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第8回 日本に帰化するメリット、デメリット

コメント

四世が使うブラジルのパスポート

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【永井】そうなんですよね。だからブラジルの場合は面白いですけど、ブラジルで生まれたらブラジル人じゃないですか。で、日本で生まれてもブラジル人なんですよね。

まあ、いろいろ憲法が変わって一時期、外国で生まれると無国籍になっちゃう時期もありましたけれど、今は日本などの外国で生まれた子供でも、ブラジル人の子はみんなブラジル人になる。日本人の場合は、日本で外国人の子供が生まれた場合は日本人にはなれない。で、日本人の子が外国で生まれても届出しないと日本人になれない。

【深沢】日本で生まれ育って「日本しか知らないブラジル人」ていう世代が今結構出てきてるわけだし、その人たちが例えば帰化したいと思ったときに、割と簡単にできたらいいな、と。

【永井】そういう子は比較的帰化しやすいと思いますけど。

【島野】ただし、帰化したことで、なにか日本社会での扱いが変わるかというと、余り変わらない気がします。だから1月に日本に行ったんですけど、いろんなところを訪問して、保険会社で働いている私のような三世に会いました。顔はほぼ外国人なんですが「どうしても帰化したい」と言うんですよね。

「どうして?」って聞いたら、「日本人になりたいから」っていわれたんです。「でもね、あんまりメリットが無いのよ」って、いろいろ話してたんですけど。その人も良くわかってなくて、とにかく「日本社会にもっと受け入れてもらいたい」って気持ちが強いことは特に感じました。

【深沢】帰化しても「日本人とまったく同じ」ように扱われる保証はないですよね。現実的には。

【永井】ただですね、僕は日本に住まれているブラジルの方で要件を満たしている人は、全員に帰化することを推奨しています。と言うのは、今の時点ではブラジルの人が日本に帰化した場合は、ブラジル国籍はなくならないんですよね。二重国籍になれるわけです。そうすると、何もデメリットは無いんですよね。

ブラジルの場合は外国に住んでいても選挙に行かないと、ちゃんと届出しないとムルタ(罰)があるとか、徴兵制度があるとか、一応義務が生じますけど、日本の場合は外国に住んでいる日本人に対する義務はほとんど何も無いんですよね。

【深沢】日本国籍を持っていると、周りの日本人からの見る目が変わるだろうと思います。「この人は日本国籍持ってます」というと、ガイジン顔をしてようが、「あーこの人はニホンジンだね」って。

【永井】そうですよね。

【深沢】そういう部分ってね、妙にあるんですよね、日本人には。

【島野】そうなんですか。

【永井】あとまあ日本語が話せれば、なんか。

【深沢】日本に長いこと住んでいて、日本語が話せて、国籍が日本だったら日本人みたいな雰囲気がありますよね。その辺、ブラジルだと「アイデンティティと国籍が違うのは当たり前」なのが常識ですけど、日本ではその辺が、まだあいまい。

たとえば戦後移民の多くは、土地取得や会社創業の関係でブラジル国籍に帰化しました。ですが、それは書類上必要だからやったんであって、アイデンティティ自体は「いつまでも日本人」というのは常識。

昔サッカー日本代表にラモスっていう帰化選手がいましたよね。「サッカー日本代表の司令塔」とか言われてね。みんなラモスのこと「日本人」って言ってたけど、僕らは「あれは日本に帰化したブラジル人だろ」って思っていた。

実際、僕は以前、東洋街で彼をインタビューしたとき、やっぱり「ブラジル人だ」と感じました。僕は単純に彼は「ー日本代表の司令塔」なんだから日本語でインタビューできると思って行ったら、彼がポルトガル語でこう言うんですよ。「ここはブラジルだから、ポルトゲースじゃないとインタビュー受けない」って。つまり、日本人とブラジル人を切り替えていたんですね。それで最後までポルトガル語でインタビューした。

【島&永】(笑)

【深沢】コイツー、ほんとに日本人かと。いや~、でもそのような切り替え方、割り切り方はブラジルでは当たり前なんですよね。

【永井】日本国籍を持っていた方が安心な場合としては、たとえばですが、日本語ぺらぺらで日本にたいへん馴染んでいる外国人でも、外国籍だと交通事故起こして人が死んじゃったりすると、刑務所に入らなくてはいけなくなって、母国に帰りなさいって帰されちゃうこととかも可能性としてはあるわけですよね。

そのほか、あるいはその、何年か置きに入国管理局にカードの更新に行かなかいけないとか、例えば採用されるときに働けるっていう在留カードのコピーを職場に提出しなくてはいけないとか、いろんな制約が日本にはある。

ブラジルの場合は、外国人でもあんまり関係ないっていうか、あんまり外国人だって不自由を感じることは無いですよね。

【深沢】まあ、選挙が出来ないとかね。

【永井】選挙ができないくらいですよね。だけど日本はすごく制限が多かったり、手続きしなきゃいけないことが多かったりするので、国籍が取れて、しかもブラジル国籍がなくならないのであれば、取っといたほうが日本に住んでる限りは安全だと思います。

【深沢】あと、日本は移民政策をやらないという点が根本的に間違いっていると思う。絶対に「移民政策」と言う言葉を使わないというポリシーがある感じですね。

でもそれが限界に来ている感じがする。「外国人労働者」は受け入れるけど、「移民」は受け入れませんと。どこに差があるのかっていう。

【永井】それは結局、ちょっと方便みたいなところがあって。

【深沢】方便ですよね。

【永井】ていうのは「移民を受け入れる」というと反対する人が多いわけです、国内に。だから「受け入れない」と口では言うんですよね。けど実際は受け入れないと労働力が足りなかったりして、会社とか経済的な組織は、またそれはそれで不満がる。だから受け入れないということを口でだけ言って反対が起きないようにしつつ、実際は裏口からどんどん入れているって言うね。

【深沢】その人たちがだんだん住み着いていくのは目に見えているわけですよね。

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* 本稿は、ニッケイ新聞(2018年8月29日30日付)からの転載です。

 

© 2018 Masayuki Fukasawa / Nikkey Shimbun

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このシリーズについて

四世ビザが成功して五世、六世まで訪日就労しながら日本文化を学べるようになるならば、この査証制度は日系社会の将来を左右する大事な制度ではないか――そんな問題認識に基づいて、元デカセギ子弟で帰伯後にブラジルで弁護士になった島野パトリシアさん、デカセギ対応の最前線にいる国外就労者情報援護センター(CIATE)の専務理事・永井康之さんを迎えて、ニッケイ新聞の深沢正雪編集長と座談会を行った。

(※この座談会は2018年6月に実施され、その後の事情の変化を反映するために加筆訂正したもの。ニッケイ新聞からの転載。)

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執筆者について

1965年11月22日、静岡県沼津市生まれ。92年にブラジル初渡航し、邦字紙パウリスタ新聞で研修記者。95年にいったん帰国し、群馬県大泉町でブラジル人と共に工場労働を体験、その知見をまとめたものが99年の潮ノンフィクション賞を受賞、『パラレル・ワールド』(潮出版)として出版。99年から再渡伯。01年からニッケイ新聞に勤務、04年から編集長。2022年からブラジル日報編集長。

(2022年1月 更新)

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