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The Nikkei of Latin America and Latino Nikkei

平成時代の日本と定着した南米日系就労者たち

2019年、この日本では「平成」が終わり「令和」という元号になった。31年にわたる平成時代は、南米から渡日した日系就労者の歴史とほぼ重る。1980年代後半のバブル期は、製造業界における深刻な人手不足問題を解決するため、政府は入管法を改正し南米からの日系二世や三世及びその配偶者が日本で制限なく働けるようにした。当時、多くの中南米諸国では経済が低迷し、失業率も貧困率もかなり高く、80年代のペルーではゲリラによるテロ活動が起きていた。私の出身国アルゼンチンでは年間5千パーセントというハイパーインフレが発生し、現地通貨ペソでの平均月給がドル換算で250ドル前後だったことを覚えている。そして、ブラジルやペルーの平均月給はもっと低かったのである1

一方、90年代前半の日本はバブル最盛期からその陰りが出始めたころだったが、我々にはその予兆さえ全く感じられなかった。私は1990年4月に国費留学生として来日したが、アルゼンチンでは感じたことがないすごい好景気にあると思ったことを記憶している。日系出稼ぎ就労者も、少なくとも30万円から40万円の月収を手にし、当時はアパートや送迎バスを無償提供する会社も多かった。20万円も送金すると本国の家族は少なくとも半年間から一年は安心して生活できる状況だった。

しかし、バブル崩壊後の日本は「失われた20年」とも言われているように、このような羽振りの良い生活はない。30年前の日本は、総人口が1億2,320万人(現在、1億2,670万人)で、名目GDP(国内総生産)が世界2位の420兆円(現在はほぼ557兆円で世界3位の大国)、一人当たりの名目平均所得は340万円(現在、440万円)だった。バブルの影響もあって、全国平均の土地価格が1㎡48万円で、銀座ではその単位が数千万円もした。メディアや投資家は、日本の評価額がアメリカ合衆国の4倍だと自慢げに取り上げていた2。現在その地価は当時の半分以下の20万円に下がっているが、私は実際にそれだけの資産価値があるかさえ疑問を持っている。また、国の債務は254兆円から1100兆円と増えており、GDP比率でみると61%からほぼ200%まで上昇している。一方、企業の内部留保を見ると、当時160兆円だったのが現在460兆円と増えており、企業はさまざまな理由でその資金を貯めて市場に出していないのが分かる。資金が投資や賃金などに回されていないので、労働者の賃金アップや処遇改善の妨げになっているという指摘もある。

大学進学率を見ると36%から58%と上昇しているが、授業料はこの30年間でほぼ倍になっており、大学教育の内容と学生の質が確実に低下していることは大きな懸念材料である。また、当時の全国の車の所有台数は3000万台で、今はその倍になっているが、特に都市部の若者は車をあまり必要としないので、新しいモデルを出しても以前のようには売れない。

1990年の人口増加率は0.33%で、この時からすでに減少傾向を示していた。特殊出生率も1.54から1.42に下がっており、少子化に対する改善策の見通しはない。65歳以上の人口が1321万人で全体の11%だったが、現在は3338万人で26%を占めている。30年前と比べると、2.4倍でこのままでは超高齢化社会になるのは確実だ。実際に、1990年の男性の寿命が75.92歳、女性は81.90歳だったが、現在は、それぞれ81.25歳と87.32歳と伸びている。今の社会保障制度ではいずれ対応できなくなり、医療費や年金の負担を考えると長寿社会として手放しでは喜べない数字だ。

日本社会の全体像を見ると、インフラ整備や利便性、賃金の高い職が集中している都市部への人口移動は更に加速している。近年多くの大卒者は地元での就職や生活を求めるようになっているケースも増えているが、やはり東京や関東地区、関西と東海の商業・工業地帯に人口が集中しているのも事実である。一方、特に都市部では核家族化もすすみ、現在1~2人暮らしの世帯が58%で、30年前の41%よりも増えている。中でも65歳以上の高齢者の一人暮らしは4倍に増えており、その7割が女性であるという。

若者に関しては、平成元年の初婚の平均年齢は、男性28.5歳、女性25.8歳だったが、今では31.1歳、29.4歳となっており、晩婚化が進んでいる。未婚率、離婚率、再婚率もそれぞれ増えており、特に都市部で増える傾向にあるという。国際結婚の数を見ると平成元年は2万2千件(全体の3.2%)だったが、平成20年(2008年)には約3万7千件(全体の5.1%)になったが、現在は2万1千件と全体の3.3%まで減少している。

この30年で日本の景気は低迷と限定的とはいえ回復を繰り返しており、数字を見ると、平成元年から今にかけて日本社会は大きく変化しているのがわかる。それまでの基準や前提が思うように機能せず、現役世代は不安を感じている。特に日本在住の外国人の中には、完全に日本に永住するのか、それとも老後は本国で過ごすのか悩んでいる人もいる。

毎年東京都内で開催されるペルーフェスティバルは、ペルーの独立記念式典とともに行う。ペルー各地方の民謡だけではなく、リマからアーティストも招いて楽しむイベントである。在京大使や総領事、南米諸国の外交使節団の方々も式典に出席する。すべてのプログラムはスペイン語と日本語で説明される。近年、国際結婚をした日本人の参加も増えており、ペルーの文化に関心のある一般の方々も気楽に参加できるようになっている。日本で生まれた子弟も増えており、親の出身国の歌や踊りに触れる絶好の機会である。

私を含め日本にある程度長く住んでいるペルー人やブラジル人らは、里帰りをするたびに日本と自分の祖国の現状を比較してしまう。改善してよくなったものもたくさんあるが、悪化した治安や政治不安、理不尽な日常や堪え難い不正義等を見るたびに、この日本を自分の住まいなんだと実感することも多い。特に、家庭を築き、子供が日本で教育を受けるようになると、その気持ちが確定する人が多いようだ。実際、日本は長いデフレの影響で物価が安くなっているので、大きな借金さえ抱えなければ日本の方が南米よりも豊かな生活が可能である。出身国にはない社会保障制度もあり、それなりの安心感は得られる。

しかし、売上高30兆円のトヨタ自動車や10兆円を超える大企業でさえ以前のような国際的な存在感は薄れてきている。米国系のGAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)と中国系のBAT(バイドゥ、アリババ、テンセント)らの最先端技術によるデジタル商業事業と決済システムは世界規模であり、この7社の年間売上高が90兆円で時価総額(発行済みの株価)が日本のGDP、ラ米諸国全体のGDPに相当する3。こうした新たな企業勢力は日本経済にも影響を与え、日系就労者がいる製造現場やサービス部門ではこれまでの非正規雇用がさらに不安定になるリスクは高まるかも知れない。日本の若者にとっても今後同じことが懸念される。

ラテンアメリカ諸国はこの20年の間に鉱物資源や穀物の国際価格高騰でかなり潤った。ブラジルをはじめ多くの国では新たなミドルクラスが誕生し、消費も拡大し、インフラ整備も進んだ。一人当たりの平均所得が3倍になった国もある。とはいえ、富の大部分は上位数パーセントの富裕層に集中し、経済的格差はむしろ拡大してしまった。また、物価上昇によって多くの住民の生活が苦しくなったのも事実で、ミドルクラスだった世帯が下層に転落するケースも多い。主力輸出品の国際価格が下り、世界的な需要が少なくなると、その国の経済の消費は低迷し、財政赤字で不況に陥ってしまう。

また、在日ペルー人やブラジル人子弟は少しずつ高等教育への進学率を高めている。本国の国立もしくは州立大学はほぼ無償ではあるが、厳しい入試を得て進学することはそう容易いことではない。日本には、専門学校や公的な職業訓練制度もあるので、高校をきちんと卒業していれば南米より選択の幅がある。

近年、在日日系大学生も増えている。写真右下は、名門大学に入学したペルー国籍のイサヤ稲福君。左の東京新聞には愛知県のブラジル日系三世のレナン照屋君が司法試験に合格した記事が掲載された。彼は、2018年末日本の弁護士登録をし、名古屋市の弁護士事務所で働いている。筆者の多数の教え子もすでに社会人になって、日本の社会で頑張っている。

現在、日本には約25万人の南米日系就労者が住んでいる。ブラジルとアメリカに次いで世界で3番目に大きい日系コミュニティーがある。日本への定住をもっと確実にするには、日本の社会や経済の仕組みを理解し、自らもっと多くのことを学び、今後直面する様々な変化や挑戦を受けながら、自分の多様性を社会のプラスになるように努力していく必要があるだろう。日本にも当然多くの不安材料はあるが、それは中南米にも世界各地に存在する。この30年を振り返るとこれからの時代は不確実性のものが増え、変化のテンポも変わるかもしれないがそうした社会環境でも移民パイオニアとして道を切り開くしかない。

注釈:

1. 当時の為替レートでは、35,000円(現在のレートで27,000円)になる。幸いにも、2018年のアルゼンチンの平均一人当たりの年収は120万円、ブラジルが100万円、ペルーが77万円で、不十分とはいえかなり改善した。

2. 1990年初頭の為替レートは、一ドル142円であり、2019年は一ドル109円である。

3. この7社の株式時価総額は560兆円である。今後変動する可能性もあるが、中南米6億人のGDPと同じ額であることに驚きを隠せない。余談であるが、中国のGDPは1400兆円で、日本のほぼ2.3倍である。米国のが2200兆円である。

参考:

オフィスJ.B & 旭和則、『統計でふりかえる平成日本の30年』、双葉社、2018

国立社会保障・人口問題研究所編纂、『人口の動向日本と世界 2014―人口統計資料集』、厚生労働統計協会、2014

CEPAL 国連ラテンアメリカ・カリブ経済社会委員会、統計サイト 

 

© 2020 Alberto J. Matsumoto

dekasegi Japan Latin America nikkei in japan

About this series

Lic. Alberto Matsumoto examines the many different aspects of the Nikkei in Japan, from migration politics regarding the labor market for immigrants to acculturation with Japanese language and customs by way of primary and higher education.  He analyzes the internal experiences of Latino Nikkei in their country of origin, including their identity and personal, cultural, and social coexistence in the changing context of globalization.