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レビュー: Textured Lives: Stories from the Plantations of Hawai‘i (DVD)

去年(2010年)の8月。お盆休み。猛暑にうだる東京で私はこのドキュメンタリー映画を初めて見た。友人の宮田信さん(Music Camp代表)が企画した上映会で、彼がLAから招いたこの映画の制作者で監督のAkira Bochさんの慎み深い解説の後、サトウキビ畑で働く日本人労働者の動画が流れ、主役であるバーバラ・カワカミさんの声が重なる。いい感じの導入部だ。

ところが、次にスクリーンにあらわれた古い写真に私は「あっ!」と声をあげた。その写真には、私の曽祖父が経営し、祖母(一昨年、百歳で死去)が生まれた小売店が写っていたのだ。砂糖工場の下に走るメイン・ストリート沿いの集落。当時、日本人移民たちが「ワイパフ本町」と呼んでいた地区である。画面から目が離せなくなった。

曽祖父の「加藤商店」(屋号:現金屋)。当時、ワイパフで最も大きな小売商店だった。(写真提供:神田 稔)

バーバラ・カワカミさんは熊本県生まれでワイパフ育ち。洋裁に興味を持ち、一世の女性たちが身につける着物や洋服に惹かれ、服飾デザイナーを目指す少女だった。学校を卒業後、ハウスメイドの仕事で人種差別を経験した後、バーバラさんは裁縫学校で洋裁を勉強し、地元にドレス・メイキングの店を開く。白人軍人の夫人など、よいお客さんも付き、経営は順調だったようだが、自分には裁縫の技術はあっても学問がないことに気づく。

結婚、出産、子育てを経て、息子さんが本土の大学に進むころにコミュニティー・カレッジに入学。猛勉強の末、ハワイ大学マノア校で学士号と修士号を取得(Bachelor of Science in Textile & Clothing, and Master of Arts in Asian Studies)。教授の勧めもあり、社会学、人類学、歴史学を取り入れた[邦訳]『ハワイ日系移民の服飾史』(平凡社)、[原著]”Japanese Immigrant Clothing in Hawaii 1885-1941”を著すのである。

バーバラさんの強みは、ご自身が洋裁の技術者でありデザイナーであることだ。ご自分で長年を費やして身に付けた技術と知識が基本にあるし、バーバラさん自身が時代の証言者でもあるので、資料を集めてまとめるだけの研究にはない重い説得力がある。また、移住先での着物文化の豊かさも印象的であり、バーバラさんの仕事は、日本人にとっても大変貴重であることは言うまでもない。

バーバラさんの活動は服飾にとどまらない。熊本県生まれで日本語が堪能な上に、かつてプランテーションで話されたすべての方言が理解できる稀有な能力を生かし、彼女は多くの一世たちにインタビューをしている。その問いかけも、研究者がよくやる「おどおどとした態度での抽象的な質問」ではなく、自分たちがかつて身に着けていた服についての具体的なこと―――おそらく、仕事着はどういう服だったか、とか、普段着のこととか、お祭りの日の服だとか、お祝いの日にはなにを着たかとか・・―――だったのだろう。だから、それをきっかけに、口の重い「写真花嫁」たちでさえ、身内にも話したことのない自分たちの経験をバーバラさんに伝えたという。これは、とても大切なポイントだ。

私事だが、私も、同じワイパフで大きな商店を経営していた移民一世の曽祖父、その息子、そして娘(=祖母)のことを調べ、発表している。しかし、焦点を絞るのが難しく、断片的な記憶をつなぐだけで精一杯の状態だ。どうしても説明に具体性を欠いてしまう。

その点、バーバラさんの専門である服飾は、「衣・食・住」のひとつで、人間生活の基本中の基本である。「あなたはなにを着ていましたか?」という、極めて具体的な事柄を調べる中から、バーバラさんは、一世たちの記憶までも解きほぐしていった。いわば、人間とは切っても切れない「身体性」から「移民史/ハワイ日系アメリカ人の生活文化史」に迫ったわけで、これは、アカデミックな世界からはなかなか生まれない仕事なのである。

この映画は、バーバラ・カワカミという、同時代の日系女性の歴史であり、また、当時、オアフ島ではホノルル地区に次ぐ人口を抱えた日本人コミュニティーであったシュガー・プランテーション・ヴィレッジ、ワイパフの文化史でもある。日本生まれの日本人とはいえ、ワイパフに縁のある私は、宝物に巡り会えたような気がしている。

最後に、制作・監督のAkira Bochによる丁寧な映像化に感謝したい。「ハワイらしさ」を映像に過剰に取り込まず、バーバラさんの穏やかな語りの速度で映画が進行するのがなにより素晴らしい。同じDVDに収録されている特典映像も感動的だが、余計な解説は不要だろう。

© 2011 Minoru Kanda

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