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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2025/3/7/kojiro-pindrama/

第26回 フリーペーパーを定期発行するコジロー出版社

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コジロー出版社とピンドラーマのロゴマーク

本連載の第26回目は、コジロー出版社(川原崎隆一郎代表)の布施直佐編集長(59)に話を聞いた。同社が発行している月刊『ピンドラーマ』はブラジル情報を日本語で定期的に発行するフリーペーパーで、日本の調査で全世界の日本語フリーペーパーの一つとしても認定されている。2006年の創刊以来、ブラジル在住の日本人駐在員や日本語の読める、日系人読者を中心に、ブラジルで発行される数少ない日本語情報誌として愛読されている。

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創刊して今年で18年目

同社が発行する月刊『ピンドラーマ』は2006年6月に創刊準備号が発行され今年で18年、今月も214号が無事に発行された。川原崎代表の飼っていた猫の名前とロゴが会社のトレードマークで、雑誌名の`『Pindorama』はブラジル先住民のトゥピー語が起源で「椰子の国」を意味し、現在のブラジルに当たる地方を指した呼称であった。

川原崎代表(ブラジル在住31年)はブラジルで定期的に発行する日本語でのブラジル情報誌があれば必ずニーズがあると思っていた。「定期的」であることを重視し、「月刊」というスタイルを創刊当初より貫き続けている。これまで月一回の発行が停止したことはない。

左からウーゴ氏、川原崎代表、布施編集長

2020年のパンデミック以降は、接客業の多い広告主が打撃を受けて広告の出稿量も半減し、創立以来最も厳しい時期を過ごすことになった。それでも、それまで広告とともに順調に増えていたページ数を半分以下にするなどして難局を乗り切り、現在は以前の広告主も戻りつつあり、新規の広告主も現れている。

創刊時より事業規模を大きくしたいというビジョンはなく、「面白い雑誌」を発行するのがモットーである。「知られざるブラジル」を伝えることで、「多様性に富んだブラジルの文化や価値観を日本人が知ることで、さらに人生を豊かにしていただければ」との願いが込められている。
           

宝の尽きないブラジル文化の鉱脈

創刊時には「どうせ3号でつぶれるだろう」と言われながら18年も発行を続けてきた『ピンドラーマ』。コンセプトは「ブラジルの社会・文化全般を紹介する総合誌」で、ブラジルの日系社会や日本文化を専門に扱う邦字新聞とは差別化を図った。観光、スポーツ、料理、音楽、文学、政治、経済、移民史など幅広いテーマを扱うことに努め、これまで記事を書いてきたのはプロのライターだけでなく、ブラジル在住の観光ガイド、大学教授、歌手、弁護士、医師、行商人、主婦、漫画学校講師、鍼灸師、ラーメン職人など、多彩な執筆者に恵まれて誌面は充実していった。

『楽々サンパウロ』のページの一部

「ピンドラーマを通してブラジル文化の鉱脈を掘り続けてきたが、掘れば掘るほど新たな宝石が見つかり喜びの声が絶えることはない」と布施編集長は語る。

創刊から1年半ほどの間は知名度も低く広告営業でも苦戦したが、徐々に広告売り上げも伸びて、パンデミック前には50ページを超える一冊となっていた。創刊時は紙媒体だけだったものを、現在は最新号ほかバックナンバーの記事もインターネットで読めるようにして、ブラジルと日本のみならず、世界中の読者と情報が共有されている。
     

役に立つ不動産情報の発信をスタート

『ピンドラーマ』がサンパウロの日本人に浸透してきた2011年には、同地の観光、医療、食、娯楽、買い物、教育、生活のインフラなど、日常生活のほぼ全てを網羅した日本語ガイドブック『楽々サンパウロ』を発行した。サンパウロで初めて暮らす人が「楽々」と新生活をスタートできるように編集され、全200ページ超、オールカラーの大型本で制作には時間を要したが、予想を超える好評を得て、2020年までは隔年で新版が発行されていた。

左から『楽々サンパウロ』と『ピンドラーマ』の創刊準備号と2024年4月号

他にも日系団体の記念誌や個人史の制作協力などに携わり、昨年からは新たな事業としてブラジルの大手不動産会社と提携し、駐在員向けにサンパウロの賃貸アパートの仲介を始めることになった。

布施編集長は40歳で心機一転、ブラジルに移住した。日本では予備校の講師を務め編集業は未経験だったが、「日本に比べたら一億倍楽しい」と感じるブラジルで公私ともに水を得た魚となった。最近は健康志向のお菓子作りにも目覚め、小規模ながら販売を始めた。

「60歳近くになって自分がお菓子作りを始める人生なんて日本では想像しなかった。自己責任で自分の人生を自由にデザインできるブラジルの魅力は尽きない」と笑顔を輝かせる。小出版社ゆえに小回りが利くことから、面白そうな企画は出版に限らず今後もどんどんチャレンジしていくつもりだ。

コジロー出版社の概要
正式名称:EDITORA KOJIRO LTDA.
所在地:サンパウロ市
設立年月:2007年9月
従業員数:3人
事業内容:出版業
サイト: https://note.com/pindorama/

 

*本稿は、『ブラジル日報』(2024年4月13日)からの転載です。

 

© 2024 Tomoko Oura

ブラジル 日本語雑誌 雑誌 出版
このシリーズについて

パンデミックの厳しい環境の中でも事業を継続してきたブラジルの日系企業。コロナ禍も落ち着き始め、サステナビリティを目標とした新しい価値基準が求められる中、本連載では「ブラジルで活躍する日系企業の今」をご紹介する。ブラジル日本商工会議所協賛企画。『ブラジル日報』からの転載。

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執筆者について

1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。大学卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミを中心に取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。

(2023年9月 更新)

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