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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2016/4/28/tohoku-no-shingetsu/

「東北の新月」初上映会を仙台で開催!

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東日本大震災発生から5年を迎える日の9日後となる2016年3月20日。私たち市民有志は、リンダ・オオハマさん製作の記録映画「東北の新月」の上映会を仙台で開催しました。映画は2月末に完成。その作品を収めたブルーレイを携えて、3月7日にリンダさんが来日。初演の地として仙台を選んでくださったのです。

上映会当日の午前9時。上映会場となる「せんだいメディアテーク」の扉が開錠されると、数十人が館内になだれ込み、一斉にシアターを目指しました。午前10時の上映開始に合わせて受付の準備をしようと思っていた私たちは焦りました。打ち合わせもそこそこに、各人が持ち場についたのが午前9時20分過ぎ。すでに通路は100名以上の人々でごった返す有様。

「2列に並んでお待ちください」。はやる気持ちの来場者に、誘導係の宮田達雄さんが優しく何度も声をかけ、混乱も収束。来場者たちは配られた整理券を片手に整然と場内へ。定員180名のシアターもあっという間に席がふさがっていきます。

入場する来場者の方々

上映開始直前、「満席を理由に入場をお断りした。でも、『何としてでも午前10時に上映される映画を見たい』というお客さまがいらっしゃる」との連絡をスタッフから受けました。その方に、2回目の上映時にご覧いただくようお願いしても理解していただけません。どうすべきか、考えあぐねているところに、「1つだけ余席があった」との場内係からの報告。その方には最後の座席に着いていただくという一幕もありました。

上映開始前の客席

午前9時50分。司会の立花裕子さんがオープニングを宣言。続いて、大橋庸晃実行委員長とリンダさんからご挨拶。映画完成を祝う実行委員会からリンダさんに花束が渡された後、メッセージが代読されました。発信人はカナダのジャスティン・トゥルードー首相。当日の来場者と被災地の人々あてのものです。そこには、リンダさんが被災地のためにしてこられたことと、カナダ国民を代表して復興を祈っているということが書かれていました。カナダの首相からメッセージが届くなどとは思いもよらぬこと。驚くとともにとてもうれしく感じました。来場者も同じ気持ちだったことは間違いありません。一国の首相からメッセージが届いたことに、実行委員一同、リンダさんへの認識を新たにしました。

午前10時。場内の照明が落とされ、第1回目の上映開始。リンダさんが仙台に来られる折に部屋を無償で提供している大橋宅の台所から映画が始まります。日常生活のシーンに続くのが、毛筆で書かれた「故郷」「家族」「歴史」「思い出」「美」「愛」の文字と、それを読み上げる声に重ねて流れる震災の傷跡の数々。映画が始まり1分しかたっていないこの段階で観客席からすすり泣きが聞こえてきました。あの恐怖の体験がよみがえってきたのだろうということは容易に想像できます。

津波が町を飲み込む衝撃的映像が流れた後の静寂。このなかで女優草刈民代さんの端正で温もりのあるナレーションにより、リンダさんが東北を訪れることになった経緯が告げられます。直前の猥雑で緊迫したシーンと対照的な、草刈さんの静かで優しい語り口に、私の涙腺も緩みはじめました。震災直後より被災地のために数々の支援を行ってきたリンダさんの後ろ姿を見てきているからかもしれません。

映画では、岩手、宮城、福島の被災者がそれぞれのその日とその後のことを語るかたちで物語が展開していきます。津波に流され九死に一生を得た女性と家族。とっさの判断で奥さんを連れ出し、ふたりとも難を逃れた男性。津波で土台だけとなったかつてのわが家を案内する女性。原発事故の影響を恐れながら暮らす女性と7人の子どもたち。原発事故でふるさとを失った男性。住民の避難により風前の灯となった伝統行事を守ろうとする男性。ボランティア活動のため島根県から被災地に移り住んでいる男性。ネットで世界に救援を呼びかける市長。原発事故から子どもを守りたいと思いながらも、それを口にすることさえ憚られる雰囲気のなかで葛藤する福島のお母さんたち。それぞれの境遇に感極まる観客も少なくありません。「上映中、ずっと泣き通しだった」と教えてくれた中年男性もいました。その気持ちも分からなくはありません。程度の差こそあれ、だれしもが似たような経験をしてきているのですから。

「映画を見終わった後は、心を爽やかな風が通り抜けていったような感覚を味わった」という人が大勢いました。それは、最後の20分くらいの間に流れる映像が、困難ななかにあってもめげることなく、明るく前を向いて生きようとする東北の人々の姿を映しだしているからなのかもしれません。

上映が終わって出口に向かう人々をお見送りするのはリンダさんと私。どの人の目も潤んでいるのが分かります。リンダさんに握手を求めたりハグしたりする人もいました。その気持ちも理解できます。被災者の気持ちを、映画がみごとに代弁しているのですから。

モンキーマジックのプラント氏を迎えるリンダ・オオハマ氏

このようにして当日は4回上映し461名の方々に「東北の新月」をご覧いただくことができました。また、地元で有名な音楽バンド・モンキーマジックのメンバーであるブレイス・プラントさんと、プロ野球楽天ゴールデンイーグルス元ジェネラルマネージャーのマーティン・キーナートさんも駆けつけてくださり、上映会に花を添えていただきました。

おかげさまで仙台での上映会は無事終了しました。しかし、上映会実現までの道のりはけして平坦なものではありません。リンダさんが製作する映画の自主上映会を開こうと思い、準備に取り掛かったのが2013年10月。その日から2年半、杉本みえ子さんと二人三脚で団体や自治体、有力者を訪問。開催への協力を呼びかけました。でも、確かな手ごたえを感じられないまま、いたずらに月日がたつばかり。軌道に乗ってきたのは映画完成を間近に控えた昨年12月。最終局面では、協力を申し出てくださったボランティアや、リンダさんの思いに胸を打たれた市民やマスコミの方々が後押ししてくださいました。これらの人々がいらっしゃらなければ、上映会が実現していたかどうかも分かりません。上映会開催に携わってくださったすべての方々に厚くお礼申しあげます。

映画がカナダで上映される日もそう遠いことではないと聞いています。その折には、逆境にあっても未来に希望を見出し力強く生きていこうとする東北人の姿をご覧いただければ幸いです。

最後になりましたが、震災直後より被災地にたくさんのご支援をいただきましたことを心よりお礼申しあげます。

上映会終了後、スタッフと写真に収まるリンダ・オオハマ氏

 

© 2016 Tsutomu Nambu

東北地方太平洋沖地震(2011年) ドキュメンタリー 映画 (films) JPquake2011 リンダ・オオハマ 東北の新月(映画)
このシリーズについて

人と人との固い結びつき、それが、「絆」です。

このシリーズでは、2011年3月11日の東北地方太平洋沖地震とその影響で引き起こされた津波やその他の被害に対する、日系の個人・コミュニティの反応や思いを共有します。支援活動への参加や、震災による影響、日本との結びつきに関するみなさんの声をお届けします。

震災へのあなたの反応を記事にするには、「ジャーナルへの寄稿」 ページのガイドラインをお読みください。英語、日本語、スペイン語、ポルトガル語での投稿が可能です。世界中から、幅広い内容の記事をお待ちしています。

ここに掲載されるストーリーが、被災された日本のみなさんや、震災の影響を受けた世界中のみなさんの励ましとなれば幸いです。また、このシリーズが、ニマ会コミュニティから未来へのメッセージとなり、いつの日かタイムカプセルとなって未来へ届けられることを願っています。

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執筆者について

北海道生まれ。1976年、大同生命保険に入社。1992年、在日外国人を対象に日本語学習支援ボランティア活動を開始。この活動を通し日系カナダ人と出会う。2011年、同社を退職。現在、宮城県庁に勤務のかたわら各種ボランティア活動を継続。仙台市在住。

(2013年2月 更新) 

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