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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2025/2/7/sojitz-do-brasil/

第25回 金属資源等を中心に躍進する双日ブラジル会社

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志田亨社長

本連載の第25回目は、双日ブラジル会社の志田亨(とおる)社長(55)に話を聞いた。双日は、パンデミックが落ち着き始めた2023年3月期連結決算(国際会計基準)で2期連続の純利益の最高益を更新しており、その中で双日ブラジル会社は設立以来、世界の双日グループの一端を担っている。スローガンである「New Way, New Value」(新しい道、新しい価値)のもと、今新たに注力しているのはパートナー企業各社と推進するブラジル発の脱炭素社会に向けたプロジェクトだ。

日本とブラジルの基幹産業の懸け橋として

同社は日本の10大商社の一角を占めた旧ニチメンと旧日商岩井の流れを汲み、2004年に設立された。前者は1955年にサンパウロ、後者は1957~58年にかけてサンパウロとリオ・デ・ジャネイロに事務所を開設した。総合商社としてブラジル関連でも幅広く必要なモノ・サービスを必要なところに提供してきた中で、大きなウェイトを占めているのは金属資源、化学分野である。

同社は、1950年代にブラジルの基幹産業、その主要会社で黎明期のリオ・ドセ社(現ヴァーレ社)を日本の製鉄各社へ最初に紹介。1955年の最初の日本向けリオ・ドセ鉄鉱石出荷へ繋げ、日本のブラジル鉄鉱石輸入の拡大の過程で、半世紀以上にわたって日本の製鉄各社とリオ・ドセ社をつなぐ鉄鉱石輸入代行幹事商社ビジネスを展開、鉄鉱石貿易の拡大やそのために必要となった港を含むインフラ拡大にも日本の製鉄各社とリオ・ドセ社を繋ぎ、間接的に寄与してきた。

1978年より生産を開始して今も操業中のリオ・ドセ社と日本製鉄各社及び同社が共同で出資する鉄鉱石ペレットの合弁企業Nibrasco社や、1990年代のペトロブラス社との浮体式洋上石油生産設備の裸用船契約のように、常に時代のニーズに応じた対応を行うことにより、パートナーのブラジル企業から評価を得て来た。

近年ではサンタカタリーナ州とリオ・グランデ・ド・スル州でプレミアムブランド車の正規ディーラー事業も展開している。

オフィス内の様子
        

ブラジル発の脱炭素社会プロジェクト

同社は脱炭素社会に向けて、今ブラジルでは二つの事業に注力している。

一つは、外国人筆頭株主となっている南米最大手の化学メーカーBraskem社と推進する、バイオマス由来のPET樹脂原料(ペットボトルなどが製造される)のグリーンMEG製造プロジェクトだ。従来のPET樹脂原料が石油だったのに対し、バイオマスを出発原料としているのが特徴で、現在販売を行っているグリーンポリエチレンに次ぐ製品。バイオマスとは、再生可能な生物由来の有機性資源で化石資源を除いたもの。主に木材、生ごみ、ふん尿など。

尚、グリーンポリエチレンはサトウキビ由来のバイオエタノールから製造されサトウキビが成長過程で光合成によりCO2を吸収するため、製造フローで発生するCO2とのオフセット(CO2排出量の埋め合わせ)が実現でき環境にも優しい。Braskem社は世界でバイオケミカルのリーダーで今後更なる成長が見込まれている。

二つ目は、CBMM社及び東芝と3社で共同開発契約を締結したニオブチタン系酸化物を用いた次世代リチウムイオン電池の商業化である。金属元素の一つであるニオブは特に自動車向けの鋼材の軽量化・剛性化に不可欠とされており、CBMM社はニオブ市場において世界第1位(約80%)の生産量と販売量を誇り、高い技術力と製品開発プログラムを有している。高エネルギー密度で急速充電が可能な次世代リチウムイオン電池は、電気自動車などに適している。

ブラジルリスクを上回る魅力ある案件を

ブラジルでの駐在が今年で通算10年になる志田社長は、最初に赴任した1996年以前からブラジル鉄鉱石の業務に当たり、為替や金利の変動幅が大きく、物事が計画通りに進まないなどブラジル特有のリスクにも直面してきた。

しかし、日本にはないスケールの大きな国であり、「マイナス面を上回るだけの魅力ある案件」によってその潜在力を引き出せると考える。また、ブラジルの自然条件によって当たり前だった水力発電やバイオエタノールが、脱炭素社会の流れとなって急に脚光を浴びはじめるなど、「世界がどういう形態になってもビジネスチャンスを持つ懐の深さ」に大きな可能性を感じている。

双日ブラジル社オフィスのあるビルの入り口
        

神戸の旧移民収容所周辺に双日ゆかりの地

双日社の前身の一つである旧日商岩井の源流の一つは、明治7年(1874)に神戸で創業された鈴木商店だ。日本人移民が1908年にブラジルに渡り始めた時代、同店は大正6年(1917年)には当時のGNPの1割に相当する売上を記録し、日本一の総合商社となった。日本人移民が歩いた旧移民収容所(現海外移住と文化の交流センター)と神戸港を結ぶ道の周辺にも同店ゆかりの地が数多く、同社サイトの「鈴木商店記念館」では、観光マップと合わせて移民も見たであろう新旧の懐かしい風景が紹介されている。

双日ブラジル会社の概要

正式名称:SOJITZ DO BRASIL S.A
所在地:モジ・ダス・クルーゼス市(本社・工場サンパウロ市、リオ・デ・ジャネイロ市)
設立年月:2004年(前身の旧ニチメンブラジル1955年、旧日商岩井ブラジル1957~58年)
従業員数:43人
事業内容:双日グループとして国内外の多様な製品の製造・販売や輸出入、サービスの提供、各種事業投資など
サイト:https://www.sojitz.com.br

 

*本稿は、『ブラジル日報』(2024年3月29日)からの転載です。

 

© 2024 Tomoko Oura

ブラジル ビジネス 商業 経済学 日系企業 経営
このシリーズについて

パンデミックの厳しい環境の中でも事業を継続してきたブラジルの日系企業。コロナ禍も落ち着き始め、サステナビリティを目標とした新しい価値基準が求められる中、本連載では「ブラジルで活躍する日系企業の今」をご紹介する。ブラジル日本商工会議所協賛企画。『ブラジル日報』からの転載。

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執筆者について

1979年兵庫県生まれ、高校卒業まで神戸市で育つ。大学卒業後、2001年からブラジル・サンパウロ在住。フリーランスで現地の日本人向けマスコミを中心に取材・執筆活動ほか、編集業務に携わっている。

(2023年9月 更新)

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