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デカセギ・ストーリー

第四十四話(前編)「ただいま帰りました」

パウロは中学生のときから心に決めていた。「高校卒業後は、神学校へ入学し、宣教師になる」と。

両親はクリスチャンではなかったが、父方のおばあさんの影響で、パウロはクリスチャンの教育を受けた。

日曜日の朝は、バスに30分乗っておばあさんの家に行き、そこからおばあさんと2人のいとこと一緒に教会へ通った。礼拝は、大人の礼拝と子供の礼拝に分かれていたが、正午になると、皆、食堂に集まり、食事を共にして、楽しい時間を過ごした。特に、パウロは皆と話しをするのが大好きだった。

パウロは、サンパウロの郊外に家族と住んでいた。自宅のある地域は、あまり安全な地域ではなかったが、サンパウロ市内へ家を購入するのは難しかった。

父親はサンパウロ市内にある印刷会社を経営していたので、毎朝早く、車に乗って家を出た。パウロが念願のサンパウロの神学校へ通い始めると、父親と一緒に朝早くに車で学校へ向かった。

ある朝、いつものように車で家を出た二人は、バイクに乗った2人組に襲われた。父親がバイクを振り切ろうと角を曲ると、もう1人の男が突然現れ、父に銃を向けた。父とパウロは抵抗をせずに、すぐに車から降りたが、父は足を撃たれ、3人組は車を奪って逃走した。

パウロは父親をすぐに病院へ連れて行ったが、父の足は完全には回復せず、一人で歩くことができなくなってしまった。以後、家族の生活は一変してしまった。

結局盗まれた車は発見されず、父親の足が不自由になってしまったので、一家は家族を支える印刷会社の近くに小さなアパートを借りることにした。

また、父を支えるため母親も会社を手伝うことになり、2人の妹は学校に通いながら、家事をするようになった。

パウロは神学校一年生を無事に終えたが、家族が頑張って助け合っている姿を見て、自分も家族を助けようと、日本へ行く決心をした。

「えっ?学校はどうするの?」「デカセギの仕事はきついよ!止めた方がいい」「家はいつか買える、心配いらない」と、家族はパウロの日本行きに反対した。

悩むパウロは、日曜日いつものように教会へ行った時、おばあさんに日本へ行くことについて相談した。

「私のおじいさん、つまり、パウロのひいひいお爺さんは、北海道の札幌にある聖書学院で学んでいたんだよ。そのとき、神様の呼びかけに耳を傾け、異国へ行く決心をし、その後長い間伝道の仕事に携わったんだ。だからパウロが、神様の前で正しい決断をしたならば、きっと成功すると思う。正しい決断であれば、神様は自分に望まれたことを与えて下さる」

このおばあさんの言葉が決定的だった。パウロは家族や友達と楽しい年末年始を過ごした後、日本へ向かった。

長野県大町の電子導体の製造会社でパウロは働き始めた。長野の冬景色は見事だった!一年もたつと、パウロは日本語も上達し、仕事にも日本での生活にもすっかり慣れた。

いつの間にか、地域の日系ブラジル人の間で、パウロはなくてはならない存在になっていた。同僚は、トラブルが起きるとパウロのところへやってきた。パウロは上司と話をし一緒に解決した。また、同僚やその家族が、市役所や病院へ行くときは、同行して通訳の手伝いをした。

毎週日曜日は、群馬県伊勢崎市にあるクリスチャンの教会まで通った。ここでもパウロはできる限りのことをやった。礼拝中のメッセジーを、日系ブラジル人のためにポルトガル語に訳したり、日曜学校の片付けを手伝ったりした。奉仕活動にも積極的に参加した。

ある日、教会のオルガンの後ろに子供が隠れていた。パウロが声を掛けようとすると、母親らしき若い女性がいきなり駆け付けて来て、子供を引っ張り出して外へ出て行った。その子供は泣きそうだったけど、後ろを向いてパウロへ手を振った。

パウロは、その子のことが気にはなったが、以来、教会でその子を見かけることはなかった。

それからさらに1年が経ち、ついにブラジルへ帰る日がやってきた。

パウロは、ブラジルへ戻ったら、神学校へ戻り、残り3年で卒業するという目標立てた。でも一番の楽しみは、大好きな家族と再会することだった。

前日の電話で、父親が新しい家をパウロと一緒に買うことをとても楽しみにしているのが分かった。そして、妹のカレンの思わせぶりな言葉がかなり気になっていた。「ビッグニュースがあるから、早く帰ってね」

遠くに見える山の頂は、まだ真っ白だった。もう一度、日本に戻って来られるようにと願いながら、パウロはタクシーに乗って空港へ向かった。

後編 >>

 

© 2023 Laura Honda-Hasegawa

Brazil dekasegi fiction Japan

Sobre esta serie

1988年、デカセギのニュースを読んで思いつきました。「これは小説のよいテーマになるかも」。しかし、まさか自分自身がこの「デカセギ」の著者になるとは・・・

1990年、最初の小説が完成、ラスト・シーンで主人公のキミコが日本にデカセギへ。それから11年たち、短編小説の依頼があったとき、やはりデカセギのテーマを選びました。そして、2008年には私自身もデカセギの体験をして、いろいろな疑問を抱くようになりました。「デカセギって、何?」「デカセギの居場所は何処?」

デカセギはとても複雑な世界に居ると実感しました。

このシリーズを通して、そんな疑問を一緒に考えていければと思っています。