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日本文化に夢中:日本の伝統文化を極める“ガイジン”さんに、その魅力を聞くシリーズ

第2回 「陶芸で得られるものは、都会が失った心の平穏」  リー・アン・パオルッチさん

静かな山里で、作務衣を着た陶芸家が作品に取り組む。それが筆者の「日本の陶芸」のイメージである。しかし、イメージ的にも距離的にも遠く離れたロサンゼルスでも、日本の陶芸に魅かれるアメリカ人が少なくない。

どんな形になりたいのか? 粘土と会話しながら作る

リー・アンさんが陶芸を習い始めたのは2005年11月。ロサンゼルス近郊のサンペドロでスタジオを営むロイ・国崎氏が、アートセンターで講師を務 めたクラスでのことだった。今では、アメリカ人の中では一番弟子だと国崎氏に推薦されるまでになったリー・アンさん。「作品が完成するまでのすべての過程 を愛おしく感じた。すぐに虜になったの。先生が良かったからだと思うわ。彼の指先、体重のかけ方、注意して観察し、彼を真似することから始めた」と初心者 時代を振り返る。

陶芸の一番の魅力とは? リー・アンさんの答えは、「静かに、じっくりと集中して取り組めること。急いでも、何も得るものはない。ゴルフを上達させ るコツとどこか似ているかもしれないわね。何より忍耐が必要だし、粘土を手にして、ろくろを回しながら、どういう形になろうとしているか、心の中で会話し ながら作っていく。私は、素材に対する敬意と感謝の気持ちを忘れたことはないのよ」というものだった。
「3年強という期間ながら、極意を習得するのは、年月の長さとは関係ない。いかに集中して修行するかで習得の速度も深さも増す」とリー・アンさんは胸を張る。

太平洋が見渡せる開放的な住居のそこかしこに、本格的な陶芸作家の焼き物を思わせる作品が飾られている。実際に日常の食器としても活用している。自宅の中には陶芸スタジオも構えている。残念ながら、片付いていないからという理由で見学させてもらえなかったが……。

死ぬまで学び続けたい 意欲と時間はたっぷりある

英語を第二言語とする外国人を対象にしたESLの教師だったリー・アンさんは、日本人生徒との交流を通して、30年前から日本伝統の文化に触れる機会があった。そして、印象的な思い出として、ある駐在員夫人の90歳前後の父親に会った時のことを話してくれた。

「とても弱々しく見えたのだけれど、彼に『日々、どのようなことをして過ごしているのですか』と質問したところ、『散歩に行って、友人と話をして、 それから趣味に取り組む。その繰り返しで静かに1日が終わる』と答えたの。彼の中に『東洋の賢者』を見たようで、感銘を受けたわ。今でも忘れられない。そ の姿勢は、西洋の物質的な考え方とはかけ離れている。しかし、その敬意、感謝、静かさこそ、ロサンゼルスという土地が失っているものなの。陶芸で得られる 心の平穏は、私たちが都会生活で失ったものを埋め合わせてくれていると思う」

英語教師から広告代理店勤務を経て、現在、悠々自適の引退生活を始めたばかりのリー・アンさん。「時間とエネルギーはたっぷりあるの」と語る彼女と、かつて感銘を受けた日本文化をつなぐ存在が陶芸だったのだ。

「陶芸は死ぬまで続けていきたい。なぜなら、紀元前数千年にまでさかのぼる歴史を持つ芸術の醍醐味を、毎日取り組んでもつかめるはずはないから。死ぬまで学ぶことがあるし、その瞬間、瞬間を私は楽しんでいきたい」

それでは、彼女の師匠である国崎氏のように、生徒を抱えて教える日は来るのだろうか? 「将来的にいつかは教えたいという気持ちはある。だって、私 は何といっても教師としてのバックグランドを持っているから。私が陶芸で感じている喜びを人々に教えていけたらいいな、と思っているわ」

リー・アン師匠の誕生もそう遠い将来のことではないだろう。何しろ、彼女には学ぶ意欲が満ち溢れているのだから。

* 本稿はU.S. FrontLine 3/5 2009号からの転載です。

© 2009 Keiko Fukuda

ceramics U.S. FrontLine

このシリーズについて

三味線、陶芸、詩吟、武道、着物…その道を極めるアメリカ人たちに、日本文化との出会いと魅力について聞く。(2009年のU.S. FrontLine より転載。)