私の名前は春美(ハルミ)ですが、その由来についてお話ししたいと思います。ハルは季節の「春」からとり、ミは美しいという「美」からで、父は私の名前の意味は美しい春、すばらしい春、と言っていました。
「名前の意味はその人の性格を反映していると思いますか?」私は反映していると思います。幼い頃から、この名前をいい名前だと言われたり、私はいつも朗らかで春のように清々しいと言われてきました。私にとって春は最も好きな季節で、今もそうです。
しかし父の話によると、もう少しで別の名前になっていたかも知れないのです。それは「直子(ナオコ)」です。素直でで親の言うことをよく聞く子という意味のようですが、私は幼い頃はかなり御転婆だったので、父はなぜこの名前にしなかったのかと後悔していたのかも知れません。ではなぜ「直子」ではなく「春美」になったのでしょうか。
父ホルヘは、若い頃からとてもハンサムで生涯4人の妻を持ちました。いつかは娘は欲しいと思っていたようで、私が生まれる前から、その娘には「春美」という名前を付けると決めていたそうです。
最初の結婚相手の女性を父はとても好きだったようですが、残念ながら子供ができませんでした。その後、再婚して長男になるクリスティアンが生まれ、数年後また再婚してウィリアムとホルヘという次男、三男をもうけました。そして3番目の妻と離婚し、私の母となる女性と知り合ったとき、前妻の子供たちはすでに成人していました。母とは年齢格差もあり最初は恋愛対象になると思っていなかったようですが、運命はわからないもので、母と結婚することになりました。そこで、父は娘をもちたいという望みがまた芽生えたのです。
母は妊娠した時、父は絶対に女の子が生まれると確信していたようです。なので、産まれる前に、すでに女の子用のベイビー服や玩具まで買って待っていました。そして、「春美」という名前をつけることを夢見たのです。父にとってとても大きな意義があることで、母もそれに同意し「春美」にしようと喜んでいました。
しかし皮肉なもので、4番目もまた男の子でした。「闘志のある将軍」という意味のヨシアキという名前を付けました。2年後、母はまた妊娠しましたが、また男の子で、祖父のハカルという名前を付けました。これは慎重に計画するという意味のようです。
5人の子供は全て男の子で、もう娘は持てないとあきらめていました。その後、女の子の孫が生まれたのです。大変喜んだ父は、息子に自分が最も好きな名前「春美」と名付けるよう提案しました。
しかし、その翌年母がまた妊娠し、検査で女の子であることが判明したのです!とはいえ、孫娘をすでに「春美」と名付けてしまったので、自分の娘に同じ名前をつけたら混乱を招くのではと心配しました。そこで、父は「直子」を母に提案しました。しかし、母は反対し、4年前に決めていた「春美」にすると主張。父も決めた名前を変える必要はないと、「春美」になったのです。
なので、私、村上春美には、5人の男兄弟と私と同じ名前の姪っ子がいます。私が生まれる前から、いや男兄弟が生まれる前から、父の初めの結婚前から、私の名前は決まっていたのです。ですから、私にとってこの名前はとても大切なものです。父が夢見た名前ですが、なんと言いましても母がこの名前になるよう押し切ってくれたからでもあるのです。
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このエッセイは、シリーズ「ニッケイ人の名前2」の編集委員によるスペイン語のお気に入り作品に選ばれました。こちらが編集委員のコメントです。
モニカ小木曽さんからのコメント
名前を選ぶことは非常に特別なことです。なぜなら生涯その名前で生きていくことになるからです。名づけた親もその名前が適切だったかどうかの責任を負うことになります。日本の名前を選ぶ際には、漢字の画数や音読み、訓読みとの調和も重要な要素となります。
これまで読んだ物語でもあったように、日系人は生まれた国の言語での名前と日本語名を持つことがよくありますが、日本語名が出生届に記載されていることもあれば、記載されていない場合もあります。さらに、日本の名前を選ぶときは、日本語名とスペイン語名の調和を考えることも必要になるのです。
今回の「待ちに待った春美の誕生」では、著者は自分の名前に対する由来をとても気さくに、簡素かつ面白く紹介しています。自分の名前が父親によってどのように考えれ、希望されていたのか、またそれを実現させた母親の決断が描かれています。そして、選ばれた名前が、どのようにその人の性格や人生、運命に影響を与えているかが語られています。
© 2024 Harumi Murakami Giuria
ニマ会によるお気に入り
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