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The Nikkei of Latin America and Latino Nikkei

日本在住の日系人も老後の時期にきたのか

コロナ禍になって1年半が過ぎたが、日本国内では最近外国人の高齢化問題をテーマにしたセミナーが増えている。今年の3月末に名古屋市で開催されたシンポジウムは対面とオンラインのハイブリッド型で、私は「在日南米コミュニティーの高齢者の老後」について話をするためスピーカーとして招かれた。このシンポジウムでは、韓国人や中国人オールドカマーの事例やフィリピン人たちの試みなどが紹介され、とても興味深いものだった。

特に、我々南米の人間とフィリピン人は「老後」や「終活」という概念についてあまり深く考える機会をもたず、文化的にあまり馴染みがないことが分かった。主催団体の代表である木下貴雄(王榮) 氏によると、中国系のコミュニティーでは、老後への備えやグループホームの設立、介護保険の活用、語学や異文化を理解できる介護福祉士やケアマネージャーの育成、墓地の確保などを終活計画の一部として行ってきたという。かなり衝撃的だったが、海外に移住した日本人も、同様に生活に関わる諸制度を整備し、市営墓地に日本人のための敷地を確保してきたことを思い出した。

しかし、今の日本でそのような準備が必要かというと、私はそうは思わない。日本ではほぼ全てのものが整備されており、ニーズに応じてサービスが提供されている。それらのサービスを利用するにはそれなりの蓄えが必要であるが、外国人であっても必要なものを手に入れることはできる(最悪の場合、死亡後の火葬や埋葬も自治体の福祉事業で対応できる)。日本は少子高齢化で特殊出生率が1.34人、65歳以上が全人口の28.4%(約3600万人)である。平均寿命も84歳(男性81.64歳、女性87.74歳)で、ほとんどの人が年金を受給し、高齢者一般の貯蓄率は高い。この層の医療費負担は飛躍的に上昇しており、今後もその自己負担率が上がってくるに違いないが、それでも多くの人が医療サービスを受けることができ、長寿につながっている。

2020年12月の出入国管理庁の統計によると、日本在住の南米出身者は、272,279人、外国人人口の9%である。ブラジル国籍が208,538人、ペルーが48,256人、ボリビアが6,119人、アルゼンチンが2,966人、パラグアイが2,131人である。65歳以上の数を集計すると、ブラジル人は9,925人で全体の4.6%、ペルー人は3,126人で6.4%であるが、なぜかボリビア人のは16.1%(984人)で、アルゼンチン人は6.8%(206人)、そしてパラグアイ人は1.8%(40人)である。南米出身者の高齢率は5%前後で、この数字だけ見ると今の時点でそれほど心配する必要はないと思えてしまう。しかし、同統計の50代を見ると、数年後には定年年齢もしくは年金受給年齢のものが一気に増えることがわかる。65歳以上の年齢層が9%〜11%になり、高齢者の割合はどんどん増えてくることになる。

日本、ブラジル人、ペルー人及び本国の年齢別人口、厚労省統計の外国人人口動態 

一方、在日ブラジル人の今の特殊出生率は3.03(日本の出生数は1,732人)で、ペルー人のが2.6(出生数382人)である。多くの外国人コミュニティーでも見られるように、いずれは特殊出生率がもっと下がり、世代が進むにつれ日本人の特殊出生率と同じまで下がる可能性もある。余談であるが、この日本でもブラジル人やペルー人の離婚率及び婚外子はかなり高く、在京及び在名古屋総領事館でもそうした乳児の出生登録は多いという(厚労省も数年前までは外国人の非嫡出子比率を公開しており、それを国籍別にみるとペルー人やブラジル人は30%を超えていた。これは、本国の50%前後よりかなり低い数字ではあるが、日本の非嫡出子比は2.23%で、15倍になる)1。こうした数字を見る限り、南米出身者が老後のことを考えて計画をたてることは少ないかも知れない。

しかし、2008年のリーマンショック以降、南米出身者の間でも、定住思考が強くなり、年金を受け取れる社会保険への加入意識が高まった。安心して老後を過ごすには、非正規雇用であってもできるだけ長く掛ける必要がある。彼らが65才になるまでにどれぐらいの賭け期間になるのか定かではないが、日本人社員よりはかなり少ないことは間違いない。

今回のシンポジウムのため、ネットで約100人の40歳から65歳のペルー人を対象にアンケートをとった。それによると、87%が年金にかけており、その多くが社会保険の厚生年金に掛けていることが分かった。表2で見られるように、掛け期間が21年以上の人は18.3%、16年から20年が17.2%、11年から15年が21.5%、そして6年から10年が25.8%であった。回答者は、40代が42.6%を占めており、今後も掛け続けることできる人が多いのは救いだが、できるだけこの姿勢を継続してもらいたいものである。幸いにも、ペルー人はブラジル人と違って年金の脱退一時金制度を活用するケースが少ない2。これからも掛け期間を加算していけば、少しは老後の安心につながる。

2021年2月筆者実施の在日ペルー人年金加入状況サンプル調査

南米では「老後計画」という概念はあまりない。この20年間で全体の所得は上がり、公的医療も拡充したことで平均寿命もブラジルが75.67年、ペルーが72.52年まで上昇したが、乳児死亡率は日本の6倍以上である(日本:1.8、ブラジル:12.8、ペルー:11.1)。インフォーマル経済が50%前後かそれ以上の南米で、年金制度を信用して掛けている一般市民はそう多くない(5年前の調査ではペルーの就業人口の6割が年金未加入であった)。どの国も受給資格を得るための掛け期間は日本より長く、受給額はその国の制度によって異なるが、公的年金が最低賃金より低いことが多いのも、年金制度を利用する割合が少ない原因であろう3。 

日本在住のペルー人やブラジル人は自国の年金制度を信用していないし、仮に掛けることができても日本に在住しながら受給資格を得ることはかなり困難である(中南米で日本と社会保険協定を締結しているのはブラジルのみである4)。そのせいか、当初はこの日本でも派遣会社の社会保険加入に反発していた。しかし近年は、掛け期間をもっと増やしたいという相談も時々あるので、意識は変わってきているのが分かる。とはいえ、20数年の掛け期間ではそれまでの平均賃金の3割ぐらいにしかならない可能性もあるので、今後は年金収入を補完できるような雇用もしくは子弟たちのサポートが必要になる。最終的に一部のこうした定住外国人の中には、公的支援(生活保護等)にお世話にならざるを得ない人もでてくるかもしれない。

ラテン的に考えると、現時点でそれほど危機感を持つ必要はないようだが、「老後の道筋」ぐらいは定めてもいいのかもしれない。どれぐらい長生きするのかも分からない不確定要素に真剣にならないのがラティーノだが、日本に住んでいる以上本国にいる同胞よりは長生きする可能性はある。というのも、日本の平均寿命は南米より10年から12年多く、日本は医療制度や食育が充実しており、生活習慣病に対する予防プログラムも多いからだ。

日系人は日本人とは死生観は異なっており、「終活」にでてくるお寺やお墓のことまでは議論にさえなっていないようである。とりあえず介護予防教室等に通ってもらい、少しでも健康的かつ楽しい老後を過ごしてもらえるように努めることが先決である。

一般の日本人にとっても不安になる課題であるが、定年年齢の延長、年金掛け期間の拡大、受給資格があっても申請せず貯蓄を増やす、年金生活になってもパート労働や嘱託で働けるように現役の時からその可能性を確保していく、医療費がかからないように健康維持を重視する等々を心得ている方も多い。しかし、ここ10数年やはり非正規雇用も増え、生涯平均収入も増えなかったことで年金の掛け金もそれに比例して少なく、預貯金はあまりないという人も多いのが実情である。政策面でも様々な改善や改革が議論になっているが、外国人居住者にとっても他人事でないのである。

注釈:

1. 日本の非嫡出子比率は低く、2.3%である。一方、中南米や欧州はかなり高く50%を超える国も多い。
婚外子が増えれば日本の少子化問題は解決する?」(ニューズウィーク、2017年7月13日)

2. 年金の脱退一時金制度は外国人のみに適用するもので、日本でかけた年金の一部を本国から返還請求することができる。ここ数年年間6万件を推移しているが、帰国したブラジルの請求手続きは以前から高いのである。
脱退一時金の制度」(日本年金機構、2021年4月1日)

3. アルベルト松本、「南米の年金状況と日本の南米就労者の年金問題」(Discover Nikkei, 2016年11月23日)
CNN Español, "Los países de América Latina con más edad para pensionarse" (CNN, 2019年10月11日)
"Gozar de una pensión en América, ilusión de muchos y realidad de pocos" (Telemetro.com, 2018年7月4日) 

4. 「社会保障協定」(日本年金機構、2020年3月27日) 

© 2021 Alberto Matsumoto

Nikkei in Japan pention retirement social security

About this series

Lic. Alberto Matsumoto examines the many different aspects of the Nikkei in Japan, from migration politics regarding the labor market for immigrants to acculturation with Japanese language and customs by way of primary and higher education.  He analyzes the internal experiences of Latino Nikkei in their country of origin, including their identity and personal, cultural, and social coexistence in the changing context of globalization.