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アメリカの日本語媒体

第3回 1902年創刊『北米報知』アメリカで現存する最古の日系紙

9割が英語の紙面に

アメリカで最も古くから発行されている日系新聞は、ワシントン州シアトルに拠点を置く『北米報知(The North American Post)』だ。ただし、創刊時の紙名は『北米時事(The North American Times)』であり、その創刊は1902年に遡る。古くから日系社会が形成されていたシアトルで、最初の発行人である隈元清氏ほか数名の1世たちが立ち上げた同紙は戦前までは邦字日刊紙として発行部数約1万2千部を誇っていた。地元シアトルだけでなく、ポートランド、ロサンゼルス、サンフランシスコ、スポケーン、バンクーバー、東京に通信員を持ち展開していたそうだ。

英語と日本語の記事から成る『北米報知』の紙面。

しかし、第二次大戦時に幹部がFBIに連行されるなどで1942年3月に廃刊。発行の中核を担ったスタッフが街に戻ってくると、『北米時事』の政治色は抑えられ、コミュニティーのための告知メディアにそのコンセプトを一新して『北米報知』として再創刊された。その後、日本語を読む日系1世の人口減少と共に購読者も減っていく一途だったが、1988年、シアトルを中心にノースウエスト地域に日本食マーケットを展開する宇和島屋の社長(当時)トミオ・モリグチ氏が発行人として名乗りを上げた。こうして歴史ある日系新聞の存続が維持されることになった。そして、日系人の世代の変化に合わせて、2005年に無料配布を開始、2017年以降は大幅に英語のセクションを増やし、現在では紙面のうちの9割が英語紙面で、3世以後の日系・アジア系アメリカ人をターゲットに据える新聞に生まれ変わった。現在の発行は、月2回で部数は月に1万5000部だ。

一方で、2012年には1992年創刊のシアトルの日本語情報誌『ソイソース』を買収。これによって、North American Post Publishing Inc.は、日系人向けには『北米報知(The North American Post)』、そして日本人向けには『ソイソース』という2種類の媒体の発行元となった。

『北米報知』の編集長兼ゼネラル・マネージャーさんの室橋さん。Zoomインタビューより。

このような歴史について教えてくれたのは、現在『北米報知』の編集長兼ゼネラル・マネジャーを務める室橋美佐さん。室橋さんに「どのような記事に人気があるか」について聞くと次のように答えた。

「日系3世もすでに50代、60代となりリタイヤする時期を迎えています。仕事も終えた彼らにとって次に向く関心というのが、ファミリーのルーツなのです。ですから日系のファミリーの歴史に関する記事が特に人気です。そうした記事の取材対象を探すのに苦労はありません。シアトルの日系コミュニティーの結束は強く、皆知り合いです。特に広島や熊本などの県人会やシアトル別院仏教会などの日系教会、またワシントン州日本文化会館やDenshoなどの非営利団体も活動が活発で、そうした団体で皆さんのつながりが保たれています。コロナの時期は新年会などのイベントは中止となりましたが、普段は私もそのような団体のイベントに参加させていただいています。ワシントン州日本文化会館は、1902年に創立された国語学校の校舎を活用して日系文化を若い世代へ伝えています。Densho(伝承)は、ファミリーヒストリーの口承を記録する映像、写真、古新聞などのデジタル保存を行っている団体です」。


日系人と邦人の橋渡し

日系人たちの家族の歴史に関する記事は、前述の姉妹紙の『ソイソース』に日本語に翻訳して転載している。「『北米報知』は日系人を対象にした媒体、そして『ソイソース』は日本人対象の媒体で、双方の情報を交換することで両者の架け橋になることを目指しています。日系アメリカ人のコミュニティーと日本人のコミュニティーは、近そうで遠い存在です。まず、言葉の壁があるということが一番の理由だと思います。日本人には日系人の歴史を伝え、日系人にも日本からアメリカに来て活躍している人のことを知らせることで、その間の壁を少しでも取り払いたいのです。英語で書いた記事を日本語に、また日本語の記事を英語にして、互いの歴史だけでなく今抱えている問題についても知らせる意義はあるはずです」と室橋さんは、記事の転載でコミュニティー間のギャップを埋めることに今後も力を尽くしたいと話す。

しかし、問題はやはり経済面だ。「紙面の広告収入や購読費だけでは厳しい昨今、媒体以外にも収入の道を模索してきました。近年で特に好調なのが、日系アメリカ人を対象にした日本への旅行事業です。10年程前から始め、ここ数年で運営ルーティンが確立されてきて、リピート客も増え、しっかりと利益を出して運営できるようになりました。媒体事業は公共性が高いので、コミュニティーへの貢献と、収益を意識した経営とのバランスが常に課題だと思います。ゼネラル・マネジャーとしては、『北米報知』の歴史を続けていくためにも、収益を確保できる媒体運営も意識しています」。

北米報知財団というNPOも2011年に立ち上げられ、昔の記事をデジタルにアーカイブ化して、シアトル地域の日系の歴史を保存、伝承するというプロジェクトにも取り組んでいる。「日系移民の歴史保存や、その歴史を若い世代に伝えていくような非営利事業は、こちらの北米報知財団で行政支援やコミュニティーからのドネーションを受けて活動していきます」と、室橋さん。

ところで北米最古の日系紙として、今後も紙の印刷にはこだわっていくのだろうか?「インターネットの情報と紙の情報とはその特性が異なります。インターネットの場合は、見る人がキーワード検索などで自分が欲しい情報だけを入手します。しかし、紙の媒体の場合は、新聞を手に取ることで見る人が意図しない情報を伝えることができるのです。まだ紙媒体の存在意義はある、と信じています」。

そして、2022年、『北米報知』は創刊120周年を迎える。「創刊120周年企画の一環として、『「北米時事」から見るシアトル日系移民の歴史』という連載記事が5月にスタートしました。おじいさまがシアトル在住の日系人だった日本の方が、戦前の日系社会について『北米時事』のアーカイブ記事を読んで執筆してくださっているものです。オリジナルが日本語の記事を、全米日系人博物館のプロジェクト、ディスカバー・ニッケイとのコラボレーションによって英訳もしています。さらに日系アメリカ人の歴史に関するオンラインセミナーも、120周年に向けて更に多く開催していきたいです」。

室橋さんは、以前はシアトルで『Ibuki』という誌名の日本文化を英語で伝える雑誌を発行していた。その後、育児に専念していた期間を経て、4年前に『北米報知』の編集長兼ジェネラルマネージャーに就任した。今後も経営面と編集面の両方に目を配りながら、同時に日系人社会と邦人社会の橋渡しにも寄与してほしいと願う。

 公式サイト
・『北米報知
・『ソイソース

 

© 2021 Keiko Fukuda

Japanese newspaper Misa Murohashi Seattle Soy Source The North American Post

このシリーズについて

アメリカ各地で発行されている有料紙、無料紙、新聞、雑誌などの日本語媒体の歴史、特徴、読者層、課題、今後のビジョンについて現場を担う編集者に聞くシリーズ。