Discover Nikkei

https://www.discovernikkei.org/en/journal/2008/09/13/

日本での移民教育の実態: ワークショップ形式のセミナーに参加

8月30日、パサデナセミナーの主催により日系移民に関する非常に興味深いワークショップ形式の講演会が開かれた。日系移民について知るための講演 ではない。日系移民について、日本国内でどう教育が行われているかに関する講演である。 講師は中央大学の森茂岳雄さんと、京都ノートルダム女子大学の中山京子さん。彼らは学校の教師になるために勉強している大学生を相手に講義を受け持ってい る。中山さんは、移民についての表記を盛り込む目的で、小中学生向けの教科書の編集委員も務めている。

中山さんが移民について関心を持つようになったきっかけは、シアトルで出会った日系アメリカ人男性だった。ダウンタウンを歩いている時に、向うから 日本人だと思われる人が歩いてきた。「Are you Japanese?」と聞いた中山さんに、相手の男性は「I’m Japanese American」と答えたそうだ。その時、彼女は「ジャパニーズアメリカン」の意味が理解できなかったのだと振り返る。また、日本国内でいかに日系移民 が知られていないかについて、森茂さんも「ペルーでフジモリさんが大統領になった時、なぜ南米に日本人の顔をした人がいるのか、私の大学の学生は説明でき なかったようだ。決して偏差値が低い大学ではないのだが、それが日本の実態だ。同じく、ノーマン・ミネタやダニエル・イノウエといった日本の名前を持つ代 議士が米国にいることも彼らは説明できない」と補足した。

しかし、このままの「移民に無知な日本人」では済ませられない。多くの識者も指摘しているように、日本は今、移民について知るべき時を迎えている。 人口はピークを越え、今後は南米やアジアからの移民が総人口に占める割合が増える一方なのだ。高齢化社会を迎えようとしている日本は、今度益々、国外から の移民に助けられることになるに違いない。共存していかなければお互いに生き延びることは難しい。

実際、東京新宿区の大久保小学校の生徒の6割が外国にルーツを持つ子供だと知って驚いた。学校通信も中国語や韓国語で併記されている。学校現場では 移民について無知、無理解であるがゆえの問題も起こっている。同じような顔をしているのに、日本語や日本文化を知らない南米やアジアからの移民の子供たち を、日本の子供たちがいじめるという問題である。

日本人も昔は海外へと移住していったのだと、移民への理解を深める目的で、中山さんや森茂さんは紙芝居、移民カルタという副教材を作成した。特に遊びながら移民の背景や文化を学べるカルタは秀逸なアイデアだ。

カルタにあった文句、「すうねんのつもりで、でかけた、すうせだい」は、今回のワークショップに参加した人々の多くが共感したのではないだろうか。筆者はこれに「いちねんのつもりで、でかけた、じゅうななねん」と気持ちを重ねた。
また、「ぼんだんす、とこなつはわいで、だんにんき」も面白い。森茂さんも指摘していたように、アメリカの盆踊り文化は日本のオリジナルを離れて独特であり、一種熱狂的でさえある。

ハナハナウエアの試着も行われた。ハナハナとは、ハワイのサトウキビプランテーションの言葉で「働く」という意味。つまり、農作業着である。このハ ナハナウエアを参加者4名が実際に着た。着物と洋服が合体したような作業着が全身を包む。肌が露出しない分、暑い。ハワイの強い日差し、蜂、サトウキビの トゲから身を守るための、まさに重装備である。そして、日本の子供たちは、実際に当時の日系人の作業着を着ることで、移民の労働の辛さを疑似体験するので ある。

今回のセミナーに参加した人たちは、多くが一世であり、移民への知識も理解もある。問題は知識と関心を持たない人にいかにアプローチすべきか、であ る。日本ではこのように教科書や教材の開発で、子供の頃からの「移民教育」が開始されている。さて、ここロサンゼルスでは?総領事館の手塚首席領事も指摘 したように、全米日系人博物館に連れていくのが一番確実だろう。手塚領事は、ロサンゼルスへの修学旅行生徒を受け入れる旅行会社に、博物館を日程に組み入 れるように強く働き掛けていると強調していた。

パサデナセミナーは月に一度、各界の専門家を講師に呼んで開催されている。南カリフォルニアのサウスベイには勉強会がいくつかあるが、ロサンゼルス のダウンタウンやパサデナ周辺で開催されている物がほとんどないというのが、パサデナセミナーを始めた理由だそうだ。10ドルの参加費は運営費用を除き、 敬老ヘルスケアなど地元の非営利団体に寄付されている。

今回のような、「日本で一体何が行われているか」という内容のテーマは、アメリカ生活が長い者にとっては非常に興味深い。日系移民が日本から海外へ渡ったように、パサデナセミナーの講師もまた日本から多く迎えたいものである。

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森茂・中山先生らの所属する多文化社会米国理解教育研究会によって製作された授業案は、ディスカバーニッケイのレッスンプラン・データベース内で検索可能です。


>> 移民を授業する -「日系アルバム」を活用した授業づくり-

>> 移民を授業する -日系アメリカ人学習活動の手引き-

© 2008 Keiko Fukuda

About the Author

Keiko Fukuda was born in Oita, Japan. After graduating from International Christian University, she worked for a publishing company. Fukuda moved to the United States in 1992 where she became the chief editor of a Japanese community magazine. In 2003, Fukuda started working as a freelance writer. She currently writes articles for both Japanese and U.S. magazines with a focus on interviews. Fukuda is the co-author of Nihon ni umarete (“Born in Japan”) published by Hankyu Communications. Website: https://angeleno.net 

Updated July 2020

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