>>その1 父の姿を通して日系人の一生を紡ぐ 「太公望のひとりごと」は、2003年10月に、劇団メイプル・リーフ・シアターによって文京区の三百人劇場(2006年閉館)で上演された。アメリカでの初演は1981年である。私は、1984年、ロサンゼルスのEWPによる公演と、この三百人劇場での日本公演を観た。
この戯曲は、作者の父、ウィルフレッド・イツタ・ゴタンダをモデルとした作品で、主人公イツタ・マツモトの青年期から老年期に至る人生を「魚をとる」「魚を洗う」「魚を料理する」「魚を食べる」そして最後にまた「魚をとる」に戻るという、ユニークなタイトルの場に分けて描いている。ハワイで生まれ育った釣り好きのイツタは本土で医者になり、ミチコと結婚する。戦時中は収容所に送られ、戦後子供をもうけるが、子供たちと世代間のギャップを感じるようになる。日本人でない女性とデートをしたり、法学を捨てて作家になる子供たちが理解できず、彼らとのコミュニケーションを断ってしまう。ある日、突然妻のミチコが脳腫瘍で他界。孤独の中、最後の場でイツタは夢の中で自分の両親と妻に再会する、という物語だ。だが、描いているのはイツタのことばかりではない。第4場で、妻のミチコが言う。「28年間あなたの食事をつくり、服の洗濯をし、あなたの子供を産んだ。あなたは自分の人生でやりたいことがあった。夢を持っていた。その夢が遠くにいきかけた…