―10年前―
これは、ぼくだけのひみつ。いや、ぼくときみだけのひみつなんだ。
すぷりんぐすとりーとには、かべがある。みぎとひだりでわかれて、みんなくらしている。ぼくはみぎがわ。にほんじんと『にっけい』ってよばれているひとたちがすんでいるんだ。ひだりは、ぼくたちとはちがうひとたちがすんでいる。いったことはない。おとうさんやおかあさん、まちのひとからきいたはなしだ。ただ、とてもこわくてきたないところだから、いってはだめだといわれた。
ぼくはこのかべがすきだ。だって、おもしろいえやもじが、たくさんかいている。まだ5さいだから、ひらがながすこしよめて、20までかぞえることができるけど、かべはかんじやしらないきごうばかりだから、よめない。いつかよんでみたいな。
ゆきがふりそうにさむいひ、いつものようにかべをみていたら、ちいさなあながあった。ゆびが、4ほんはいりそうなくらいのあなだ。ぼくはのぞいてみた。そしたら、おんなのこがみえた。ぼくはおもわず、「ねえ」といってしまった。そのあとで、すごくこわくなった。だって、おとうさんたちのこえをおもいだしたから。ぼくがふるえていると、
「はろー」
はじめてきくことばが、かえってきた。
「えっ?」
「はろー、コンニチハ」
「こ、こんにちは」
おんなのこは、にこりとわらった。そのとき、ぱちんとはじけるおとがした。
「あっ」
おんなの…