ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2011/04/21/

第6回 (前編) 東カリフォルニア博物館へ

マンザナーでの実習は、3日目を迎えました。私はキャリーさんと一緒に、東カリフォルニア博物館(Eastern California Museum)を訪れました。

東カリフォルニア博物館は、マンザナーをふくめた、インヨー郡(Inyo County)の歴史に焦点をあてた博物館です。マンザナーからは、車で約15分ほど北上したところにあって、インディペンデンスの街の中心にあります。今回、マンザナー以外に、東カリフォルニア博物館に足を運んだのは、私のマンザナーでの実習における、プロジェクトを決めるためです。

博物館へ到着すると、私は博物館の責任者でもある、ベス・ポーターさんに会いました。そして、30分ほどかけて、博物館のなかの展示に目を通しました。

東カリフォルニア博物館の展示は、大きく3つに分けることができます。初めに、ネイティヴ・アメリカン。次に、インヨー郡に入植した、白人の開拓者。そして、マンザナーと日系人です。3つの展示を通して、私はカリフォルニア州の歴史の一幕を学び、さらには、インヨー郡の歴史をたどることで、日系人の収容施設が、マンザナーのような場所に建設された理由を学びました。

インヨー郡のあゆみ

インヨー郡には、数世紀にわたって、パイウート(Piute)とよばれる、ネイティブ・アメリカンの人々が、生活を営んでいました。しかし、19世紀を迎えて、ゴールド・ラッシュの時代に突入すると、多くの白人が入植し、開拓者の町として発展するようになりました。

現在のインヨー郡の姿からは、想像しがたいものではありますが、この地域は、水に恵まれていて、農耕や牧畜に適していたのです。マンザナーのオート・ツアーの経路には、シェファード牧場跡、チャフィー果樹園跡、ワイルダー農場跡がありますが、それらは、インヨー郡の開拓者たちによって、営まれたものでした。

ところが、20世紀を迎えると、水資源に恵まれていたインヨー郡は、その姿を大きく変えていきました。急激な人口増加への対策が迫られていたロサンゼルス市が、水の供給のために、インヨー郡の土地に目をつけたのです。当時のロサンゼルス市長であった、フレッド・イートン(Fred Eaton)は、水利権を得るために、インヨー郡の土地買収計画をたてました。これには、インヨー郡からロサンゼルスまでの約350キロメートルにおよぶ、「ロサンゼルス水路(Los Angeles Aqueduct)」を建設することも盛りこまれていました。

当然のことですが、インヨー郡の住人たちは、ロサンゼルス市の“横暴”に激しく抵抗しました。しかし、土地の買収がはじまると、多くの住人は為す術も無く、インヨー郡を去っていきました。これら一連の歴史的な出来事は、「ロサンゼルス“水”戦争(Los Angeles Water War)」として、知られています。

そして、日米戦争が勃発したころには、インヨー郡の水資源は枯渇同然とされ、周辺地域への環境破壊が懸念されるようになっていきました。そのような経緯から、アメリカの政府は、日系人を収容する施設の建設のために、この地を選んだのです。マンザナーが建設されたのは、1942年の春のことでした。

後編>>

© 2011 Takamichi Go

アメリカ カリフォルニア インターンシップ インディペンデンス (カリフォルニア州) 強制収容所 マンザナー強制収容所 東カリフォルニア博物館 歴史 第二次世界大戦下の収容所
このシリーズについて

2002年にアメリカへ留学し、『さらばマンザナール (原 題:Farewell to Manzanar )』との出会いで、日系史に目覚めた郷崇倫(ごう・たかみち)氏による、コラムシリーズ。自身の体験談を元に、日系史について語ります。

(* Signature image from Wikipedia.com by Daniel Mayer. )

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執筆者について

オレンジコースト大学、カリフォルニア州立大学フラトン校、横浜市立大学にて、アメリカ社会の歴史、日系人社会の歴史を含めるアジア大洋州系アメリカ人社会のを学ぶ。現在はいくつかの学会に所属しつつ、独自に日系人社会の歴史、とりわけ日系人社会と日本社会を「つなぐ」ために研究を継続している。また外国に「つながり」をもつ日本人という特殊な立場から、現在の日本社会における内向き志向、さらには排外主義の風潮に警鐘を鳴らしつつ、日本社会における多文化共生について積極的に意見を発信している。

(2016年12月 更新)  

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