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ブラジルで活躍する日系企業の今

第5回 生物農薬で注目を浴びる東洋紡ブラジル社

藤井康喜社長

第5回目は東洋紡ブラジル社の藤井康喜社長に話を聞いた。

1953年、ブラジルへの日本人移民が本格的に再開した。その2年後、1955年に同社は繊維事業でブラジル進出を果たした。時代の変化に応じて、自社の強みを生かしながら事業を展開し、現在は、繊維事業の技術から派生したサステナブルな生物農薬事業に大きな期待が寄せられている。


過去2年で急成長した生物農薬事業

「東洋紡といえば繊維」というのは、今は昔の話だ。東洋紡の海外現地法人の中で最も古い東洋紡ブラジルは、1955年の設立後、62年にサンパウロ州アメリカーナ市に紡績工場を立ち上げ、その後、64年同市に織布工場、72年サンパウロ市に染色工場、74年サルト市から工場用地の無償譲渡を受け、76年に合成皮革工場の操業を開始した。78年には縫製事業に進出し、84年にイタリアのベネトンと商標デザイン使用契約を結び、ベネトン製品の製造販売を開始した。

37万㎡の敷地のあるアメリカーナ工場

製造販売工程の上流から下流まで、幅広く事業を展開してきたが、2016年、繊維事業からの撤退を決めた。

同社は繊維事業と並行して、88年にサルト工場で酵素事業を開始している。

酵素事業開始のきっかけは、日本の東洋紡が行う体外診断用薬用酵素の原料植物確保と酵素中間体の製造及び輸出のためだ。日本の東洋紡では、レーヨンの廃液を処理するために酵母を使用し、その技術を用いて、医療機関で使用される体外診断用薬用酵素の製造販売を行っている。

酵素製造の閑散期に、カビの胞子を利用した生物農薬を製造するようになり、2010年から販売を開始した。当初は認知度も低かったが、近年の持続可能社会実現の流れに後押しされ、環境に優しく効果も高い同社の生物農薬「EcoMeta Power」と「Ecobass」は、その原料の胞子もあわせて、世間からの注目を集めるようになり、東洋紡ブラジルの主力事業に成長した。


アメリカーナ市「2022年環境ハイライト賞」を受賞

2014年にアメリカーナ市で、同社の成長事業の一つであるエンジニアリングプラスチック工場が稼働した。入れ替わりに16年に繊維事業から撤退。同市では一時1300人以上を雇用していたが、撤退時には400人を解雇することになった。工場の有効利用法を模索する中、サルト工場で生産していた生物農薬事業が拡大していった。空いていたアメリカーナ工場でも生産を開始したことで、同事業は急激な伸びを見せた。

2022年にはアメリカーナ市の環境週間に出展し、生物農薬を寄付した。アメリカーナ市は同年12月6日、同社が市の歴史に長年関わり、繊維事業撤退後も新事業を立ち上げて雇用を生み、環境に配慮した製品を生産し、社会に貢献していると高く評価し、約300人の地域住民が参加するセレモニーで、市長から同社に「2022年環境ハイライト賞」を授与した。

「2022年環境ハイライト賞」授賞式での藤井社長とアメリカーナ市長(右隣)


人と地球に求められるソリューションを提供

日伯の市場では、求められるものが異なる。自動車分野では、日本規格のエンジニアリングプラスチックの製造販売を行っているが、現在、生物農薬の廃棄米を再利用したライスレジンの開発に取り組んでいる。

食品包装用フィルムは、日本では東洋紡の主力事業の一つだが、ブラジルでは、食文化の違いもあって、日本で一般的なレトルト食品に使用されるバリアフィルムのような、先端技術製品へのニーズはまだ低い。

一方、急成長中の生物農薬事業では、東洋紡ブラジルの独自事業として、ブラジル市場で求められる品質のコモディティ品を製造し拡販している。

1882年に渋沢栄一によって設立された東洋紡は、「順理則裕」(なすべきことをなし、ゆたかにする)を理念とし、素材とサイエンスで人と地球に求められるソリューションを創造するグループをめざす。変化する時代の中で、祖業にとらわれることなく、常に世の中に求められる素材を提供し、地域社会と共に発展するというモットーはブラジルでも一貫している。

世界6都市での駐在を経て2022年3月からブラジルに赴任した藤井社長は、「ブラジルでは日系人の方々が115年前から頑張って来られたおかげで、事業展開する上でも大変心強い。日伯の文化を理解できる優秀な社員を雇用できるのもありがたい」と話し、他国の日本人社会にはないブラジルならではの人のつながりの温かさを日本にも持って帰りたいと感じていると語った。 

東洋紡ブラジルグループ
正式名称:Toyobo do Brasil Paticipações LTD. 
所在地:事務所(サンパウロ)工場(サンパウロ州アメリカーナ、サルト)
設立年月:1955年3月
従業員数:595名(2023年4月)
事業内容:ホールディング、不動産管理 、エンジニアリングプラスチックの製造販売、パッケージングフィルムの販売、植物由来の酵素中間体製造、生物農薬の製造販売

 

*本稿は、『ブラジル日報』(2023年6月3日)からの転載です。

 

© 2023 Tomoko Oura

Brazil business Japanese companies São Paulo Toyobo

このシリーズについて

パンデミックの厳しい環境の中でも事業を継続してきたブラジルの日系企業。コロナ禍も落ち着き始め、サステナビリティを目標とした新しい価値基準が求められる中、本連載では「ブラジルで活躍する日系企業の今」をご紹介する。ブラジル日本商工会議所協賛企画。『ブラジル日報』からの転載。