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The Nikkei of Latin America and Latino Nikkei

日本の日系ラティーノに対する支援策を検証~「弱者」と決めつける危険性

2010年8月末日本政府は内閣府を通じて「日系定住外国人施策に関する基本方針」を発表した1。日系定住外国人の集住する自治体による、国に対しての「外国人が日本社会に適応して生活していくために必要になる施策について、国としての体系的・総合的な方針を策定してほしい」という要望にもとづいたものだという。これは、80年代末以降南米から出稼ぎに来た日系就労者に特化した支援策であり、1)社会の一員として生活できるため、2)子供を大切に育てていくため、3)安定して働くため、4)社会の中で困ったときのため、5)お互いの文化を尊重するため、という5つの課題に対する対応策が盛り込み、定住化の過程で地域社会から排除されないようにすることを目指している。

名門の早稲田大学: 在日日系ラティーノ子弟がこうした大学に入ってくることが移民としての成功である。

これまで体系的でなくとも様々な支援策の対象になってきた外国人労働者だが、日本に在住する日系人(日系就労者、定住南米日系人、日系定住外国人等という呼び方がある)は以前海外に移民した日本人の子孫ということで特に手厚く支援されてきた。が、その効果や支援の趣旨を見る限り、それらの支援に依存し過ぎた結果、自立した社会生活から遠のいてしまった者もいる。

いかなる国でも、外国人移民には言葉と習慣、制度上の仕組みや法体系を知ってもらうことが社会統合の前堤になる。国によっては、そこで生まれた瞬間から外国人の子も国籍を自動的に取得し、国民としての権利と義務を負う。国民でなくとも居住者になると、納税義務、社会保険加入義務、親は子弟の義務教育という責務を担う。

今は情報が溢れている状態で、互いに理解し合える仕組みは以前より整っているのだが、私がこの日本のペルー人コミュニティーを見る限り、互いの情報・体験共有があまり進んでいないのがわかる。この移民現象が始まって20年になるが、当然皆が同じ時期に来日したわけではなく、思惑も異なる。当初はほとんどが一時的な出稼ぎとしか考えていなかったのである。しかし、予定していた貯金も本国の物価が安定して高くなるにつれその価値も低下していき、そのうえ日本でも賃金は上がるどころかデフレの影響で一部の職種以外は下がってしまった(残業も減りプラスαの収入も激減)。雇用そのものも更に不安定になり(不安定雇用であるアルバイト、パート、派遣、期間工等は全体の30%にも及んでおり約2千万人がそうした雇用であるが、日系人の場合は7~8割がこうした間接雇用である)、90年代初期の「黄金時代」とはかなり異なっている。

こうした中、一人ひとりの生活テンポも同じではなく、目標設定も異なる。これはやむ得ないことであるが、当初外国人に対する情報提供や行政サービスはかなり不十分であったが、次第に、特に集住都市や神奈川のようなある程度ノウハウがある自治体は、もっと詳細な生活情報を提供するようになった。

今は個別のニーズを除きかなりの情報が多言語で、公的機関のウェブサイトだけではなく、NPOや民間団体のサイトにも掲載されており、その内容を把握する努力さえすれば多くの問題も事前に防ぐことはできる。しかし、南米の人たちは皆がそうした情報をきちんと根気よく読まないのが大きな難点である。

コミュニティー内のフリーペーパー等を通じて、市役所での手続き、健康保険、年金、教育制度、育児、税金等に関係する情報を、親しみやすいイラストや写真とともに今も提供し続けている。忍耐のいる作業で、平行して定期的に説明会や講演会も実施し、フェイス・トゥ・フェイスで、そうした情報をアナログ式で届けてあげねばならない。

他方、日本政府は「日系定住外国人施策に関する基本方針」の策定に入っている。これは、各省庁や自治体の施策を調整し、より効果的に実施させるためのもので、厚生労働省の「就労準備研修」や文科省の「虹の架け橋」も、より良く機能させることを目指している。しかし、施策には予算と期限もあり、総合的な軸に移民政策がない状況では限りがあるのではないかと思える。

内閣府の「日系定住外国人施策に関する基本方針」の概要

これまでの経験から見ても、ニーズが多くなると結局は行政の負担が増え、外国人にとって思惑通り問題の解決には至らないことが多い。

基本方針には「社会の一員として生活できるため」とあるが、入国した段階から既に生活しており、地域住民としてまだ不十分な面もあるかも知れないが、かなり改善されてきており事実上生活は営まれている。「子供を大切に育てていくため」については、ブラジル人子弟の未就学・不就学問題のことを指しているようであり、そうした状況を助長している親の意識改善を促すものだが、それは集住都市等に存在する質の低いブラジル学校と日本政府の明確な政策の無さの結果であり、ほとんどの日系人子弟は日本の学校で義務教育を受けていることを忘れてはならない。むしろ問題は、義務教育の義務規定を適用しない政府そのものにあり、制度内の日本語サポートが、それは外国人児童や生徒だけではなく、そうした学生を受け入れている学校や教員への支援が、十分でないことが課題なのである。そうでないと、まだそう高くない高等教育への道も開けまい2

また、「安定して働くため」については、当然日本語をはじめスキルアップなしには到底無理な目標設定であり、今の就労準備研修等の更なる工夫や柔軟性、場合によっては雇用保険とのタイアップや日本語講習の義務化も検討する必要があるかもしれない3

今後の日本経済の競争力維持・拡大という観点から見ても直接雇用でそれも安定した雇用を確保するというのはそう容易いことでなく、外国人労働者にとってはもっとも手の届かぬ目標かも知れない。介護や林業、サービス部門では人手不足の職種も多々あるが、そうした職の定着率は日本人であっても低い。そのうえ、現民主党政権は安定雇用の建前論のみで「派遣法の改正で不安定雇用の削減、直接雇用で安定雇用」という法改正を掲げており、非熟練で非正規雇用の外国人にとってはもっと質の低いブラック労働化を意味する4

「社会の中で困ったときのための対応」は自治体行政や市民団体、同胞団体の力でかなり整備されており、多言語情報も十分と言える。すべてのことを多言語にすることは不可能であり、共存と社会統合を目指しているのであれば必要以上にやってはいけないことである。制度的に支援するというのであれば、司法と同様に専門性の高い医療通訳のサポート制度を確立する必要がある。その他、労災や大きな労働違反を管轄している監督署の通訳も必要であり5 、後は家裁や家事問題等を専門にする巡回通訳等も必要になってくるかも知れない。

しかし、その他はもうそろそろ自分で対応していかねばならない。でないと、いつになっても自立しないからである。

そして、「お互いの文化を尊重するため」という目標も設定されているが、日本社会は当初から外国住民の文化や風習等を尊重しているし、政治問題になるような大きな摩擦が発生しているわけではない。価値観の違いによる摩擦は、外国人が集住している団地では未だに発生しているが、南米の日系人は、むしろ日本の文化や仕組みをまだ理解していない部分やその努力が足りないと言った方が良いかもしれない。他方日本側は、あまりの気遣いで自分の誇る文化や伝統等をあまりきちんとアピールしてこなかったとも言える。国際交流、異文化交流、多文化共生といいながらも、遠慮し過ぎたことで互いに理解し合うという目標から逆に遠う退いてしまったのかも知れない。以前から私も指摘していることだが、摩擦や誤解を恐れる国際交流は理解促進にならず、その意図がなくともむしろ外国人を隔離してしまう結果を招くのである。

政府が体系的な支援を検討していることや、日系定住外国人という血縁関係を重視する日本人には大変感謝しなくてはならないが、配慮がいささか行き過ぎなのかも知れない。そのうえ、施策によっては設定している目標とは異なった状況を生み出してしまい、普通に生活できる社会環境とは逆方向に向かってしまう恐れさえある。

課題は、高校に進学しきちんと卒業することである。

日系人は、一世紀前から海外に移民した日本人の子孫である。様々な経緯と歴史に翻弄されながらもどこの国でもマイノリティーでありながら自力で尊敬を勝ち取り、立派に大きな功績を残してきた。世代も進み、現地化も混血化も進んでいるのだが、日本で「移民」になる過程でここまで特別扱いしてほしいと誰も頼んでおらず、求めてもいないのである。行政も、それを助言する識者も、定住外国人の一部である日系人たちをはじめから、「生活弱者」、「情報弱者」、「労働弱者」、「教育弱者」と決めつけているのであれば、それは移民としての潜在能力、活力を蕾みになる前から摘み取ってしまっていることになる。

つい最近、トルコや東ヨーロッパから人口の一割以上に及ぶ外国人を受け入れ様々な配慮施策を実施してきたドイツのメルケル首相は、これまでの多文化共生は失敗だと発言したが、このことも日本は教訓にすべきではないかと思える 。

注釈:
1. 内閣府定住外国人施策推進室サイト  http://www8.cao.go.jp/teiju/index.html
2. 地域によってかなり異なるようだが、高校進学率はかなり増えてきており、問題は多くが途中ドロップアウトして卒業できていないことである。進学率も、5割以下だというところもあれば、8割に至っているという地域もある。
3. 欧州の一部では一定の語学研修を義務づけ、それを終了しないとビザの更新を保留にしている。
4. ラテンアメリカでは、ブラック労働という非正規・非登録雇用は労働市場の半分に及んでおり、医療保険、年金、失業保険、労災補償のない労働である。
5. 現時点では存在しているが、職安の通訳の一部を研修させて労働基準監督署に配置することが外国人労働者の権利保障に貢献できる。
6. ドイツのメルケル首相「多文化共生政策は失敗だ」記事(Sankei Express, 2010.10.18)
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/world/europe/452455/

 

© 2011 Alberto J. Matsumoto

dekasegi nikkei in japan

About this series

Lic. Alberto Matsumoto examines the many different aspects of the Nikkei in Japan, from migration politics regarding the labor market for immigrants to acculturation with Japanese language and customs by way of primary and higher education.  He analyzes the internal experiences of Latino Nikkei in their country of origin, including their identity and personal, cultural, and social coexistence in the changing context of globalization.