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https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2009/2/25/nahan-gluck/

日系人の歴史を伝えるノンジャパニーズ: 全米日系人博物館でドーセントを務めるネーハン・グルックさん - その2 学生たちに伝え、収容所跡地へ赴く

>> その1

1992年にロサンゼルス郡の役所を引退後、ハートマウンテン収容所のバラック小屋を目にしたことがきっかけで、94年から全米日系人博物館でボランティアを務めるようになったネーハン・グルックさん。彼に日系の血は流れていない。

しかし、「少しでも多くの人が日系アメリカ人の歴史を知るべきだ」と、同じアメリカ人として、同じ人間としての義憤に駆られたネーハンさんは、以来14年間,博物館に週に2日以上,通い続けている。

最初は、海外戦に従事した日系人兵士の展示「ファイティング・フォー・トゥモロー」でのギャラリーガイドから始まった。すぐに、組織内の委員会にも 活躍の場を広げるようになった。一ボランティアに留まらず、博物館の運営自体にも深い関心を持つネーハンさんは、1999年の新館の完成と移転について次 のようにコメントしている。

「それまでは博物館の規模も小さくて、家族のような組織だった。しかし、新館への移転を機に、全米日系人博物館はスミソニアン博物館の提携博物館と して認められた。非常に名誉あることだ。しかし、そのレベルに行くには、それまでの家族的な組織ではなく、ビジネス的な組織に生まれ変わる必要があった」

建物が変わろうが、組織的な改革が施されようが、ミッションステートメント(活動目的)が揺るぎない以上、ネーハンさんはどこまでも博物館と共に歩む覚悟だ。全米日系人博物館の活動目的とは…。
「全米日系人博物館は、日系アメリカ人の歴史と体験を、アメリカ史の大事な一部として人々に伝えていくことによって、アメリカの人種と文化の多様性に対する理解と感謝の気持ちを高めることを活動の目的としています」(博物館のウェブサイトより引用)

その活動目的を、誰よりも愛しているのがネーハンさん自身なのだ。

ネーハンさんに会った日の午前中も、ロサンゼルスの地元の8年生と9年生を迎えたツアーで、案内を務めたそうだ。博物館では見学ツアーのバス代を捻出するために、盛大なチャリティーの食事会を恒例で開催している。

「アメリカ人の学生たちにとって、ここは関係のない、異国の博物館ではない。彼らと同じアメリカ人、そしてアメリカで起こった事実を伝える大切な、学びの場所なんだ。そのことを彼らにここに来てもらって、実際に見てもらって、実感させる必要がある」

また、日本の学生がロサンゼルスを修学旅行で訪れた時に、博物館に立ち寄ることもある。

「ある日系の旅行代理店が非常に協力的で、博物館への見学ツアーをスケジュールしてくれるんだ。でも、日本から着いたその日に博物館に立ち寄るツ アーもあって、そんな時は説明を聞きながら寝ている子もいて残念。もっともっと、アメリカ国内、そして日本から、世界中から博物館に来てほしいと願ってい る。同時多発テロで、がくんと来館者が減ってしまったのも事実だ」

館内における案内だけでなく、講義「日系アメリカ人の歴史2(戦後から現代まで)の講師を担当師、さらに、アーカンソーなど全米各地に残る収容所跡 を訪ねるツアーなどの出張に参加することもある。それにしても、ボランティアとはどこまでボランティアなのか?まさか出張する時まで自費なのだろうかと素 朴な疑問を抱き、聞いてみた。

「もちろん、旅費も自分で出している。ボランティアとはそういうものなのだよ。私が案内を終えると、中には私に20ドル札を黙って握らせようとする 人もいる。日本からの来館者は饅頭を渡そうとする人も。もちろん、そういうお菓子はオフィスに持って行けばいいが、お金は絶対に個人としては受け取っては いけない。お金はすべて博物館のフロアに設置されている寄付箱に入れなければならない」

まさかとは思ったが、ネーハンさんが着用しているユニフォーム、紫色のベストも自費負担かと聞くと「もちろんそうだ」と即答された。自分の時間とお金を寄付して奉仕活動に従事する姿勢に、心から頭が下がる思いである。

次に、博物館でのボランティア経験を通じて、彼の中の何が大きく変ったかを聞いてみた。

「心の充足感を得られるようになったこと。自分がここでボランティアを務めるようになって、以前、お給料をもらって働いていた時には感じることのなかった深い充足感を感じることができるようになった。これは何物には換え難いね」

その3 >>

© 2009 Keiko Fukuda

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執筆者について

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2020年7月 更新)

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