力 教育 継承語 日本人 言語 言語マイノリティ メキシコ マイノリティ
執筆者について

ジョージタウン大学東アジア言語文化学部准教授、日本語プログラム主任。南山短期大学英語学科、南山大学外国語学部英米学科卒業後、愛知県と東京都で高校の英語教諭を勤める。その後渡米し、オハイオ大学言語学部大学院で修士号、イリノイ大学アーバナ・シャンペーン校教育学部教育心理学科大学院にて博士号を取得。専門は心理学的見地から見た第二言語習得。

(2012年10月 更新)

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