ニッケイ物語 #10—ニッケイの世代:家族と コミュニティのつながり

ニッケイ物語 #10
ニッケイ物語 #10—ニッケイの世代:家族と コミュニティのつながり

「ニッケイ物語」シリーズ第10回では、テーマ「ニッケイの世代:家族とコミュニティのつながり」として、世界中のニッケイ社会における世代間の関係に目を向け、特にニッケイの若い世代が自らのルーツや年配の世代とどのように結びついているのか(あるいは結びついていないのか)という点に焦点を当てています。

ディスカバー・ニッケイは、今年5月から9月末までストーリーを募集し、11月8日をもってお気に入り作品の投票を締め切りました。全31作品(日本語:2、英語:21、スペイン語:3、ポルトガル語:7)が、オーストラリア、カナダ、日本、ニュージーランド、ブラジル、米国、ペルーより寄せられ、数作品は多言語による投稿でした。

本シリーズへ投稿してくださった皆さん、どうもありがとうございました!

このシリーズでは、編集委員とニマ会の方々に、それぞれお気に入り作品の選考と投票をお願いしました。下記がお気に入りに選ばれた作品です。

ニマ会によるお気に入り

奉仕の精神
トロイ・ミヤザト


編集委員によるお気に入り

日本語 | 英語 | スペイン語 | ポルトガル語

日本語:

  • お役に立つ喜び ー 日本語勉強会
    石井 かず枝

    小嶋 茂さんのコメント
    応募があった2点の作品は、ともに書き出しが巧みで、一気に読み終えた。一つは日系ブラジル人二世として地域社会へ奉仕活動する話。もう一つは二世第1号紹介にまつわる話である。

    前者は、奉仕として始めた日本語勉強会のきっかけが、音が似ている「組織」と「葬式」の勘違いに関する説明だったこと。多様な学習者が集まった中で会が続いた秘訣は、真心を尽くす努力と笑い声が絶えない明るい雰囲気であったことが明かされる。後者は、葬式の知らせかと思われた電話が、同船者仲間からの連絡で、二世第1号の娘さんと出会い、みんなに知らせたいという内容である。

    ともに読後感は爽やかで心温まり、甲乙つけ難い。1点のみに絞るのは辛いが、共感性の高い前者、石井かず枝さんによる「役に立つ喜び ー 日本語勉強会」をお気に入り作品としてお勧めしたい。

英語:

  • バアチャン、あなたの庭の様子はね
    キーラ・カラツ

    クリスティン・パイパーさんのコメント
    今年の英語作品から私が選んだのは、キーラ・カラツさんの「バアチャン、あなたの庭の様子はね」です。カラツさんは、年中行事で家族が集まるありふれた習慣を皮切りに移民達のコミュニティにおけるとても重要な概念である家族、受け継いできたもの、そして、習慣の真意を掘り下げています。また、より広い考えを暗に示しながら、「世代」のテーマにうまく繋いでいます。いつ、伝統は現代に対し切り札となるのでしょうか?私たちにとって最も大切な価値観とは何でしょうか?想像を駆り立てる描写や、比喩を活用する文学的要素はこの物語の基盤となり、静寂の空間を作り出しています。だからこそ、この作品を読む行為そのものが、作者も言及するように、私たちを取り巻き変容し続ける“ファスト”カルチャーの解毒剤となるのです。その深さと抑制が見事な「バアチャン」は、美しく希望にあふれた物語です。

スペイン語:

  • 悲しむべき友情の終わり
    ホセ・ヨシダ・セリカワ

    セバスティアン・カカズさんのコメント
    著者のホセ・ヨシダ・セリカワ氏は、「悲しむべき友情の終わり」のエッセイを通し、第二次世界大戦での日本の立場に対して見方が異なってしまったがゆえに、移住や就労、困難を共にしてきたなかで築いてきた兄弟愛に大きな亀裂が入り、残念ながら終いには友情を失ってしまったという悲しい出来事を綴ってくれました。この物語は、これまであまり話されてこなかった戦争中に発生した多くの対立や分裂が描かれています。ただ、あの戦争が起きなければ、彼らの友情はそのまま継続し、もっと深まったのであろうか。この問いに対する明確な答えはありませんが、私はそうであって欲しいと思います。とても大事な友情関係を失ってしまったというこのような出来事が、我々の手に負えない状況で起こったということを考えさせられます。これは、今の分裂・分断が多い世界を示唆するものでもあり、多くの体験をしても我々はこうした教訓から何を学んだのであろうか、と考えさせられる内容でした。

ポルトガル語:

  • 二人のおじいちゃん
    アナ・シタラ

    クラウディオ・H・クリタさんのコメント
    このプロジェクトの編集委員の一員になれて、とても光栄です。今年のテーマ「ニッケイの世代:家族とコミュニティのつながり」に応募があった多くのエッセイは素晴らしく、執筆者の方々は、それぞれ、自分の体験をしっかりと語っていて、その中でも、アナ・シタラさんの「2人のおじいちゃん」は感動的でした。

    この作品を読んでいると、読者は作品の中へ自然に引き込まれ、自分の祖父母のことを思い出し、その生きた時代が思い浮かびます。そして、どの家庭にもある激しくぶっつかり合う愛情、感情、後悔という様々な気持ちが描かれていることにより、読者はその内容に親しみを感じることができます。

    また、著者の祖父は教育を大切に思っていたと書かれています。これは一世・二世の世代の考え方でした。子供たちの将来のために、親たちは一生懸命に働きました。初代の努力のお陰で、今の若い世代の多くは経済的、社会的位置が高く、様々な分野で活躍しています。

    私は父方、母方の両方の祖父母に感謝しています。アナ・シタラさんにも感謝しています。なぜなら、このエッセイを通して、私の祖父マルオさんやアキカズさんのことを思い出したからです。二方にお礼を申し上げます。

    ディスカバー・ニッケイのプロジェクトに参加させていただき、ありがとうございます。世界中の日系コミュニティの文化を一つにして、それを広めていくサイトの役割は見事で大切だと思います。

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編集委員

編集委員の皆さんのご協力に、心より感謝申し上げます。

  • 日本語
    小嶋茂: 新潟県三条市出身。上智大学卒。ブラジル国パラナ連邦大学歴史科修士課程修了後、東京学芸大学などの講師を経て、JICA横浜 海外移住資料館設立に関わる。早稲田大学 人間総合研究センター招聘研究員。移民史、移民研究。主な著作に「日系コミュニティの将来とマツリ」(山本岩夫他編『南北アメリカの日系文化』人文書院、2007年)、「日本人移民の歴史から在日日系人を考える-ブラジル移住百周年と日系の諸相」(『アジア遊学』117、勉誠出版、2008年)、「海外移住と移民・邦人・日系人」(駒井洋監修『東アジアのディアスポラ』明石書店、2011年)。

  • 英語 
    クリスティン・パイパー: 日豪ミックスレイスの作家。デビュー小説『After Darkness』(アレン&アンウィン、2014)では、第二次世界大戦中に敵性外国人としてオーストラリアで強制収容された日系人医師を描いた。この作品はヴォーゲル文学賞を受賞し、権威あるマイルズ・フランクリン賞の最終選考に残り、現在ビクトリア州の12年生(高校1年生)の英語教材として使われている。日本の市民活動家と国における矛盾する戦中の記憶についてのノンフィクション・エッセイ『Unearthing the Past』は、2014年のガイ・モリソン賞のリテラリー・ジャーナリズム部門とキャリバーエッセイ賞を受賞した。

  • スペイン語
    セバスティアン・カカズ: アルゼンチン生まれの日系三世。現在パラグアイに在住。国際コーチング連盟認定のプロ・コーチとして活躍中。KENMEI Coachingの創設者及びCEOで、一人ひとりの可能性と人生の質向上を実現されることを目指している。著書には、「Kaizen Coaching(スペイン語)」がある。また、アルゼンチン日系センター会長及びブエノスアイレス・パンアメリカン日系人大会2013年の実行委員長を歴任。アルゼンチンの日系青少年国際交流サークル「DALE!」の創設者でもあり、第1回目の総合コーディネーターを務めた。こうした活動が認められ、在アルゼンチン日本大使館が表彰されている。また、JICA日系研修員事業で「改善5S」のプログラムに参加し、日本国外務省の次世代日系リーダー招聘事業にも選ばれている。経営者対象のコーチングとCEO異業種交流団体「Vistage」パラグアイ支部からベスト・プラッティクス賞を受賞している。

  • ポルトガル語
    クラウディオ・ハジメ・クリタ: 広告とマーケティング学科卒業。現在、日本政府のグローバル・プロジェクト「ジャパン・ハウス・サンパウロ」のイベント・運営ディレクター。サンパウロ市役所にて9年余り勤務。メキシコにて「セーブ・ザ・チルドレン」プロジェクト・マネジャーとして活躍。アメリカの米州開発銀行の青少年リーダーシッププログラムに留学。日本外務省の青少年交流プログラムに参加。台湾の国防大学で国家開発学科にて学ぶ。
    ブラジル日本文化協会の会長、「日本館」の委員長、ブラジル日系人パンアメリカーナ協会の副会長としてボランティア活動に取り組んでいる。

今回ロゴをデザインしてくれたジェイ・ホリノウチさん、提出原稿の校正、編集、掲載、当企画の宣伝活動などをサポートしてくれている素晴らしいボランティアの方々やご尽力いただいた皆さん、本当にどうもありがとうございます!

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