喜寿の手習い

夫の7回目の命日を3日後に控えた一月半ばのその日、和子バーチャンは朝から機嫌が悪かった。いつもの通り、午前5時に起きた。老人の一人暮らしで、仕事している訳でもなく、気ままな生活なのだが、長年の習慣で、目覚ましがなくても自然に眼が開く。ベッドの上で身を起こした途端に、身体にかすかな痛みが走った。激しい痛みではない。右脇腹が疼いた。「あ、雨だな」と呟きながら、洗面所に入り、窓のカーテンを開けると、案の定、外は雨だった。まだ時間が早いせいか、もやと雨が混じった乳白色が家の周りを覆っていた。静かな小雨がシトシトと窓を叩いていた。
「まるで私の体は湿度計なんだから」とまた一人で呟いた。かすかな痛みは7年前の交通事故の後遺症である…