忘れられた日系人

青年時代から30年以上にわたり付き合ってきたブラジルと南米の国々。彼の地への思いとともに、忘れえぬ日系の人びととの出会いや思い出、調査で訪れた場所、発見した史資料、まだ見ぬ風景など―南米の日系人をめぐり、その歴史、人、モノ、生活について後世に伝えたいことがたくさんある。このシリーズでは、そんなエピソードを紹介していく。
このシリーズのストーリー

第3回 清水翁の話(その3)―軍隊蟻の襲撃と葉切り蟻のこと
2025年6月13日 • 根川 幸男
清水翁の戦前の開拓期の話のなかでもっとも印象深いものの一つに蟻に襲撃された話がある。何万という蟻が絨毯のように地面を覆って移動し、貯蔵した食べ物を食い荒らして去っていくという。イギリスの博物学者ベイツもその著『アマゾン河の博物学者』(原著The Naturalist on the River Amazons, 初版1862)に記している軍隊蟻である。話を思い出すだけで自身の身体がぞわぞわとするような話である。 さて、清水翁の話である。自分の耕地内に建てた小屋に父君と二人だ…

第2回 清水翁の話(その2)―大トカゲとオンサ
2025年5月23日 • 根川 幸男
清水尚久翁は、左耳が聴こえにくいということで、右側に座ってお話を聴くことが常であった。どうして左耳が聴こえなくなったのかというと、これはサンパウロ州内陸での開拓前線の生活に由来するものであった。翁のお話は印象深いものが多かったが、ピストルで大トカゲを撃った話はなかでも忘れられないものの一つだ。 翁の父君は、移住組合連合会が分譲していたサンパウロ州内陸のバストス移住地に40アルケーレスの土地を購入しており、翁は父君、同志社の同級生であった斎藤峰郎の一家とともにこの土地に入植…


第1回 清水翁の話(その1)―ブブラジル移民を決意
2024年12月31日 • 根川 幸男
私のなかでもっとも印象に残っている日系人は、清水尚久(ひさし)翁である。自分がもしブラジル移民何たるか、特に百姓の経験のない自分が移民について多少なりとも知ることができたとすれば、他の何十何百という移民から知見を得ていたとしても、まずそれは清水翁のおかげと言わねばならない。私が最初に出会ったブラジル移民が翁であり、ことあるごとに接触を重ね、時には小旅行にご一緒することもあった。それほど翁には密に接し、お世話になった。 清水翁は明治の末年、愛媛県西予郡卯之町(現・西予市…
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1963年大阪府生まれ。サンパウロ大学哲学・文学・人間科学部大学院修了。博士(学術)(総合研究大学院大学)。移植民史・海事史・文化研究専攻。ブラジリア大学文学部准教授を経て、現在、国際日本文化研究センター特定研究員。同志社大学、滋賀県立大学などで兼任講師。主要著書:『「海」復刻版』1〜14巻(柏書房、2018、監修・解説)、『ブラジル日系移民の教育史』(みすず書房,2016)、『越境と連動の日系移民教育史——複数文化体験の視座』(ミネルヴァ書房、2016。井上章一との共編著)、Cinquentenario da Presenca Nipo-Brasileira em Brasilia.(FEANBRA、2008、共著)
(2023年1月 更新)
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