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南米の日系人、日本のラティーノ日系人

南米の格差と治安、そして日系人たち ~その1

中南米諸国の経済成長には光と影がある。その影は独立前からの構造的な要素も含まれているのかも知れないが、建国以降常に指摘されてきた市民の教育問題や社会の治安問題が改めてクローズアップされている。近代国家になってから階級社会の格差も多少改善されたところもあれば、むしろ拡大したところもある。

ほとんどの国が幾度かの「革命」を体験してきたが、今もその「革命」とやらを継続している国々が存在する。より公平で社会正義を満たすための政治行動であったが、軍政権と民政を、右派と左派政権を繰り返し、ようやく30年前ぐらいから多くの国が民主制度を確立してきたといえる。それでも、いまだに独裁制の強い国もあり、選挙が実施されても健全な政権交替がないところもある。国レベルだけではなく、地方自治の方が前近代的な名残りを受け継いでおり、「大名」のように何世代にも渡って複数のファミリーがその地域の政治、司法、産業、メディア等を掌握しており、共和国または連邦国であっても制度の運営はあまり民主的でない。

確かにここ10数年の間に多くの低所得者層が中産階級になり、その数はラテンアメリカ(以下、ラ米)全体で1億から1.5億人にも及ぶという。その結果、ブラジルやペルー等ではそれまで存在していたひどい経済格差も少しは是正され、家電やサービスの消費が飛躍的に伸び、今は世界が注目する市場になりつつある。

しかし、その「格差」はどれほどの格差なのだろうか?

日本でも近年格差が拡大したと指摘されているが、その格差の基準もベースとなる水準もラ米とは余りにも異なる。ラ米諸国の格差に対しては貧困問題として調査され、米州開発銀行や国連教育科学文化機関ユネスコ、政府機関や国連ラ米・カリブ経済委員会等、そして海外の専門家によってこれまで多くの研究発表が行われてきたが、最近の見解を抜粋して一部紹介する。

1)1980年、ラ米諸国の人口の半分が貧困層であったが、2011年には10人に3人に減った。その結果この10年で少なくとも一億人以上が貧困から抜け出し中産階級になり、それまでの格差が23%縮小され(例えば、メキシコでは毎年1%ずつ格差が縮小しているという)消費市場も拡大した。しかしそれは富裕層の資産縮小または他の層への配分の結果ではなく、新たに発生した富によるものである。

専門家は、上位高所得者層の資産と収入は一段と増えており、格差是正も非常に限定的だと指摘している。その証拠として、中南米には他の地域より億万長者が多いことがあげられる。

国連のUNCTADによると、もっとも所得格差がひどいのはホンジュラス、ボリビア、コロンビア、ブラジル及びチリであり、比較的緩やかなのがニカラグア、アルゼンチン、ベネズエラ、ウルグアイ、ジャマイカそしてペルーである。貧困層の中流への底上げは今も各国が実施している社会支援(ブラジルでは「ボルサファミリアBolsa Familia」プログラムが実施された)によるものも大きく、国によって人口の4割から7割がその恩恵を受けているという(財政が悪化した場合、その社会的・政治的影響は計り知れない)。

2)質の高い教育へのアクセス(機会均等)が格差是正に一番役に立つが、いまだに小学校を終えていない児童も全体の2〜3割(農村や山岳地帯でその倍であり教育の質も低い)を占める。中学・高校の進学率もある程度改善したとはいえ、まだ中退者が多い状況であり、都市郊外や農村部での修了率は半分かそれ以下である。その結果、熟練労働と非熟練労働の賃金格差は非常に大きい。

チリでは高校生や大学生のデモが頻発しているが、公立校の生徒が上位の大学に入学することは非常に困難であり、財力がないと質の高い教育は受けられないのが現状である(他の国々でも、実際そうである)。

また、労働市場が今発展過程にある産業が求めている労働力と教育機関等が養成している人材との間には大きなミスマッチがある。大卒者も文系が多く、実社会で求められていない専攻も増えている。そのうえ、鉱業、建設、環境、インフラの技術系の熟練労働や技師など多くの職種では人手不足状態が深刻である。米州開発銀行は、多くの国では大卒よりも質の高い高卒と職業訓練を重視している。

3)格差是正のもう一つの解決策は、税をすべての国民から徴収し、国家財政を強化することである。

メキシコの税収は、GDPの11%しかない。ほとんどの国は逆進課税で、所得や富が多いほど税負担が少ない仕組みになっている。支配者層の政治的影響力も絶大で、自分たちに不利になるような法改正は皆無に等しく、権益拡大や既得権の防御が議会や行政に常に求められている。

一方、給与所得者である労働者の半分はブラック労働であるため、社会保険(年金や医療保険)の掛金や納税を行っていない。税制度の抜本的な改革も必要だが、それと同時に増加した中産階級が税と社会保障の負担をしない限り、いかなる社会制度も成り立たない状況にある。

チリやブラジルではかなりの業種で月1,400から1,600ドルの平均賃金になってきているが、それに見合った労働生産性を達成していないので、中国やインド、アジア諸国の競合相手と競争できない状態になってきている。

経済成長率が減少しているラ米諸国(例外は、パラグアイやパナマぐらいである)では、質の高い教育や職業訓練を施さない限り次第に競争率も低下し、今のスペインのように賃金を下げなくてはならない状況に追い込まれる。

競争率の高い業界(実際は限られた数社に集中している)もあるが、それは輸出産業ぐらいである。例えば、チリの銅業界は輸出全体の6割とGDPの2割を占めているが、就業人口770万人(総人口は1,650万人)に対して20万人しか雇用しておらず他の業界への波及効果も限定的である。第一次産業に依存している国はどこも類似した状況である。

今注目が高まっている南米の国は、内陸に位置するパラグアイである。

この国の人口は660万人で、1,400万頭の牛を生産し、数千万人分の大豆を栽培している。しかし農牧地帯の85.5%はたった2.6%の土地所有者に集中しており、農村地帯の貧困率は44.8%にも及んでいる。輸出で潤っている土地所有者と一般農業労働者との格差は数百倍もあるため、その摩擦や妬みよって暴力による土地不法占拠も起きている。農牧産業はGDPの20%だが、パラグアイの税収入の2%しか占めていない。こうした大規模事業所に対する控除が多く、一番潤っている業界であっても税負担率は非常に低い。

そうしたこともあって、現政権は隣国アルゼンチンの「輸出税」の制定を検討している(政府は輸出の決済から直接徴収できるため、有効に使えばかなり大きな財源を手にすることができる)。

パラグアイのエンカルナシオン方面にある農業地帯(大豆や小麦畑)。大豆生産国として世界5位になったが、農牧地帯の85.5%はたったの2.6%の土地所有者に集中しており農村地帯の貧困率は44.8%にも及んでいる。

その2 >> 

© 2014 Alberto J. Matsumoto

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このシリーズについて

日本在住日系アルゼンチン人のアルベルト松本氏によるコラム。日本に住む日系人の教育問題、労働状況、習慣、日本語問題。アイテンディティなど、様々な議題について分析、議論。