年末年始が近づくと、母はいつも言っていました。「私たち日系人はラッキーだね。この時期にはブラジルと日本の両方の伝統儀式を楽しむことができるから。クリスマスにはブラジルの伝統のパネトーネを食べて、クリスマスツリーを飾って、親戚や友人とプレゼントを交換し合う。お正月になれば、日本の伝統のお餅やお雑煮などの馳走を食べて、家族そろって紅白歌合戦を楽しむでしょ。私たちは、とても得しているのよ!」と。
私も同感です。ブラジルの多くの日系の家族は、当然、このような年末年始を過ごしていると、子供のころから思っていました。ところが、サンパウロからパラナ州へ転居してまもなく、今までと違うクリスマスのイベントがあるのを知りました。クリスマスの時期になると、街中はまるで日本にいるかのように、カラフルなイルミネーションに彩られ、その美しい光景を楽しむ家族連れや観光客が街角に溢れます。
そして私は、言葉で言い表せないほど感動的で美しいクリスマスを、パラナ州の2つの都市で体験しました。
アサイ市の「夢のようなクリスマス」
パラナ州北部に位置するアサイ市の歴史は、東洋人コミュニティ、特に日系人コミュニティと深く結びついています。1932年、「ブラ拓」(有限責任ブラジル拓植組合)が現在のアサイ市に、ファゼンダ・トレス・バラスという植民地を開拓して、その土地を売りました。そのお陰で、多くの日本人移民がトレス・バラスに移り住むようになりました。
最初、トレス・バラス移住地は「Assailand・旭ランド」と、日本語の「旭」と英語の「land・土地」を組み合わせて、「日出ずる国」という意味で名づけられました。1944年に市制が敷かれ、その地名は「Assaí・アサイ」に変更されました。
ブラジル地理統計院の2022年国勢調査で、人口の11.5%が「黄色人種」と自己申告したので、アサイはブラジルの最も「黄色い町」となりました。
2018年、日本移民110周年を記念し、アサイ市はブラジル初の日本式のお城を建設しました。その開城式の際には、地元民を中心に4千人が大喜びして祝いました。
パラナ州は兵庫県と姉妹提携しているため、このアサイ市にある日本の城は、姫路城を模して白い城壁が特徴で、城へ続く階段には日本人移民の存在を象徴する赤い鳥居を2基建てました。
城は4階建てで、石垣も含めた高さは約25メートル。市内で最も高い丘の上に建ち、街のどこからでもその姿を見ることができます。
城内の1階は展示スペースとして利用されており、日本人移民が生業としたコーヒーや綿作りの歴史、さらにはアサイ市の史料や写真パネルが並べられています。2階は多目的ルームとして利用されており、イベント時にレセプションなどを行ったりするスペースとなっています。3階には日本移民記念館が設置され、4階には市文化観光事務局があります。
2021年12月に、画期的なナタール(クリスマス)がアサイの住民を魅了しました。
「フォリャ・デ・ロンドリーナ」新聞には、「アサイは日本式のお城でクリスマス・プロジェクッションを行う」という見出しで、城のクリスマスイベントを紹介しました。
この画期的イベントは、3Dプロジェクションマッピングという映像手法を活用し、城の壁等に数々の映像を投影したものでした。当時のアサイ市長とそのチームが企画設計をし、ロンドリーナにある「Starlusion」会社が制作しました。
城の壁に描かれた物語は、サンタクロースがラップランドを出発し、世界中を巡ってブラジルへ到着すると内容です。その中には、アマゾンの風景や、動植物やサンバの魅力も描かれていました。パラナ州の国旗、イグアスの滝、「日本移民の町アサイ」を象徴するサクラや着物、龍やツルなどのシンボルも登場しました。プロジェクションマッピングが終わると、サンタクロースが会場に登場し、「ホゥホゥホゥ メリークリスマス」と、観客の前に現れ、観衆から大歓迎をうけました。
アサイの「夢のようなクリスマス」のビデオはこちらです
日本公園でのクリスマス
マリンガは1947年に市制が敷かれた計画都市であり、州内で三番目に日系人人口が多い都市です。
マリンガ大学統計学部とまちづくり事務局の調査によると、マリンガの人口の4.3%が日系人です。このデータは2009年に行われた「日系国勢調査」の一部であり、ブラジル日本移民100周年を記念する目的として作成されました。
兵庫県加古川市との姉妹都市交流がきっかけで、2014年にマリンガ日本公園が開園しました。この日本公園は、環境保全地域に位置し、総敷地面積およそ10万平方メートルの広さを持つブラジル国内で最大規模の日本に関するテーマパークです。
その中でも特に注目されているのが日本庭園です。この庭園は、日本の造園家の川下滉さんと前川忠徳さんによって設計されました。
日本庭園には遊歩道や錦鯉が泳ぐ池、加古川市から贈られた茶室、イベントホール、レストランなどが整備されており、日本文化を発信する場として様々な日本関連のイベントに利用されています。また、マリンガ市民の憩いの場としても親しまれ、とても人気ある観光スポットとなっています。
この庭園で、2023年12月1日に「Maringá Encantada・魅惑のマリンガ」というイベントが開催されました。その際、32万2千人を超える記録的な来訪者となり、一日当たり平均8,000人以上が訪れました。
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この原稿を書いているのは11月。12月6日から日本公園のクリスマスイベントが始まるそうです。今年もマリンガへ行ってビデオを撮りたいと思っています。
メリークリスマス!
© 2024 Laura Honda-Hasegawa