ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2022/5/13/9089/

第7回 横浜の海外移住資料館、リニューアル

「入館無料」の資料館 

移住、ニッケイを知る手掛かりに 

移住や移民についての資料を展示しているユニークな存在として知られる「JICA横浜・海外移住資料館」が、このほどリニューアルオープンした。

明治時代から北米、南米に移住した移民の歴史をはじめ、移住先での仕事や生活の実態を紹介した展示の基本はこれまでと同じだが、映像や動画などを利用することでよりわかりやすくなり、また世代を重ねてきた「日系(ニッケイ)」社会のひろがりを考えさせる展示になっている。

横浜港は、明治維新による開国後、海外に開かれた最大の拠点としてそこから多くの日本人が北米、南米などへと向かった移民にゆかりの深い港だ。いまも国際客船のターミナルになっている大さん橋があり、その西には観光スポットの赤レンガ倉庫が見えるが、そのさらに向こうに、海外移住資料館の入るJICA横浜センターのビルがある。

JICA(Japan International Cooperation Agency)は、「独立行政法人国際協力機構法(平成14年)に基づき設立された独立行政法人で、開発途上地域等の経済及び社会の開発若しくは復興又は経済の安定に寄与することを通じて、国際協力の促進並びに我が国及び国際経済社会の健全な発展に資することを目的とする」と、自ら謳っている。

JICAの前身組織の国際協力事業団は、戦後、主に中南米への移住事業に携わっていたこともあり、JICAもおもな業務内容のなかに、「海外移住者・日系人への支援」を位置づけている。

これを形にした事業のひとつが海外移住資料館で、横浜と海外移住との深い関係などから2002年、JICA横浜国際センター(当時)の開設とともに、南北アメリカを中心とした日本人の海外移住の歴史や移住者と日系人の現在をテーマにしてこの地に設置された。

隣接するみなとみらい地区をはじめ、赤レンガ倉庫や、レストランやショップの集まるワールドポーターズ、さらに近年開業した横浜ハンマーヘッドなどで年々周辺がにぎわいをみせるなかで、海外移住資料館にも来館者が増えているという。


わかりやすく親しみやすく

ビルの2階を占める資料館は入場無料。入口をすぎてすぐに目に入るのは、これまで同様、野菜のデコレーションを施された山車。アメリカオレゴン州、ポートランドに移住した日本人が1920(大正9)年に地元のローズフェスティバルに参加したときの山車のレプリカだ。

1920年にポートランドのフェスティバルに出された山車のレプリカ

「海外移住資料館だより」(No.57)の案内図(1〜14コーナー別)をもとに、館内を見てみよう。山車を起点(1)として順路に沿って見学すると、まず(2)「県別移住者マップ」が掲示され、つづいて(3)「世界移住マップ」がある。日本のどの地方から、そして日本人は世界のどこへいつごろ移住しているかがわかる。(4)「海外渡航の道のり」は、労働契約など戦前、いかにして人々が移住していったかについて解説してある。

近くのフロア上の「映像証言コーナー」では、何人かの移住者が語る体験談を、映像とともに生の声で聞くことができる。(5)は、ブラジル・アリアンサ移住地の開拓風景が再現されている。巨木を切り倒す当時の開拓者の姿を見学者はバーチャルで体感できる。

(6)は、新設のコーナー「花嫁たちの海外移住」。多くの日本人女性が、先に移住した日本人男性と結婚するため、わけもわからず海をわたった。こうした“花嫁”として移住した女性たちについてまとめている。

戦時中、アメリカのおもに西海岸の諸州に住む日系人は、住む場所を終われ収容所に入れられた。そのなかにはアメリカ生まれの日系2世も含まれまた。戦後、日系人らは政府のこの収容政策に対して謝罪と補償を求める「リドレス運動」を展開した(7)は、この運動に関してのコーナーで今回新設された。


巨大スクリーンも

(8)は、戦後海外から敗戦国・日本へ送られた援助物資と海外の日系社会からの援助について。(9)では、海外移住の歴史を時代を追って解説。アメリカでの戦時中の収容所での暮らしや戦地に赴いた日系人部隊について、またブラジル日系人の間で敗戦直後に起った混乱などにも触れている。

移民は日本からどんなものをもっていたったのか、そんな移住者の携行品を展示してあるのが(10)。巨大な3面のスクリーンによって南米パラグアイの移住の物語を展開しているのが(11)。ジャングルが切り拓かれ、農地となる過程や移住地が町へと発展していく様子がわかる。イグアス移住地の現在なども迫力ある映像で紹介されている。このイグアス移住地のジオラマ模型の展示が(12)で、実際に触れてみることができる。

ブラジル北部のトメアスーという日本人移住地では、農業(Agriculture)と林業(Forestry)を組み合わせた「アグロフォレストリー」が行われている。この模様を「アグロフォレストリー 森を作る農業〜アマゾン熱帯林との共存」という動画(6分)で紹介しているのが(13)。

最後に(14)は、おもにブラジルの日系社会の変遷を通して「日系人」とはなにか、「ニッケイ(Nikkei)」の意味するものはなにかを考えさせる展示。日本における日系のコミュニティーの広がりについても言及している。

日系とは何かを考える展示

このほか、体験学習コーナーやこれまで通り日系人のかつての家庭での暮らしなどが再現された展示がある。また、企画展示室では年に数回特定のテーマに沿った展示が予定されている。

海外移住資料館の上階には、一般の人が利用できるレストラン「ポートテラスカフェ」がある。屋外にも席もあり赤レンガ倉庫やベイブリッジが見渡すことができる。見学を終えたらここでひと息つくのもいい。

資料館の開館日、利用の仕方など詳しくは、海外移住資料館のサイトで案内している。

 

© 2022 Ryusuke Kawai

展示会 日本 海外移住資料館 神奈川県 博物館 横浜
このシリーズについて

日系ってなんだろう。日系にかかわる人物、歴史、書物、映画、音楽など「日系」をめぐるさまざまな話題を、「No-No Boy」の翻訳を手がけたノンフィクションライターの川井龍介が自らの日系とのかかわりを中心にとりあげる。

 

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執筆者について

ジャーナリスト、ノンフィクションライター。神奈川県出身。慶応大学法学部卒、毎日新聞記者を経て独立。著書に「大和コロニー フロリダに『日本』を残した男たち」(旬報社)などがある。日系アメリカ文学の金字塔「ノーノー・ボーイ」(同)を翻訳。「大和コロニー」の英語版「Yamato Colony」は、「the 2021 Harry T. and Harriette V. Moore Award for the best book on ethnic groups or social issues from the Florida Historical Society.」を受賞。

(2021年11月 更新)

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