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ペルーを「美味しくご賞味」 ー 独自の創作と味付けでペルーグルメを定着させた日本人

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小西紀郎(こにし・としろう)氏は、大変ユニークで、世界中に自らのグルメアート(日本とペルーの創作融合料理「ペルービアン・フュージョ ン」)を紹介して来ました。しかし、30年前にペルーにやってきた小西氏は、今でも当時と同じようにその謙虚さと礼儀正しさを維持しており、それは彼のア ピールポイントになっています。以前テレビコマーシャルで「Achicaprecio(価格を縮小「安い」という意味)」という言葉でお茶の間で有名に なったシェフ。彼のレストランで色々なお話しを聞くことができました。

食事を終えた頃、シェフの小西紀郎氏が、私のテーブルにやって来ました。私のというよりは彼のレストラン「Toshiro’s」(リマ市内のサンイ シドロ地区にある)でしたので、彼の「テーブル」と言った方が正しいでしょう。私を待たせていたことに丁寧にお詫びの言葉を述べられましたが、大変美味し い食事を頂き、自分としてはとても満足していたので、その時間というのはまったく気になりませんでした。

シェフ・トシロウは、1974年、今では世界的にも有名でアメリカや日本などで和食創作料理で知られている「NOBU」のオーナー(松久信幸)と一 緒にペルーへやってきました。リマ市内で「Matsuei」という和食レストランを開店したのです。当時ペルーにはそのような店はほとんど存在しなかった こともあり、当初の一番の課題はスタッフを育成することでした。松久氏のパートナーとしてここでトシロウは大きな役割を果たすのです。日本食の伝統的な世 界では、長い年月をかけて一から育て上げるというのがモットーで、先輩から学んでいくことが原則ですが、ペルーでこれを実践することは大変困難なことでし た。

当初、トシロウは、ペルーに三年間滞在する計画でした。しかし、その前に松久氏がこの事業から撤退したため、もし自分も同じようにペルーからいなく なると、それまで行ってきたスタッフへの和食料理の教育が無駄になってしまうと判断し、居残ることにしたのです。また、ペルーに無数の食材があることもペ ルーへ残った理由のひとつでした。

良い食材は良い料理になる

シェフ・トシロウは老舗の和食料理屋の4代目の息子として生まれました。実家は、フランス料理のフルコースに相当する懐石料理をやっていました。そ うした環境と教育からペルー独自の多様な食材に注目したのです。懐石料理の基本は食材の品質と旬の食材を使うということなのです。

ペルー独特の食材を知るため、彼はまずペルーの各地を訪れたのです。太平洋沿岸を地元漁師らと二ヶ月半もかけて視察し、その後「シエラ」という高 原、山岳地帯を廻りアンデス山脈沿いにある町や村を歩きました。また、日本から持ってきた28種類の野菜の種を蒔き、自ら作物を栽培し、その内の23種類 の栽培に成功しました。

こうした体験の積み重ねとペルー産食材のこだわりが、今この国の創作和食エキスパートとして知られるようになったのです。シェフは、「どの魚が一番 美味しいのですか」という質問は間違っており、「どの時期(季節)のどの魚が一番美味しいのですか」と聞くことが正しいと主張します。例えば、6月から7 月はカツオが美味しく、10月から8月はチタという魚(日本の黒鯛に相当し、現地では「サルゴ」ともいう)が旨いそうです。野菜に関しても、「ペルーでは いつ何のために使うかが重要なのではなく、どこで栽培されたのかが重要である」と話しています。この国の多様な気候や地形による気温変動(標高によるも の)がそうした環境をつくっているのです。

両世界のいいところを引き出すこと

日本とペルーの食材や調味料を使って料理をすることについて、「日本の料理人は和食に対してすごいプライドを持っているのです。自分もそうでした。 でも、ここで色々なものを発見しているうちにペルー料理もすばらしいものがあると理解するようになったのです。」と、シェフはその原点を話してくれまし た。二つの世界を融合したことは結果であり、最高の発想だったのです。

ペルー日系社会の料理は基本的に家庭料理ですが、トシロウシェフの料理は二つの料理をプロ的に融合したものです。だからこそ、食材選びに非常に神経 を使い、メニュー一つ一つに複雑な下ごしらえ等を行うのです。また、食材一つとっても様々な調理方法があり、ゆでる、冷ます、洗う、弱火に浸す等々です。

私はこの取材で、醤油味の巻き貝、ペルーレモンをベースにした生帆立貝のマリネ、醤油とショウガで味付けした魚の煮込み、マスを使った巻き寿司など を頂きました。このように食材の選び方もすごいのですが、ペルーと日本の調味料等を使って出してくれたものはどれも言葉に現せないほど美味しいものでし た。

シェフ・トシロウの天下は今後も続く

シェフ・トシロウはどこからみてもプロなのです。2005年頃からようやく世界的に自分の料理を紹介しはじめました。それまでは、1989年にリマ 市内のシェラトン・ホテルに開いた自分のレストランでスタッフを育成してきました。「お客様がいつ来ても美味しく食べれるようにしなくてはならなかったの です。その要求に目をつむってでも対応できる料理人を育てるには2005年までかかりました」とそれまでの大変さを話してくれました。

取材中、シェフは他の客への対応も怠らず、雑談したり、メニュー選びをアドバイスしていました。この店には「おまかせコース料理」があり、一つの特徴でもあるのです。また、客の何人かとはビジネスのことも話していたようです。携帯電話もなりっぱなしでした。

シェフの行動を見て、彼が3年余で国際的なグルメ会から表彰され、十数回も講義やプレゼンに招待されてきたことは、当然納得できるものだと感じまし た。モルジブ島(インド洋のセイロン島の南西にあるリゾートで、共和国である)にある二つのリゾートレストランと顧問契約をかわし、日本ペルー創作料理の アドバイスも行なっているのです。

店内では非常に忙しくしていたのですが、「これまでの30年間の構想とエネルギーが保存されているのです、まだまだたくさんのことを紹介したいので す」と最後に言いました。これ以上お邪魔するのも恐縮だったので、レストランを後にしましたが、そのうちにまた新たな創作料理を創ってくれるのではないか と期待をふくらませながら取材を終えました。

シェフの経歴

小西紀郎氏は1953年7月11日に日本で生まれ、先祖代々和食料理と関わっている家系の持ち主である。六つの時から祖父(写真を参照)の承 諾を得てレストランの厨房で遊んでいたという。11歳の時修業するために他の料理人候補たちと厨房でお手伝いをするようになる。そして16歳の時に東京の Nashaheiというレストランで働いており、1971年には「ふみ」という料理屋のシェフになる。

1974年にペルーに行き、「Matsuei」という和食レストランで10年間もシェフを勤める。その後、リマ市内のシェラトンホテルでWakoと Toshiro’sを開店する。そして、2002年からサンイシドロ地区にあるSushi Bar Toshiro’sのマネージャーでもある。

これまで多数の本を出しており、San Ignacio de Loyola大学でも教鞭を執っている。また、テレビ出演も多く、スペイン、イタリア、ベネズエラなどの料理フェスティバルに参加している。
以前、80年代頃テレビメーカーのコマーシャルに出演し、そこで「Achicaprecio」という言葉を使ったことで今も親しみを込めてそのあだ名で知 られている。アンコン音楽コンクールでは著名なRicardo Montanerにも勝っており、その実績もあるのだが音楽は趣味の世界のようである。現在、写真に夢中になっている。

日本政府からの表彰

2008年、日本の農林水産省から日本の和食料理を普及してきた功績をたたえて表彰されている。ラテンアメリカに定住している日本人シェフにこのように表彰されたのは始めてである。

* この記事はペルー日系人協Asociación Peruano Japonesa (APJ) とProyecto Discover Nikkeiとの協力によって掲載されています。当初は、2008年9月発行のKAIKAN誌第37号に掲載されたものです。

Text: © 2008 Asociación Peruano Japonesa and Yamato Icochea Oshima; Photos © 2008 Toshiro Konishi

シェフ 食品 ペルー 小西 敏郎
執筆者について

ペルー日系人協会広報部が発行している機関誌「Kaikan」の編集員であり、父親は非日系のペルー人で、母親が日本人である。生まれは日本だが、幼少時 代からペルーで住んでいる。現在、サンマルコス国立大学ジャーナリズム学部最後の学年を受講している。日本のメディアにも寄稿している。

(2008年10月 更新)

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