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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2012/10/16/log-cabin-sukiyaki-song/

私のログキャビン・スキヤキソング*

コメント

1.

私のブログに残されたコメントには、「ついにあなたと妹さんを見つけたわ!」と綴られていました。その人は、私の父と幼年期から青年期にかけて友人だったと言うのです。しかし、私が覚えている限り、会ったことはありません。彼女は、日系アメリカ人の中では珍しい私と妹の名前も知っていました。私がカリフォルニアのローズビルで育ったことも知っていて、父の思い出を私に伝えたいというのです。

私は初め、少し気味が悪い気がしましたが、記憶の中から子供の頃の名前リストを洗い出してみました。でも、思い出せるのは、狭い家の中で開いた夕食会に大勢のお客さんがひしめき合っていることだけでした。他には何もありません。この人は一体誰だろう? 決定的だったのは、コメントの追伸でした。

「お父さんのすき焼きレシピ(あなたのお祖父さんから引き継いだもの)の秘密も知っているのよ。ログキャビンのシロップでしょ!」 ご明答!彼女は本物です。  

2.

すき焼きは、鍋料理(日本語では、鍋物と言います。)ですが、すき焼きを知らない人にはそれだけでは説明になりません。「一鍋料理」と言うと簡単なものを想像するかもしれませんが、実は、たくさんの食材を切ったり、材料やソースを事前に合わせておく必要があるので、実際は「一鍋プラスいくつもの料理」なのです。すき焼きは、たっぷりのタレ(割下)で作る、牛肉、豆腐、長ねぎ、白滝、赤玉ねぎ、タケノコの炒め物のようなものです。

私にとってすき焼きは、何皿もの薄切りのハラミステーキであり、涙が出そうになるほどの赤玉ねぎのツンとする香りです。最高と称されるレシピには、多くの場合、秘伝のタレがあります。私の知る限りでは、ほとんどのすき焼きは醤油ベースで、みりんを加えることで甘みが足されています。生卵を添えて、一口ずつ浸しながら食べる人もいるようです。

わが家のタレは甘ったるく、醤油と味噌を合わせ、隠し味に生卵でコクを出しています。そして、酒をジガー(カクテル用計量器)1杯分、缶詰の袋茸の汁を加えることで、旨味が数段増します。そこに甘みを少々加え、全体のバランスを整えます。(ここで忘れてはいけないのが、ログキャビンシロップなのです。)これを一晩寝かせ、味を馴染ませます。

わが家のログキャビンシロップ入りレシピは私のお気に入りでしたが、以前、異性化糖問題があった時期は使用を控え、代わりにメープルシロップを使いました。でも、私が好きなレシピは、やはりログキャビンを使ったものです。ログキャビンは、私にとっての典型的日系アメリカ人家庭料理の中の、典型的な新天地アメリカの家庭そのものなのです。  

私たち一家にとって、食事と家庭は同義語です。他の人たちは、家族で集まる時山小屋を借り、Tシャツ姿で過ごすというスタイルかもしれませんが、私たちは料理をします。お正月は毎年このように過ごし、かれこれ60年間ずっと続いています。これが私の基本形であり、年に1度の特別なイベントなのです。  

私は、自分を特に伝統的な日系人(またはフィリピン系アメリカ人)と思ったことはありません。大学と大学院進学のために家を出て、結婚後も名字を変えていません。私が結婚した相手は、人前で私のバッグを持ってくれるし、娘が頼めばティアラを頭に乗せ、ズボンだって自分で直すような人です。私は、自分がお子様席から卒業できる年齢に達した、と感じた時から(実際はどうあれ、「感じた」とは便利な言葉です。)お正月のすき焼き作りを始めました。なぜすき焼きなのか、疑問に思うこともありましたし、おばの1人が、「今年のすき焼きは美味しかったわ。」と言う時、なぜそれがそんなに大事なことなのか、疑問に思うこともありました。でも、伝統というのは、その答えのほんの一部でしかありません。

ニムラ家のすき焼きとごちそう(写真提供:筆者)

3.

私がすき焼きを作る本当の理由は、家族の食卓に父を呼び戻すことにあります。

父は、比較的若くして亡くなりました。父は52歳で、私は10歳でした。父の死に私は深く傷つき、25年以上経った今、この痛みとどう向き合えばいいか、ようやく考えられるようになりました。毎年お正月に欠かさず集まるのは、父方の家族です。父の5人の兄弟、息子、娘たちが集合します。父の話はあまりしませんが、思い出を避けようとしている訳ではなく、亡くなってからずいぶん経つからです。父の話はもうあまりしなくなりました。  

真ん中っ子の父は、仲間を招いて豪勢なディナーパーティーを主催し、同時に自分で料理ショーを披露する友人であり、叔父として甥っ子や姪っ子たちのスクラブル(単語を作成して得点を競うボードゲーム)やチェスの手厳しい相手となり、妻のために小さい娘たちが母の日のカードを何枚も書いて祝うよう促す夫でした。私と妹がお正月に家族を訪ねることで、私たちは父を食卓に呼び戻しているのかもしれません。  

私たち一家は、言葉を交わすことより、集い食べることで繋がっています。そんな私たちにとって、すき焼きは会話であり、コミュニケーション手段です。そしてそれは、私たちの愛する生者と死者、双方への敬意を表す1つの方法なのです。  

ニムラ家のお正月料理 (写真提供:筆者)

*カラオケ好きの方は、坂本九の「スキヤキ・ソング」として知られる「上を向いて歩こう(1961)」を思い出すかもしれません。しかし、この曲のタイトルも詞も、この料理には何の関係もありませんし、調理過程とも関係ありません。


* この記事は、レメディー・クォータリー誌第7号のHeritageに掲載されたものです。

* * * * *

このエッセイは、「いただきます!」編集委員のお気に入り作品の一つとして選ばれました。こちらは、編集委員からのコメントです。

ニーナ・カオリ・ファーレンバムさんからのコメント: 

「典型的な日系人の体験」なるものは、もとよりありませんし、必要もないでしょう。しかし、タミコ・ニムラさんはかなり近づいたと言えます。彼女のエッセイは、ニムラ家で愛されているログキャビン入りすき焼きの描写と共鳴しています。彼女の愛情溢れる語り口から、北米オリジナルのメープルシロップ入りの、その驚くべきタレの味がしてくるようです。 それでいて、彼女のストーリーには普遍性があります。親戚を亡くしたことのある人は、彼女の愛情や好奇心を理解できるでしょうし、「お子様席から卒業」し、家族の伝統を継承する一員となる責任についても読み手は共感するでしょう。彼女の家族にとって、伝統の継承とはすき焼きのタレの継承を意味しています。

私はこのエッセイが、人々が新しいレシピを追求する中で、世界中の日系人がそれぞれの大切なレシピを継承するよう、後押ししてくれることを願います。そうして、それぞれが自らのストーリーを語ることができるのです。  

ナンシー・マツモトさんからのコメント:

私がこの素晴らしいエッセイを好きな理由はたくさんあります。ログキャビンメープルシロップをすき焼きの甘味料として使用するというところから、日系一世による創意工夫の素晴らしい一例を伺い知ることができます。また、第二次大戦中、多くの一世や二世が、アメリカ人であり日系人であるという自らの権利を静かに主張したように、作者が、「典型的な新天地アメリカの家庭」が持つイメージをひっくり返し、「典型的な日系アメリカ人の家庭料理」と置き換えたところは圧巻でした。また、作者が、「言葉を交わすより、集い食べることで繋がっている」と自らの家族を表したところや、愛する者の想い出を食卓に呼び戻すためにお気に入りの料理を作る、という行為に、多くの日系人が共感するでしょう。

© 2012 Tamiko Nimura

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執筆者について

タミコ・ニムラさんは、太平洋岸北西部出身、現在は北カリフォルニア在住の日系アメリカ人三世でありフィリピン系アメリカ人の作家です。タミコさんの記事は、シアトル・スター紙、Seattlest.com、インターナショナル・イグザミナー紙、そして自身のブログ、「Kikugirl: My Own Private MFA」で読むことができます。現在、第二次大戦中にツーリレイクに収容された父の書いた手稿への自らの想いなどをまとめた本を手がけている。

(2012年7月 更新) 

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