孤独な望郷 ~ フロリダ日系移民森上助次の手紙から
20世紀初頭、フロリダ州南部に出現した日本人村大和コロニー。一農民として、また開拓者として、京都市の宮津から入植した森上助次(ジョージ・モリカミ)は、現在フロリダ州にある「モリカミ博物館・日本庭園」の基礎をつくった人物である。戦前にコロニーが解体、消滅したのちも現地に留まり、戦争を経てたったひとり農業をつづけた。最後は膨大な土地を寄付し地元にその名を残した彼は、生涯独身で日本に帰ることもなかったが、望郷の念のは人一倍で日本へ手紙を書きつづけた。なかでも亡き弟の妻や娘たち岡本一家とは頻繁に文通をした。会ったことはなかったが家族のように接し、現地の様子や思いを届けた。彼が残した手紙から、一世の記録として、その生涯と孤独な望郷の念をたどる。
このシリーズのストーリー
第6回 猫と話し、日本の本を読む
2019年4月12日 • 川井 龍介
南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。ひとり暮らしのなか、猫たちと話をする。作物は雨でまたやられてしまうが、近所のアメリカ人と助け合って暮らしている。 * * * * * 1950年12月10日夜 美さん、 今日はサンデー、終日働きました。九時まで床に居て新聞や雑誌を読みました。今日はお隣の花屋さんも見えず、一日中、誰とも話しませんでした。別に寂しい…
第5回 一瞬にして資産家になったことも
2019年3月22日 • 川井 龍介
南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。入植してからの日々を振り返り、不幸にも実らなかった婚約者との秘話や、土地バブルで大金を手に入れたことも報告している。 * * * * * 1950年○月×日 〈盆と正月が一緒に〉 美さん。 今日は何という吉日か。懐かしい手紙が来て待ちに待った写真も来て、私は盆と正月が一度…
第4回 あなたに会いたい
2019年3月8日 • 川井 龍介
南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。手紙を通じて家族同様の存在となった彼らに親愛の情を示し、健康への心配、将来のことなど義妹に揺れる気持ちを吐露している。 * * * * * 1950年○月×日 今、ちょうど朝の二時、今夜は余り咳も出ず、よく眠れました。御無沙汰をお詫びします。天候は不順続きで先週の金曜日の朝には今冬十回目の降霜がありま…
第3回 小さな友だち
2019年2月22日 • 川井 龍介
南フロリダの大和コロニーの一員として渡米、コロニー解体後もひとり最後まで現地にとどまり生涯を終えた森上助次は、戦後、義理の妹一家にあてて手紙を書きつづける。あるとき、売れそうになった土地の売買は朝鮮戦争によって実現しなかった。しかし、女の子との友情も芽生えたという。 * * * * * 1950年〇月×日 〈朝鮮事件で土地売却がキャンセル〉 お手紙5通を受け取りました。ろくに返事も出さずすいません。気を落ちつけて読んで下さい。1ヵ月前、私の所有地の一部を…
第2回 大寒波と交通事故
2019年2月8日 • 川井 龍介
20世紀初頭、フロリダ州南部に出現した日本人村大和コロニー。一農民として、また開拓者として、京都市の宮津から入植した森上助次(ジョージ・モリカミ)は、戦前にコロニーが解体、消滅したのちも現地に留まり、戦争を経てたったひとり農業をつづけた(詳細は第1回を参照)。最後は膨大な土地を寄付し地元にその名を残した彼は、生涯独身で日本に帰ることもなかったが、望郷の念のは人一倍で日本へ手紙を書きつづけた。なかでも亡き弟の妻や娘たち岡本一家とは頻繁に文通をした。会ったことはなかったが家族の…
第1回 1906年、8千里のひとり旅
2019年1月25日 • 川井 龍介
はじめに〜大和コロニーと森上助次 20世紀のはじめ、アメリカ東海岸南部のフロリダ州に日本人が入植をはじめたという歴史がある。日本人の影など微塵もない南フロリダに「大和コロニー」として誕生した“日本人村”では、主にインテリや資産家がなどが野菜や果物づくりをはじめた。しかし、厳しい自然条件などによって継続できず、戦前に姿を消してしまった。 そのなかで、最後まで残ったの男がいた。森上助次である。彼は所有していた広大な土地を、生前地元に寄付。この土地がも…