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草月ほどクリエイティブな芸術はない:武市治子さん

素材に踏み込むことで新しい世界が広がる

夫が経営する、ロサンゼルス近郊のアルハンブラの設計事務所でインテリアデザイナーを務める武市治子さんが、草月流に入門したのは1980年。生き た植物を使ってデザインする生け花に新鮮さと魅力を感じ、以来28年間、インテリアデザインの仕事と二足の草鞋を履いて取り組み続けた。

1989年に師範として指導許可を取得、さっそく日英両語で教え始めた。「どこの国の方でも、お花を習いたいという方は、何か芸術的なことを勉強し ている人が多いですね。陶芸や絵画を習っていた、建築をやっていたなど。でも、最初から自由に生けられるわけではありません。基礎のコースをしっかり学び ます。その間は、生ける角度など制限があることに、『草月は自由じゃないのか。これは草月じゃない』と、抵抗を感じる方も少なくありません。しかし、基礎 を終了して3年目くらいになると、表現の方法が自由になるのです。そこでワッと燃え上がる方もいます。一方、ルールがなくなった途端に、頭が真っ白になっ てしまい、何をどうやったらいいかわからないと言う人もいます。自分らしい自分の花を生ければいい。そこが草月の難しさでもあり、面白さでもあるのです」

確かに、武市さんの作品はここまで自由であっていいのかと思わされるほど、大胆かつ斬新。鉄の枠と花との組み合わせ、大きく組んだ竹と桜など。使えない素材など草月にはない。

「たとえば、ソテツはソテツとしてカットしないで使うのが普通の生け花かもしれません。でも草月は、徹底的にマテリアルを追及します。ソテツの幹を 切り砕く、葉っぱを巻き付けることも自由です。さらに自然の素材に色を塗ってもいいのです。もう一歩、素材に深く踏み込むことで、新しい世界が広がりま す。柔軟に発想を転換していけば、あらゆる可能性が生まれます。これほどクリエイティブな芸術はないのではないか、と思います」

二世クイーン候補者から引退者ホームの入居者まで

師範としての年月を経るにつれ、武市さんの活動のフィールドは広がってきた。たとえばボイルハイツにある敬老引退者ホームでのクラス。ボランティア として、日系人の入居者に草月を教えている。「クラスが終わって、お茶をいただきながら、おしゃべりをします。彼らの過去の豊富な体験談を聞いているだけ で、私の方が逆に勉強になる思いです」

6年前からは、二世週クィーンの候補者に、日本文化講習の一環として生け花を指南する役に就いている。「まだ若くて日本文化については何も知らない 彼女たちを、短い間に集中して指導します。一生懸命に取り組んでいますが、残念ながら、(生け花を習うのは)その間だけですね。できれば、いつか落ち着い た時に『また生け花を習いたい』と思ってくれるとうれしいのですが」

2005年には、イーグルロックにあるチベット系の瞑想センターで、会員を対象に教え始めた。ダライラマの教えに傾倒するアメリカ人の平和主義者たちと共に、クラスの前には15分間瞑想をするのだそうだ。
「彼らは非常に熱心ですね。それに皆さん、とても礼儀正しくて、ホールに入る前に敬意を表し、また祭壇の前でお辞儀をします。敬意はお花でも大切なこと。 隣で生けている人へのレスペクト、先生へのレスペクト、もちろんお花に対するレスペクトの気持ちを忘れてはいけません。彼らはその気持ちを深い部分でしっ かりと持っているのです」

そして、2008年にはアーバインファインアートセンターでも新たに教え始めた。ここは、芸術のクラスに力を入れていることに定評があり、お花の他 にも、陶芸、写真、ジュエリー製作などのクラスが充実しているセンターとして知られる。武市さん自身、毎年、陶芸と生け花のコラボラーションの展示会を開 催している。

花の前では皆、自由で平等ライフワークとして一生取り組む

さらに、アメリカ人の目を生け花に向けさせるのに効果的なのがデモンストレーションである。「誕生パーティーからファンドレイジングのパーティーま で、人が集まる機会に声をかけていただきます。先日もオールドパサデナで開かれたパーティーでデモンストレーションを披露したところ、『見たことがないエ ンターテインメントだ』と非常に喜んでいただくことができました」

デモンストレーションはさまざまなイベントのオープニングに披露されるだけでなく、二世週クイーンに教える時も事前のデモが生徒たちの興味を一気に 惹き付けることができるのだと言う。静かに花と相対するだけでなく、動きのあるデモンストレーションは、アメリカでは、出番がより多いようだ。

「私の生徒さんには、日本文化が好きで太鼓をやっているアメリカ人の男性。パレスチナからアメリカに移民してきた男性、いろいろな方がいます。男 女、年齢、文化的背景は関係なく、お花を学び始める時のスタートラインは皆同じです。平等で、しかも自由に表現できる。だから、クラスの生徒さんたちはい つも生き生きしているのです。花を囲んで、人々の輪ができる。そんな皆さんから私自身がエネルギーをいただいています。インテリアデザインの仕事にはいつ か引退の時が来ますが、生け花には終わりがありません。ライフワークとして一生続けていきます」

花にすべてのエネルギーを注ぎ込めるようになった時、さらなる才能が開花するに違いない。可能性は限りないのだ。

プロフィール:女子美術大学を卒業後、結婚を機に1968年に渡米。80年に草月流、沖中春洋に入門。89年に草月流一級師範資格を取り、サンタアナとロ サンゼルスで教え始める。2007年に草月本部よりSpecial Award for Overseas Instructorを授与。インテリアデザイナー。

© 2008 Keiko Fukuda