ディスカバー・ニッケイ

https://www.discovernikkei.org/ja/journal/2022/3/9/quatro-irmas/

第四十話 日本を目指す4姉妹

内山家の4姉妹はいつも一緒だった。子供のころは、おばあちゃんの庭でままごと遊び、思春期には映画やコンサート、旅行へと、いつも一緒だった。

しかし、大人になると、それぞれが別の道を選び、離れて行った。

長女のユキは大手銀行の公募に合格し、有望なキャリアを積み上げていった。

次女のユリは仕事場で知り合ったカナダ人と結婚し、バンクーバーへ渡った。

三女のマリは幼なじみのケンちゃんと結婚し、二人は日本へ出稼ぎに行った。

四女のミナは大学卒業後、ブラジリアの新聞社に勤めていた。

そして、5年ぶりにマリは里帰りした。「小さいときから日焼けしてたけど、今は色白になったね!」「ジンーズしか履かなかった活発な女の子が、今はレディーに変身した!」「もう日本語も話せるんだ!」「日本はすごい!人を見違えるほど変えてしまう!」と、皆が驚いた。

すると、たまたま実家に戻っていたミナが言った「日本は特別な国だよね。私も日本で暮らしてみたい!」

ミナは何度も海外へ旅行したことはあるが、日本へは一度も行ったことがなかった。学生のころ、ジャーナリストになりたいと話すと、「記事は日本語で書くのでしょう?」と言われ、「日本語は分かりません!ブラジル人ですから」と、答えていた。

しかし祖母はよく言っていた。「顔はルーツを語る」と。最近では「いくらブラジルで生まれても、顔は日本人だから、日本のことや日本語を知るべきだ」と、ミナも思うようになった。

そんなミナも、ついに日本へ行くことに決めた。その半年後、日系ブラジル人の多い浜松市に移り住み、いろいろな経験をつみ、(在日の?)日系コミュニティの役に立つウェブサイトを立ち上げた。

その頃、カナダで暮らしていたユリが、悲しいことに、夫を交通事故で失い、ブラジルへ戻ってきた。子供がいなかったので、一人で再出発しようと考えていた。日本でのミナの新生活の話に触発され、日本へ行くことにした。

結局、4姉妹のうち3人が日本で暮らすようになった。マリと夫は豊橋の自動車部品工場で働き、2歳の長男と、忙しいけど楽しい暮らしをしていた。ミナは浜松の飲食店で働きながら、日本語の勉強と地域の取材に取り組んでいた。そして、ユリは英語とグラフィク・デザインの知識を生かそうと、一生懸命だった。

日系二世の両親は日本へ一度も行ったことがなかったので、長女のユキは仕事の休みを利用して、両親を連れて日本へ遊びに行った。一家全員がそろうのは何年かぶりのことで、「奇跡だよね。このように集まることができたのは。マリが出稼ぎに来て、ケンちゃんと一緒に頑張ったから、私たちが日本に来られたのね」と、両親はとても喜んだ。

ブラジルに戻ったユキは、「目指せ日本」という目標を立てた。子どもたちが高校を卒業して、夫も自分も定年退職してからの話ですけれど、今から、家族全員で目標を目指すようにと考えた。

①長男と長女を日本の大学に入学または日本の会社に就職させる。そのため、日本語を習わせ、英語も上達させようと考えた。

②日本でブラジル料理のレストランをオープンさせる。会社員の夫は料理好きなので、ブラジル料理を習わせようと思った。

③自分は、日本のパン屋で修行しようと考えた。ユキが初めて訪れた浜松のパン屋さんは、まるで魔法の世界のようで、忘れられない光景となった。30年のキャリアを終えた後、第二の人生は皆を喜ばせる美味しいパンを作るのがユキの夢となった。

内山家の4姉妹はどんどん夢に向かって行く。

 

© 2022 Laura Honda-Hasegawa

ブラジル 出稼ぎ フィクション 外国人労働者 日本 在日日系人
このシリーズについて

1988年、デカセギのニュースを読んで思いつきました。「これは小説のよいテーマになるかも」。しかし、まさか自分自身がこの「デカセギ」の著者になるとは・・・

1990年、最初の小説が完成、ラスト・シーンで主人公のキミコが日本にデカセギへ。それから11年たち、短編小説の依頼があったとき、やはりデカセギのテーマを選びました。そして、2008年には私自身もデカセギの体験をして、いろいろな疑問を抱くようになりました。「デカセギって、何?」「デカセギの居場所は何処?」

デカセギはとても複雑な世界に居ると実感しました。

このシリーズを通して、そんな疑問を一緒に考えていければと思っています。

詳細はこちら
執筆者について

1947年サンパウロ生まれ。2009年まで教育の分野に携わる。以後、執筆活動に専念。エッセイ、短編小説、小説などを日系人の視点から描く。

子どものころ、母親が話してくれた日本の童話、中学生のころ読んだ「少女クラブ」、小津監督の数々の映画を見て、日本文化への憧れを育んだ。

(2023年5月 更新)

様々なストーリーを読んでみませんか? 膨大なストーリーコレクションへアクセスし、ニッケイについてもっと学ぼう! ジャーナルの検索
ニッケイのストーリーを募集しています! 世界に広がるニッケイ人のストーリーを集めたこのジャーナルへ、コラムやエッセイ、フィクション、詩など投稿してください。 詳細はこちら
サイトのリニューアル ディスカバー・ニッケイウェブサイトがリニューアルされます。近日公開予定の新しい機能などリニューアルに関する最新情報をご覧ください。 詳細はこちら