ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2018/7/30/isahama-imin-2/

第2回 戦中、機関銃で家族3人失う

戦中の体験を語る澤岻さん

「本当は戦争のことも、土地闘争のことも話したくありません」。そう切り出したのは伊佐浜移民のひとり澤岻安信(たくし・あんしん)さん(85)だ。昨年末、澤岻さんの知人宅で取材した際、同席した同県人にウチナーグチ(沖縄の方言)で促されるなか、戦中の体験から少しずつ語り始めた。

激烈な沖縄戦の最中の1945年4月、澤岻さんは13歳だった。母、弟、妹と普天間神宮近くの自然壕に身を隠していたところ、日本兵から米軍が来るから別の場所へ避難するよう指示を受け、暗い夜道を歩いていたという。

すると突然、照明弾が上がり辺りは昼間のように明るくなった。同時に「バリバリバリ」という機関銃の音がして、一緒に避難していた人たちが撃たれて次々に倒れた。

このとき母、弟、妹を亡くした。澤岻さんは自然壕に戻ったが、翌朝米軍に見つかって捕虜になった。収容所で祖父と再会し、そのまま終戦を迎えた。

終戦から2年が経ったころ伊佐浜の自宅に戻ることが許された。田畑には背の高さほどまで草が生い茂っていたので切り開いた。その頃、フィリピンに出稼ぎに行っていた父親が戻ってきたので、祖父と父と3人で暮らし始めた。タクシー運転手の仕事で生活にやっと安定の兆しが見え、54年に結婚した。

その年の4月、米軍は「土地収用令」を交付し、伊佐浜一帯の水田への水稲の植え付けを禁止すると言い渡した。「流行性脳膜炎を媒介する蚊が発生するのを防止する」というのが表向きの理由だった。

住民らは琉球政府を通して、水稲植付禁止指令の解禁を陳情したが、9月にブルドーザーがやってきて、いきなり耕地の地ならしを始めた。住民約200人が駆け付け中止させたが、区長は基地に連行され、取り調べを受けた。

その後、米軍が提示したけた外れに低い賃借料で交渉が成立に傾きかけた。しかし「男たちの妥協」としてナエさんを中心に女性が立ち上がったことで、村全体で土地接収に反対する機運が高まり土地闘争は本格化する。

それに対し、米軍は実力行使に打って出た。1955年3月、基地の建設工事を強行。止めようと集まった住民に対して、引き金に指をかけて銃剣を向け、銃尾で老人、女性みさかいなく殴りつけた。

住民と米軍の間の緊張が高まる中、7月11日、米軍は土地接収の期限を同月18日に決め、その日までに立退くよう伝達した。住民らは琉球政府を通じて、度重なる陳情を続けていたが無視された。

55年7月18日、住民たちは自分たちの土地に座り込み、何としても米軍を食い止めるつもりでいた。土地接収は沖縄中の関心を集めていて、他の地域から駆け付けた支援者や新聞記者などが集まっていた。当時琉球大学の学生でその場に居合わせた作家の川満信一(かわみつ・しんいち)氏は著書の中で「5、6千人の支援団体がつめかけた」(『沖縄・自立と共生の思想「未来の縄文」へ架ける橋』、海風社、1987年)と記している。

澤岻さんの一家も座り込んだ。「いくらアメリカといえども民間人を殺すことはない。絶対にどくものか」と澤岻さんは考えていた。

終戦から10年。安定へと向かっていたはずの戦後の人生設計が、大きく崩れようとしていた。

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*本稿は、「ニッケイ新聞」(2018年3月15日)からの転載です。

 

© 2018 Rikuto Yamagata / Nikkey Shimbun

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このシリーズについて

終戦から10年目の1955年7月19日、「沖縄有数の美田」といわれた宜野湾市伊佐浜の土地、さらに家屋までが米軍によって強制接収された。土地を失った10家族が縁故のいない未知の国、ブラジルに移住したのはその2年後のことだった。「伊佐浜土地闘争」は強制接収に対する初期の抵抗運動として、その後の「島ぐるみ闘争」で象徴的に語られる史実となった。その一方、渡伯した人々がどんな人生を送ったかは、あまり知られていない。どのような想いで土地を奪われ、故郷を離れたのか。どんな思いを秘めてブラジルで生きてきたのか。3組の伊佐浜移民への取材を通して、激動の沖縄近代史の一端をたどった。全5回シリーズ。「ニッケイ新聞」からの転載。

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執筆者について

1992年⽣まれ、埼⽟県出⾝。明治⼤学商学部卒。⼤学⽣のときにブラジル、アルゼンチンなど中南⽶諸国を訪問。卒業後2年間保険会社で務めた後、2017年から1年間、ブラジル⽇本交流協会の研修制度を利⽤してニッケイ新聞で研修を受ける。18年からニッケイ新聞記者。

(2018年7月 更新)

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