ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2008/9/19/ikebana/

命ある限り、生け花を伝え続けたい -河村玲子-

セス・アレンとイケバナ・インターナショナル

母親の代から小原流の教授を務める河村さんと生け花との出会いは、日本での少女時代に遡る。

「母は終戦後、マッカーサーの次の将校として赴任したジェネラル・リッジウェイの副官の奥様、ミセス・アレンに生け花を教えていました。母は父と一 緒にアメリカに留学していた経験がありましたもので、英語でアメリカ軍人の奥様に教える機会を得たのです。当時の母のお弟子さんは、アメリカ大使館など外 国人の方ばかりでした」

1964年、夫に伴い渡米してきた際には、既に赴任先のオハイオ州コロンバスで生け花を教えるお膳立てが整っていた。母の弟子であったミセス・アレ ンこと、エレン・ゴードン・アレンがイケバナ・インターナショナルのオハイオ支部に、河村さんの到着を前もって連絡を入れていたのである。イケバナ・イン ターナショナルとは1956年にアレンが創始し、主に日本で生け花を習得した外国人たちによって運営されている、世界的な組織である。

アメリカ人の弟子に励まされて

「実は日本では、まだ生徒さんに教えた経験がありませんでした。それでも、ミセス・アレンの師匠である母の娘であるということで、さまざまな方にお 目にかかる機会に恵まれ、アメリカに来て初めて生け花に深く携わる生活が始まりました。アメリカ人の生徒さんから、デモンストレーションをやるように勧め られても、当時はまったく自信がなくて戸惑ったものです。逆に彼らから『貴女ならできます。やってください』と励まされました。皆さんに応援されるような 形で、一生懸命取り組んだ結果、同じオハイオでも遠く離れたクリーブランドからもお弟子さんが通って来るまでになりました。クリーブランドとオハイオと言 えば、ロサンゼルスとサンフランシスコほどの遠距離です」

1965年にニューヨークに設立された小原流のセンターの運営にも関わった。センターの開設当時は、9カ月の契約で、河村さんの母親も日本から赴任してきていた。
その後も夫の仕事でブラジル、オーストラリアと赴任するたびに、現地で小原流を教えてきた。「世界中どこにでもイケバナ・インターナショナルの支部がある のです。世界各地、行く先々で、会員の皆さんにデモンストレーションやワークショップを実施してきました」。最初の頃はアメリカ人の弟子たちに背中を押さ れるようにデモンストレーションを始めた河村さんだが、いつしか堂々としたリーダーシップを取れるようになっていた。

今でもロサンゼルスを拠点に、全米各地の小原流支部とイケバナ・インターナショナルの招聘によるワークショップに、「先日はワシントンDCへ、次は ボストンへ」と、積極的に出かける日々を送っている。小柄で静かな趣の河村さんのどこに一体そんなエネルギーが秘められているのか、不思議に思えるほど だ。

季節のフィーリングを表現

小原流の魅力とは何か、河村さんに聞いた。「小原流は季節感を大切にする生け花です。1本の枝を取ってみても、季節によってその表情は異なります。 裸の枝、実のついた枝、その季節ごとの特徴をつかまえて、フィーリングを表現するのが小原流です。また、戦後、神戸の焼け野原に残された銀行の窓枠に三大 家元が作品を展示し、戦争によって荒廃した人々の心を癒したという逸話は広く知られています」
現代もまた、地球環境破壊や一部の地域の戦争、不安定な経済状況で、平和とはいえない状況が続いている。このような時代にこそ、生け花が必要とされているのではないか。

さて、母親の弟子であるミセス・アレンによって創設されたイケバナ・インターナショナルは設立50年を越え、現在は世界60カ国、165支部、会員 8500名を擁する大所帯に成長した。アメリカのイケバナ・インターナショナルの発展に寄与した河村さんは、これからも命ある限り、生け花の素晴らしさを 一人でも多くの人に伝えるための活動を続けたいと話していた。

プロフィール:1964年渡米。流派を超えたイケバナ・インターナショナルと、小原流を通じ、アメリカ、ブラジル、オーストラリアで指導に当たる。ロサンゼルス市在住。

© 2008 Keiko Fukuda

執筆者について

大分県出身。国際基督教大学を卒業後、東京の情報誌出版社に勤務。1992年単身渡米。日本語のコミュニティー誌の編集長を 11年。2003年フリーランスとなり、人物取材を中心に、日米の雑誌に執筆。共著書に「日本に生まれて」(阪急コミュニケーションズ刊)がある。ウェブサイト: https://angeleno.net 

(2020年7月 更新)

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