日系アメリカ文学を読む
日系アメリカ人による小説をはじめ、日系アメリカ社会を捉えた作品、あるいは日本人による日系アメリカを舞台にした作品など、日本とアメリカを交差する文学作品を読み、日系の歴史を振り返りながらその魅力や意義を探る。
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このシリーズのストーリー
第6回 『失われた祖国』
2017年5月12日 • 川井 龍介
アメリカのトランプ大統領による排他的な移民政策によって、アメリカ国内の移民、マイノリティーのなかから隣国カナダへのさらなる移住を希望する人が急増しているという報道があった。アメリカより移民に寛容なカナダを好んでのことだという。 しかし、太平洋戦争開始後はアメリカと同様、いや、それ以上に日系人に対して厳しい隔離政策をとっていたのがカナダだった。太平洋岸のバンクーバー周辺の日系人は、財産を没収され、内陸部に強制移住させられた。カナダ生まれでカナダ国籍をもっていても、当時の…
第5回 『荒野に追われた人々 戦時下日系米人家族の記録』
2017年4月28日 • 川井 龍介
日系二世の女性作家、ヨシコ・ウチダは、1921(大正10)年、カリフォルニア州アラメダで生まれ、バークレーで育った。数多くの児童文学作品を残し、日本の民芸にも造詣の深い彼女が、戦時中の自身と家族の収容所体験をつづったノンフィクションが『荒野に追われた人々 戦時下日系米人家族の記録』(1985年、波多野和夫訳、岩波書店)である。 原題は『DESERT EXILE: The Uprooting of a Japanese American Family』で、1982年にシ…
第4回 『丙午の女』
2017年4月14日 • 川井 龍介
アメリカにせよ南米にせよ、近代の日本からの海外移民の主人公は男たちである。男たちが、お金やよりよい生活を求めて、自らの意志で海外に飛翔した。なかには妻帯者もいるが、妻は夫に従ってきた。また、まずは単身夫が移民し、あとで妻や家族を呼び寄せるという形をとった。 独身の男たちは、やがて妻をめとるが、その際同じ移民のなかで相手を見つけることができればいいが、多くはいったん母国へ帰って結婚し妻を連れてくるか、あるいは「写真結婚」をした。一度も相手に会うことなしに写真だけを頼りに、相…
第3回『マンザナールよ さらば』
2017年3月24日 • 川井 龍介
マンザナールとは、日米開戦後に日系人を隔離するためにつくられた全米10ヵ所の収容所の一つである。そこは、カリフォルニア州の東部、西にシエラネヴァダ山脈が迫る荒涼とした地だった。 『マンザナールよさらば‐強制収容された日系少女の心の記録』は、この収容所で3年半を家族とともに過ごした少女の目を通した、収容所の生活を中心とした、日系人としての戦中・戦後の記録(ノンフィクション)である。 原題は「Farewell to Manzanar」で、1973年にアメリカ、カナダで同時出…
第2回 『天皇が神だったころ』
2017年3月10日 • 川井 龍介
日米開戦後の日系人収容について、先日体験者の話を聞く会がニューヨークの日系人会で開かれ、会場は立ち見もでるほど人が詰めかけ、関心の高さをうかがわせたというニュースを読んだ。これも、トランプ新政権による排除的な移民政策を反映したものかもしれない。 『天皇が神だったころ』は、日系人三世の女性作家ジュリー・オーツカによる、開戦後の収容をめぐる日系人家族の物語である。 原題は英語で、「When the Emperor was Divine」である。天皇が日本の国の主権者で、神格…
第1回 『立退きの季節』―日系人収容所の日々
2017年2月24日 • 川井 龍介
75年前のいまごろ、アメリカの太平洋岸地域に住む日本人・日系人は、前年末の日米開戦によって、強制的に立ち退きを命ぜられ、全米10ヵ所に設けられた収容所へと送られることになった。 昨今のトランプ大統領による大統領令が、イスラム教徒の多い特定の国を対象にした入国制限を意図したことは、のちに恥ずべき歴史と評価された75年前の日系人収容政策を今思い起こさせ、日系人社会からも反発が起きている。 戦前から戦後にかけて日系人が経験した出来事については、文学上のテーマとして多くの日系ア…