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『折り紙:無限の可能性』展 - 学芸員メーヤ・マッカーサーさんへのインタビュー

「私の折り紙との最初の出会いは、子供時代にスコットランドで父の教え子だった二人の日本人からもらった小さな折り紙の人形でした」と、メーヤ・マッカーサーさんは振り返ります。「人形はとても精巧に出来ていて、どのように作られたのか見当もつきませんでした。その後、私は、イギリス人手品師で折り紙を教えていたロバート・ハービンの本を両親から買い与えられ、すっかり折り紙に夢中になりました。」

当展示の学芸員、メーヤ・マッカーサーさん

「私の折り紙への興味は成長と共に薄れ、時々友人たちの前で披露するくらいでした。一方、子供の頃にもらった折り紙の人形のお陰かもしれませんが、日本文化への興味が高じ、大学では日本語を学びました。すると次第に、私は日本文化、特に美術に心を奪われるようになり、日本美術史の勉強を始めました」とマッカーサーさんは語ります。

マッカーサーさんが学んだことの1つに、第二次世界大戦での広島への原爆投下により被爆し、亡くなった佐々木禎子のことがありました。禎子は、鶴を千羽折ると願いが1つ叶うと伝えられている、千羽鶴を折ったことで有名になりました。禎子の死により、折り紙の鶴は平和と希望の国際的シンボルになりました。

「私が20代後半の頃、母は白血病を患いました。私は、禎子がそうしたように、母が治るよう願いを込めて折り鶴の花輪を作りました。しかしながら、私の願いは叶いませんでした。その直後、私は日本やアジア美術などの展示のコーディネートを始めましたが、ヴァネッサ・グールドの素晴らしいドキュメンタリー映画『Between the Folds』 を見るまでは、折り紙の展示をしようとは考えもしませんでした。このドキュメンタリーを見て初めて、折り紙も日本の芸術であることに気がつきました。100年前の木版画が、当時は芸術として見なされなかったことと同じですね。現代の折り紙アーティストが、彼らにふさわしい評価が得られるよう私にもできることがあると考えたんです」

このようにして、マッカーサーさんは、全米日系人博物館での特別展「折り紙:無限の可能性(Folding Paper: The Infinite Possibilities of Origami )」への構想を練り始めました。

マッカーサーさんは、今回の展示について次のように語ってくれました。「展示が発信する最も重要なメッセージは、折り紙はもはや子供の手芸ではないということです。折り紙は、今や洗練された芸術の域に達しており、世界中のアーティストらが、紙を折るという行為を自己表現の手段にしています」

ロバート・J・ラング「ダイオウサソリHP作品番号593」(2011) 韓紙による不切正方形一枚折り Photo © Robert J. Lang.

「映画『Between the Folds』は、一流の現代アーティストの作品を紹介し、彼らの作品を通して芸術と科学の交差を映しています。私は、折り紙が何か非常に魅惑的なものへと進化したことに気づきました。そしてその変化を、博物館の展示に反映させ、できるだけ多くの人々に見てほしいと考えるようになりました。」

「有名な折り紙作家であり物理学者のロバート・ラングさんと話をした時、私は彼に展示のコーディネートをすべきか相談しました。彼は、展示に非常に強い関心を示し、2年にわたる準備期間中、大きな力となって下さいました。その後、私は全米日系人博物館に企画を持ち込み、博物館から展示の開催について、大変好意的な回答を得ることができました。そして私が次にしたのは、展示の内容を詰め、アメリカ国内に展示に関しての十分な関心があるか見極めるため、巡回展を扱う会社と共同で準備を進めました。インターナショナル・アーツ・アンド・アーティスツ(ワシントンDCに基盤を置く巡回展を扱う会社)のチームと共に、私は展示を企画し、世界中のアーティストと連携し、資金を集め、企画の営業のために美術館を回り、カタログの編集に取り組みました」

エリック・ジョワゼル「Mask, 1999」 紙、ウエットフォールディング、コーティング、ワイヤー使用、(Photo © Mingei International Museum, Gift of V'Ann Cornelius.)

「約15カ国から45名にもわたるアーティストが参加していたため、巡回展を行うには、作品の梱包・輸送を必要とするので、コーディネーションは非常に複雑なものとなりました」とマッカーサーさんは語ります。「当初、参加依頼をしようと考えていたアーティストのうち何名かは参加できなくなってしまいましたが、準備を進める中で、他のアーティストによる非常に優れた作品との出会いがありました。世界中の様々なアーティストが折り紙の制作をしていることを知り、私はとても感動しました。」

マッカーサーさんにとって、このプロジェクトは挑戦と驚きの連続でした。「私は、展示とカタログに、折り紙の進化に関わる話を出来るだけ盛り込みたいと考えました。十分な資料はありませんでしたが、私に出来る最大限のリサーチを行いました。私にとって一番の驚きは、ヨーロッパと南米にも折り紙の伝統があるということでした。このようなことは、このプロジェクトに携わるまで、全く知りませんでした。」

この展示は、初めからかなりの好評を博しました。

「私は、かれこれ15年間、展示のコーディネーションをしてきましたが、私が実際に話をした人たちからは、大人から子供を問わず、今までの展示で一番良い反応がありました」とマッカーサーさんは振り返ります。「なかでも共通の反応は、『すごいですね!折り紙がこんなに素晴らしいものだなんて知らなかった!』というものでした。老若男女、日本人、日系人、その他の文化背景の人々、皆がこの展示のテーマに色めき立っているようでした。この展示によって、折り紙は、皆が知る身近なものでありながら、その新しい一面も紹介することができました。」

マッカーサーさんは、「展示は、様々な素晴らしいアーティストによる作品で構成されており、私はどの作品も好きです」と語ります。「平和への願いが込められた作品には特別な思い入れがあります。例えば、禎子が50年前に折った小さな鶴や、ミリ・ゴーランによるイスラエルの平和を願う優れた作品、『Two books』です。でも、私は出展作品全て大好きです。それぞれ違った良さがあり、全てが素晴らしいと思います。」

ミリ・ゴーラン「Two Books」(2010) 紙、手製本、(Photo © Leonid Padrul- Kwitkowski/Eretz Israel Museum.)

マッカーサーさんの言う折り紙の素晴らしさには、折り紙の他分野への貢献も含まれますが、それらはほとんど評価されていないと言います。「美術館の見方としては、折り紙は芸術表現の一形態としても見ることができますが、折り紙の精巧な技術には、数学も大きく関係していることを忘れてはなりません。折り紙は、芸術であり科学です。折り紙は、科学にも多大な影響を与えているんです。芸術家と科学者は折り紙の技を宇宙開発や工学技術、分子生物学の分野で活用していますし、ファッションや建築、デザインにも影響を与えています。」

マッカーサーさんは、「私たちの周りに折り紙は溢れています。だからこそ、折り紙の可能性は無限だと思うのです」と語ります。

* * *

折り紙:無限の可能性(Folding Paper: The Infinite Possibilities of Origami

2012年3月10日から8月26日まで
Japanese American National Museum
Los Angeles, California

世界現象となった折り紙を現代美術として紹介し、テクノロジー、数学、科学、芸術、デザイン、世界平和運動への影響を読み解く最初の大展示です。16カ国40名以上のアーティストによる150を超える作品が展示されています。

詳細はこちら(英語のみ): http://www.janm.org/exhibits/foldingpaper/

© 2012 Japanese American National Museum

art curator exhibition Folding Paper janm Japanese American National Museum Meher McArthur origami science