ディスカバー・ニッケイ

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デカセギ・ストーリー


2012年6月18日 - 2024年4月18日

1988年、デカセギのニュースを読んで思いつきました。「これは小説のよいテーマになるかも」。しかし、まさか自分自身がこの「デカセギ」の著者になるとは・・・

1990年、最初の小説が完成、ラスト・シーンで主人公のキミコが日本にデカセギへ。それから11年たち、短編小説の依頼があったとき、やはりデカセギのテーマを選びました。そして、2008年には私自身もデカセギの体験をして、いろいろな疑問を抱くようになりました。「デカセギって、何?」「デカセギの居場所は何処?」

デカセギはとても複雑な世界に居ると実感しました。

このシリーズを通して、そんな疑問を一緒に考えていければと思っています。



このシリーズのストーリー

第十一話(前編) クレイトは、もうサンバは踊らない

2013年5月23日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

風がびゅーびゅー吹き荒れていた夜、クレイトは1時間前に出たダンススクールに戻った。そこのオーナーの明石トムは、ちょうどその頃、パープル色のドレスの女性に誘われ、横丁の「ルナ」で楽しそうに飲んでいた。 細長い階段を下りると、古びた木のドアを開け、薄暗い大広間を通り過ぎ、奥にある事務所に入って行った。手探りで金庫を探り当てると、あとは暗証番号は以前から知っていたので、スムーズに開けることができた。中を見ると、片手に持てる大きさの箱があった。それをジャンパーの中に隠し、素早く、…

第十話 キミコの再出発

2013年4月23日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

100年以上前にブラジルに渡った移民たちは、いつかは日本に戻れると思っていた。1980年代から日本に行き始めた逆デカセギのほとんども、いつかはブラジルに戻れると信じていたのだろう。しかし、世の中はそう甘い物ではなかった。いろいろな事情があって、一度帰国したあと、再び日本へ行くデカセギが少なくなかった。キミコもその1人だった。 「元気を出して!かあさん。仕方ないさ」 息子のアレックスに声をかけられ、キミコは、はっとした。「ここは確かにブラジルだ。そして、私はやっと戻って来たの…

第九話 サクラの花の咲くころ

2013年3月21日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

真司とリンダは子どものころの友だちだ。と言っても、同じ学校に通ったこともなく、同じ公園で遊んだこともなかった。 真司は6歳のとき、お父さんの仕事の関係でブラジルに住むようになった。 お母さんは元ピアニストだったので、すぐにピアノ教室を開いた。生徒は日本企業の駐在員の子どもたちだった。 真司はアメリカンスクールに通っていた。その上、習い事もたくさんしていた。英語、バイオリン、チェスの教室などだ。 ある日曜日、お母さんはピアノのコンサートへ、お父さんはゴルフ場へ行くので、真司は…

第八話 カーニバルの悲しい出来事

2013年2月8日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

私は日系二世の70歳のおばちゃんです。昔からカーニバルにはあまり興味がありませんでした。カーニバルとはブラジル人にとって、年に一度の楽しみだとしか思っておらず、「ブラジル人ではない」と認識している私には関心がなかったからです。しかし、当時から日系人会では「バイレ・デ・カルナバル」というカーニバルのダンスパーティーが開かれ、日系の若者たちも楽しむようになっていました。私も友だちと一緒に行ったことがありましたが、特別な思いはありませんでした。 24歳で結婚した私は4人の子どもに…

第七話 ケンジンニョのすばらしい年末年始

2013年1月24日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

日本生まれのケンジンニョは両親が別れた後、母親と一緒にブラジルへ渡った。 日本に残った父親は1年半後、約束どおり、息子を迎えに行ったが、意外なことが起きていた。元の妻のヌビアは再婚してリオに住んでいて、息子のケンジンニョは、父方の祖母、つまり自分の母親の家で暮らしていた。驚きだった。 しかし、空港に出迎えに来ていた息子を見てマサオはほっとした。ケンジンニョはニコニコ、おばあちゃんの側から離れなかった。「イラセマばあちゃんのとこからなんで出たの」「イラセマばあちゃんはとてもや…

第六話(後編) マユミは此処!FELIZ NATAL!

2012年12月24日 • ラウラ・ホンダ=ハセガワ

第六話(前編)を読む>> 何と言ってもナタール(クリスマス)はデカセギにとって特別な祝日だ。無関心な人は誰もいない。みな、その日が来るのを心待ちにしている。家族や友人と集り、その時だけは多忙な生活をしばし忘れ, 懐かしいブラジルの思い出話に花を咲かせる。 しかし、問題は日本でのクリスマスが祝日でないことだ。仕事を休めない人は前日にお祝いをするしかない。それでも、クリスマスを祝うのがデカセギの一番の楽しみだ。 クリスマスイブに大勢の人がパストール・マコトの家を訪ねる。地域…

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このシリーズの執筆者

1947年サンパウロ生まれ。2009年まで教育の分野に携わる。以後、執筆活動に専念。エッセイ、短編小説、小説などを日系人の視点から描く。

子どものころ、母親が話してくれた日本の童話、中学生のころ読んだ「少女クラブ」、小津監督の数々の映画を見て、日本文化への憧れを育んだ。

(2023年5月 更新)