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アメリカの日本語媒体

第12回 全米に行き渡るインターネットラジオ『さくらRADIO』

コミュニティーをつなぐ

ニューヨークからインターネットで配信している『さくらRADIO』は2017年10月にスタートしたのち、数年かけてじわじわと全米の日系コミュニティーに浸透してきた。同ラジオが異色な点は、メディアとは異業種である人材会社インテレッセによって運営されていることだ。

「海外の情報に関してガラパゴス化している日本に真のアメリカを伝えたい」と語る代表の藤原さん。

インテレッセ社長の藤原昌人さんはラジオ開設の経緯を次のように語る。

「人材ビジネスで全米各地をまわっていると、ニューヨーク、カリフォルニア、ハワイ以外のエリアでは、ほぼ日本語の媒体が存在しないということを知り、そのようなエリアの皆さんが求めるメディア、全米のコミュニティーをつなげるものを作りたいと思いました。その場合、今の時代、新聞ではない。ではテレビだろうか、ラジオだろうかと考えると、テレビ放送の運営には膨大な金額がかかってしまうことから、テレビは難しい。それで最終的にニューヨークからインターネットでラジオ番組を配信することにしたのです。

また、人材会社なので、メディア業界の人材にさくらRADIOで働いてもらうことで仕事を提供することも(ラジオ局開設の)目的でした。通常はITや会計といった専門職は紹介先が見つかりますが、メディアの仕事はあまり紹介先が多くないのです。そういった方々のための仕事を作ろうと思ったというわけです」。

さらに藤原さんには従来の大手メディアとは異なる目論見もあった。

「アメリカの情報を日本語に翻訳しただけでは現地在住者にとってのリターンが見込めません。1994年からアメリカに住んでいる私としては、日系社会の歴史も含めた実態を広く伝えたいと思っています(アメリカ以外の地域では音楽の著作権などの関係上、音楽を抜いた番組をpodcastなどのスマホのアプリで聴取できる)。アメリカに実際に住んでいる人にとって重要な情報のほかに、親日派・知日派のアメリカ人には、アニメ以外の本物の日本を伝えるコンテンツも魅力的だと考えます。さらに新聞は取材してから記事になって手元に届くまでに時間がかかりますが、ラジオはハリケーンやトルネードなど緊急の情報をすぐに流すことができます。そういうラジオの即効性はアメリカで暮らす人々の生活に非常に役立つはずです」。


世界に広がるリスナー

番組は、ニューヨーク、ハワイ、ロサンゼルス、ベイエリア、セントラルマウンテン、ワシントン州、オレゴン州、テキサス州、ジョージア州、フロリダ州をはじめ、全米各地から発信される情報で構成されている。筆者が個人的に興味を持ったのは、NY在住のビジネスパーソンのケイコ・アオキさんがMCを務める『NY五番街トーク』。アメリカで最近話題の大規模リストラについて青木さんがゲストと率直に語り合うエピソードなどは、ネットなどで同様の話題に関する翻訳記事を読むことはあっても、こうして実際の音声で聴く機会はほとんどなかったと同時に、同じ在米邦人の意見が聞けて非常に身近に感じられた。

また、週替わりのキャスターがそれぞれの地域から放送する看板番組『HELLO AMERICA』、全米の日系団体の担当者にインタビューする番組『かわら版USAインタビュー』、児童書や絵本の読み聞かせ番組など実に多様なコンテンツで「さくらRADIO」は構成されている。本の読み聞かせ番組については「大都市圏以外の日本語補修校や日本語学校では教師不足が深刻な問題です。日本語の本を朗読できる人さえいない場合もあります。それで、特に継承日本語の子どもたちにはラジオで本を読み聞かせることで日本語に親しんでほしい、と考えています」と藤原さんは話す。

「今後も、在米邦人に必要とされている情報を集めて配信していきたい」と言う藤原さんは、さらに次のようなビジョンについても語ってくれた。「podcastなどでさくらRADIOを通じて日本の地方の方々、そして世界中の日本語、あるいは日本に興味のある人々にもアメリカの生の情報に触れてほしいと思います。海外ってこうなんだ、例えばヒューストンってこういうところなんだということを知ってほしいです。日本は海外の情報に関してはガラパゴス化しています。それを私たちのラジオ配信で防がなければいけないと思っています。実際、podcastのリスナーの4割は日本在住者で、最近はタイ、ブラジル、中国と広がりを見せています。それだけさまざまな地域で聞いてもらっているのです。リスナーの地域が広がれば、発信する内容も増やしていく必要があります。アメリカ現地の情報を日本の人に聞いてもらうと同時に、北海道の帯広、新潟、秋田、鹿児島など日本国内のローカルな情報をアメリカに伝える番組交換もやっています」。

藤原さんの話を聞いて、メディア以外の業界からラジオに進出したからこそ、固定概念にとらわれない、より自由な視点での聴く側に立ったコンテンツ構成が可能なのかもしれないという印象を強く抱いた。


『さくらRadio』ホームページ: https://www.sakuraradio.com/

 

© 2023 Keiko Fukuda

Japanese language radio Masato Fujiwara New York Sakura Radio

About this series

アメリカ各地で発行されている有料紙、無料紙、新聞、雑誌などの日本語媒体の歴史、特徴、読者層、課題、今後のビジョンについて現場を担う編集者に聞くシリーズ。