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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2018/11/28/7439/

ラテンアメリカにおける日系人の政治活動 ― その1

コメント

ラテンアメリカでは、以前は多くの国で独裁政権が誕生したが、ここ30年の間、政治不安を抱えながらも民主化が進んだ。しかし、選挙によって樹立した「民主的な政権」でも、野党の活動が制限され、政治家を監禁もしくは投獄している国はいくつもあり、未だに政治的暴力が行われている。そのせいか、日系社会では以前から日系人の政治活動に対して慎重論が強い。戦後の民族主義的、軍事政権の時代には、その傾向が強く政権側の要職は歓迎されても、野党もしくは反政府の政治活動はタブー視されていた。実際、私も高校生の時、大学で政治学を専攻したいと親へ話をした時、猛反対されたことを今も覚えている1

南米では、表向きは民主的な政治が行われていても、裏では暴力が存在し、政府によって報道の自由や政治活動が制限されていることがよくある。選挙期間中は、候補者どうしがお互い罵り合い、個人攻撃する姿がよく見られ、政策論争ではイデオロギー対立が中心で、その時々の課題や改革に対して本質的な議論が行われることはあまりない。

国選や地方選を問わず、候補者の家族が脅迫されたり、候補者の命が狙われたりするなど、実際に傷害・殺人(暗殺)事件に発展することもある。以前はコロンビアやペルーで政治家殺害のニュースがよく聞かれたが、近年ではメキシコで若い志のある政治家や新米候補者が殺害されたというニュースがたびたび報道された2。また、今年のブラジルの大統領選では、元軍人で右派候補のボルソナーロ氏が遊説中刃物で刺され、重傷を負った(2018年9月6日)3。注目度の高い候補者だったので世界のメディアがこぞって報道したが、地方選などで起こる数々の類似した事件はほとんど表に出てこないのが実情である。そのため、重要な事件を担当している検事や判事には常に護衛がつく。このような事実は、南米諸国の“民主政治”の現状を表しているといえる。

このような政情のせいか、1990年にペルーでフジモリ大統領が誕生した時、日系社会はとても複雑な思いをしたという。感激と嬉しさもあったが、政権が失敗したときの制裁や悪評が日系人にも及びせっかくの社会的地位や信頼に害を及ぼすのではないかと恐れたのである。実際、その後同大統領が日本に事実上亡命し、チリで逮捕されてペルーの司法当局に引き渡された際、多くの日系指導者の懸念は増した。コミュニティの不安とは裏腹に、元大統領が公訴され服役したことで日系社会への影響は限定的に終わった。今では、娘のケイコや息子のケンジも政界で活躍し、2021年に行われる大統領選では、ケイコ氏が当選する可能性はかなり高いと言われている。とはいえ、コミュニティの心情は今でも複雑である4

ケイコとケンジ・フジモリは不仲であるといわれているが、二人ともペルーの政界で活躍している。ケイコ氏が率いるフエルサ・ポプラル(民衆勢力)党は最大野党であり、議会の過半数を持っている。

日本人移住者一世は、日系人が社会に何らかの方法で還元するのであれば、政府機関の要職に就くことが重要であると主張していた。1970年後半ごろ、ブラジルで日系人が連邦議員や閣僚になったことを誇らしげに話していたことを記憶している。現在のペルーでは、地方や中央政界で活躍する日系人政治家や官僚もおり、議員や議会委員会の政策専門アドバイザーから大臣官房や局長、長官に任命されたものや、軍や警察当局の上級幹部や長官になった日系人もいる。

ブラジルには過去の実績や専門性が買われて州や市当局の責任者に任命された日系人がいる。また2018年10月の選挙には、再選を狙う現職連邦議員をはじめ、数人の日系人候補者がいた。

その2>>

注釈:

1. 私が高校を卒業した1978年、アルゼンチンはまだ軍政権下にあり、すでに日系人活動家の数人が行方不明、投獄されていた。当時、これらの事実は「大人だけの秘密」で、私はよく知らなかった。1983年に民政権が誕生してはじめて、十数人の日系人が反政府活動で投獄されていたことを知った。

2. “Violencia sin fin en México”, Ambito Financiero (10 de junio de 2018)

2018年7月、メキシコでは大統領選挙とともに、議会選(500の下院議員と128の上院議員の選出)と地方選(9の州知事の選出)が実施された。6月、北部のコアウイラ州の議員候補だったフェルナンド・プロン氏が選挙集会後に殺害された。民間の調査会社Etellektによると、2017年9月から2018年6月までの政治暴力事件は400件に上り、10ヶ月間で112件の殺害事件のうち28件が予備選の候補者、14件は候補者が正式に被害を届け出たものだという。被害を受けた市長選の候補者も多く、127人の政治家またその家族が脅迫を受けた。選挙後も、当選者やその側近が殺害されており、8月末までの1年間で175人の政治家が命を落としている。(Etellekt) 

3. ボルソナーロ候補は、決選投票で勝利し2019年1月1日にブラジルの大統領とし就任する。

4. 2018年11月、ペルー検察庁はブラジルのオデブレッヒ(Odebrecht)社から不正に政治献金を受けたとして、ケイコ・フジモリ氏を拘束し、逃亡の恐れがあるとし36ヶ月間の勾留を決定した。まだ、本格的な逮捕ではなく、検察はこれから証拠集めをするようだが、そのような状況下で政治家が拘束されるのは異例の出来事である。そのため次期大統領選に出馬できないように、政敵の陰謀もしくは政治妨害であるという見方もある。

 

© 2018 Alberto J. Matsumoto

ブラジル 政府 日系 ペルー 政治家 政治 政治家(statesmen) アメリカ合衆国
このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。

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執筆者について

アルゼンチン日系二世。1990年、国費留学生として来日。横浜国大で法律の修士号取得。97年に渉外法務翻訳を専門にする会社を設立。横浜や東京地裁・家裁の元法廷通訳員、NHKの放送通訳でもある。JICA日系研修員のオリエンテーション講師(日本人の移民史、日本の教育制度を担当)。静岡県立大学でスペイン語講師、獨協大学法学部で「ラ米経済社会と法」の講師。外国人相談員の多文化共生講座等の講師。「所得税」と「在留資格と帰化」に対する本をスペイン語で出版。日本語では「アルゼンチンを知るための54章」(明石書店)、「30日で話せるスペイン語会話」(ナツメ社)等を出版。2017年10月JICA理事長による「国際協力感謝賞」を受賞。2018年は、外務省中南米局のラ米日系社会実相調査の分析報告書作成を担当した。http://www.ideamatsu.com 


(2020年4月 更新)

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