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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2022/1/24/cole-kawana/

コール・カワナ ―全米日系人博物館と人工知能(AI)の力―

コメント

「これは『人の記憶のスナップショット』です」。

ローソン・イイチロウ・サカイとコール・カワナ

23歳のコール・カワナは、全米日系人博物館の最新特別展「ローソン・イイチロウ・サカイのインタラクティブなストーリーファイル」展をそう呼んでみせる。

南カリフォルニア大学を卒業して間もない日系アメリカ人五世のカワナが、この工学に基づいた企画を構想したのは、2019年であった。第二次世界大戦を生き抜いた日系アメリカ人のオーラル・ヒストリーを保存し、共有する手助けをするAIアバターを開発する非営利団体「ジャパニーズ・アメリカン・ストーリーズ」の設立者であり、代表のカワナは、このイマーシブな展示を制作するために、「ストーリーファイル社」とがっちりタッグを組んだ。

カワナは数多くの仕事をこなした。資金を調達し、諮問委員会に意見を求め、最終的にはプロジェクトを全米日系人博物館に寄贈した。

この展示では、第二次世界大戦中に第442連隊戦闘団として従軍した、ローソン・イイチロウ・サカイを取り上げている。AIを使って高度にインタラクティブな場をつくりだすことで、来館者は思いつくどんな話題についても、質疑応答の形式で、サカイと話すことができる。

「どこで生まれましたか」、「戦友を失うということはどんな感じですか」などはサカイが答えてくれる質問のほんの一例にすぎない。カワナの説明では、1週間にわたり午前9時から午後5時まで集中的に行われたインタビューでは、1,000に及ぶ質問がなされ、退役軍人の人生があますとこなく収められたという。その後、1,000の質問に対して15から50のイテレーション[註:反復処理]に応答できるように、AIを学習をさせた。

ローソンの人工知能プロジェクトの撮影現場風景

来館者が口頭で問いかけるか、あるいは、博物館に備えられたタブレットに質問を入力することで、サカイと会話を始めることができる。テープに収録されたサカイの記録データが、来館者の質問に応じて、自動的に答えをマッチングさせてゆく。このようにして、肩ひじの張らない、しかしながら、真に迫る、第二次世界大戦の退役軍人との対話が実現する。

サカイの深みがあり、率直な答えぶりには、カワナ自身も感動するほどである。

サカイはこの展示が全米日系人博物館で開催されるわずか1年前の2020年に逝去したが、彼の家族は、内輪の試写会で、AIの力により、サカイと再会することができた。

展覧会開幕日に集まったローソンの家族と共に

「約1年も話してなかった家族のそれぞれが会話をもつきっかけにもなりました」とカワナは言う。「ローソンに質問をしてみると、生前には家族の誰も聞いていなかった話をしたのです。これには本当にびっくりしました」。

カワナには、サカイとのインタビュー以外にも、他の日系アメリカ人の証言を、長年にわたりこつこつと記録してきた。カワナは小学5年生の時、親戚一同が集まった家族の会で、親戚の人生を記録に残すために雇われたオーラル・ヒストリアン[註:口述される個人史、オーラル・ヒストリーを記録する専門家]に興味をそそられた。親戚が、ひとりずつ、部屋の端に呼ばれ、カメラに向かって自分の歴史を語るのを見ながら、カワナはその記録の技術と工程に一気に魅了された。

翌年、カワナは、自分と同年代の生徒に向けて、自宅で個人史のオーラル・ヒストリーを録画するための実践ガイドを創作し、歴史の記録の世界をより深く追求しようとした。カワナ自身もまた証言の録画を始めた。自分の父方の祖父の証言を記録したのに加え、大叔父であり、日系アメリカ人の学生として住んでいた広島で被爆しながらも生き延びた、アーサー・イチロー・ムラカミにもインタビューした。その録画は2010年に全米日系人博物館の展示で紹介され、後に広島平和記念資料館に収蔵された。

カワナの全米日系人博物館との歴史は長く、数世代にもわたっている。

祖父母のリチャードとマサコ・コガ・ムラカミは長年にわたる全米日系人博物館の支援者であり、特にマサコは同館初のボランティアでもある。カワナによると、母親も、博物館の最初のテープレコーダー購入のための資金調達に奔走したそうだ。全米日系人博物館と同館があるリトル東京の豊かな文化の息吹にどっぷりと浸かってきたカワナは、同館前のプラザに刻まれた自分の名前を探したり、毎年恒例のお祭り「二世ウィーク」に参加したりした日々を懐かしく思い出す。「私が日系アメリカ人の文化に感化されたのは、全て家族あってのことです」と、カワナは力を込めて言う。

日系アメリカ人の諸問題に心を砕いていたカワナにとって、自分が受ける教育にしだいに不満を持つようになったのは、無理からぬことであった。

「高校の歴史で、強制収容所の説明は、たったの1段落でした。約5分で終わりでした。自分の人生にとって大きな出来事なのに、ごくわずかしか語られなかったことに、大きなショックを受けました」。

その後、南カリフォルニア大学ショアー財団への関与を通じ、カワナは、ホロコーストの生存者に関する研究や、高校生のための教育的プログラム、実験的なAIの技術に没入していった。しかし、年老いてゆく日系アメリカ人の戦時下の体験談を記録する早急の必要性に気が付いたカワナは、日系アメリカ人のオーラル・ヒストリーに光を当てるために、ショアー財団で働いたときの経験を生かすことにした。

そして、カワナは「ジャパニーズ・アメリカン・ストーリーズ」を設立し、ローソン・サカイの取材を始めた。そこからの歩みは、今や誰もが知っての通りである。

この非営利事業に多忙なこの南カリフォルニア大学の卒業生は、ハイドロフォイル・サーフィンにも情熱を注いでいる。また、「ジャパニーズ・アメリカン・ストーリーズ」や他の非営利事業と共に、生活困窮者に飲料水を届けることを目的とする「クリーン・ウォーター・アンバサダー財団」でも精力的に活動している。同時に、ハワイでセミプロとして活動していたハイドロフォイル・サーフィンのキャリアには、近々、区切りをつけようとしているそうである。

さらにカワナは、ローソン・サカイの企画とAIの今後の展望にも胸をふくらませている。同展は将来的に、サカイを三次元ホログラフィーで投影する可能性を探っている。

しかし、この企画の真の価値は、教室という環境でも展示内容にアクセスできることにある、とカワナは言う。インタビューの内容や装置の機能をオンラインで呼び出すことによって、生徒はサカイとの意見交換によって、「歴史の教科書のほんの5分のお話」より、はるかに多くを学ぶことができる、とカワナは語る。

「人工知能とホログラフィーの技術は複雑ですが、この技術の最終的なゴールは、現実との融和です。つまり、人と人との対話を創出し、保存しようとしているのです。50年後の子供たちが、本で読んでいた歴史上の人物と会話できるようにしたいのです。強制収容所や第二次世界大戦について本で読むことも大事ですが、史実を生きた当事者と直接話すことで、全く違う共感を得ることができます」。

展覧会開幕日の様子

コール・カワナは、「ローソン・イイチロウ・サカイのインタラクティブなストーリーファイル」展が、博物館からでも、教室からでも、日系アメリカ人の歴史を世に届ける声となることを期待している――交わされる一つずつの会話の積み重ねによって。

 

ローソン・イイチロウ・サカイのインタラクティブなストーリーファイル」展は2021年11月30日に公開された。

 

© 2022 Kyra Karatsu

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このシリーズについて

このシリーズでは、世界各地で暮らしている30歳未満の若い世代の日系人から話を聞きました。ニッケイ・コミュニティの将来をより発展させるために活動する若者たち、また斬新でクリエイティブな活動を通じてニッケイの歴史や文化、アイデンティティを共有し、探求している若者たちです。

ロゴデザイン: アリソン・スキルブレッド

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執筆者について

カリフォルニア州サンタクラリタで生まれ育つ。現在カリフォルニア州バレンシアのカレッジ・オブ・キャニオンズでジャーナリズムを専攻する1年生で、準学士号を取得後、4年制大学への編入を希望している。キーラは日系とドイツ系の四世で、アジア系アメリカ人の体験について読んだり書いたりすることを楽しんでいる。

(2021年1月 更新)

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