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9th Annual Imagine Little Tokyo Short Story Contest

回春

―10年前―

これは、ぼくだけのひみつ。いや、ぼくときみだけのひみつなんだ。

すぷりんぐすとりーとには、かべがある。みぎとひだりでわかれて、みんなくらしている。ぼくはみぎがわ。にほんじんと『にっけい』ってよばれているひとたちがすんでいるんだ。ひだりは、ぼくたちとはちがうひとたちがすんでいる。いったことはない。おとうさんやおかあさん、まちのひとからきいたはなしだ。ただ、とてもこわくてきたないところだから、いってはだめだといわれた。

ぼくはこのかべがすきだ。だって、おもしろいえやもじが、たくさんかいている。まだ5さいだから、ひらがながすこしよめて、20までかぞえることができるけど、かべはかんじやしらないきごうばかりだから、よめない。いつかよんでみたいな。

ゆきがふりそうにさむいひ、いつものようにかべをみていたら、ちいさなあながあった。ゆびが、4ほんはいりそうなくらいのあなだ。ぼくはのぞいてみた。そしたら、おんなのこがみえた。ぼくはおもわず、「ねえ」といってしまった。そのあとで、すごくこわくなった。だって、おとうさんたちのこえをおもいだしたから。ぼくがふるえていると、

「はろー」

はじめてきくことばが、かえってきた。

「えっ?」

「はろー、コンニチハ」

「こ、こんにちは」

おんなのこは、にこりとわらった。そのとき、ぱちんとはじけるおとがした。

「あっ」

おんなのことかみがほどけた。「どうしたの?」ときくと、きれたわごむをみせてくれた。おんなのこはないていた。きれたわごむで、かみをむすぼうとしていた。ぼくはたすけたくなった。

「ちょっと、まってて!」

「?」

いえにむかって、はしった。しろいいきで、まえがよくみえない。はしってはしって、のどがからからになった。ただ、たすけたかった。いえにつき、おかあさんのしろいはながついたかみごむをにぎりしめて、またかべにむかってはしった。

かおのあせをてでふいて、あなをのぞいた。そしたら、おんなのこがいた!みらくるだ!でも、まだないていた。

「ねえ。ぼくだよ」

おんなのこがあなをのぞいてきた。

「これ、あげる」

はなのかみごむを、あなにとおす。おんなのこはふしぎそうにしていたから、ぼくはかみをむすぶまねをした。すると、おんなのこはごむでかみをむすび、できると、えがおでぼくをみた。おかあさんにもわるいけど、しろいはなはおんなのこのほうが、よくにあっていた。

それからいちども、おんなのこにあうことはなかった。

* * * * *

隕石は、速く走る石だ。家にある古い漫画に書いてあった。僕はそれを信じて、通学中は石を蹴って歩いた。蹴った石が、突然火を噴いて、物凄い勢いで世界を周り、再び目の前に現れて……。

「おい、聞いてんのかよ?このビンボーラーメン屋!」

急に鞄で頭を叩かれたと同時に聞きなれた石井の嫌な声がした。耳を突き刺すように、折り重なる子分たちの笑い声。

「てめぇがここで暮らせるのは、俺たち日本人が、店に行ってやってるからなんだよ」

きつねみたいな顔をした小林が肩に手をかけてきた。

「お前より、石ころの方がマシだぜ。人様に迷惑かけてないんだからな」

「……」

「シカトすんじゃねえよ!」

たぬき顔の高橋が顔を除いてきた。ガムを噛む音に吐き気がした。

「ホント、お前豚骨くせぇな。豚煮た汁で金を稼ぐ人生なんて、俺はごめんだね」

悪口を一通り済ませると、奴らは笑いながら去っていった。これは、いじめに近いものだと思うけど、まだマシな方だ。世にあふれる映画や漫画、本に書かれていたり、ニュースで聞いたりするくいじめの内容に比べたら、屁でもない。でもだからと言って、僕の感情が波立たない訳ではない。やっぱり嫌なものは嫌だし、奴らを殺してやりたい気持ちになる。そんな時は、あの場所に行くようにしている。

かつて、東西を分断していた壁があった場所だ。富裕層の東地区の人口増加により、住宅地が不足した。そのため、壁を取り外し、西地区の土地を買い始めた。莫大な税金が投入され、西地区にいた日本人以外の有色人種、白人、黒人たちは喜んで土地を売り、新たな場所に旅立っていった。あと、20年したら、リトル東京は完全に日本人と日系人だけになるだろうと、予想されている。僕ら日系人が東地区に住居を許されたのは、日本人の矜持と地位を守るためだ。つまり、差別する対象が必要だから、いることを許されたのだ。今も見えない壁に苛まれる。

石を蹴りながら壁沿いを歩いていると、「なんで、石を蹴ってるの?」と話しかけられた。振り向くと、僕と同じ年くらいの少年と少し幼い女の子がいた。

「……隕石にするんだ」

「何を言ってるのか、よく分からないけど、君は天体に興味があるの?」

「別に、無いわけじゃないけど……」

「興味はあるんだな。本物の隕石見たくないか?」

「えっ!見れるの?」

「イエス!じゃあ、今夜25時に、ここに集合な。俺は、トム・ブラウン。こっちは妹のエリー」

「僕は、ジョージ・タナカ」

「OK、ジョー。またな」

* * * * *

僕は眠たい目をこすりながら家を抜け出し、待ち合わせ場所に向かった。もう、2人は来ていた。

「ごめん、待たせて」

「いいや、時間ぴったりだ。さすが、日系人だ」

「やめてくれよ。それより、隕石は?」

 トムが空を指さす。目を凝らすと、無数の流れ星が!

「今夜は流星群が来る日なんだ。流星も隕石の親戚みたいなもんだ。速く走る石だ」

「君のあの漫画を読んだの?」

「もちろんさ!あれは世界で通用する名作だよ。だから、俺も宇宙に関することに興味があるんだ」

それから、僕らはいろいろな話をした。その間、エリーはニコニコと笑っているだけだった。

「ジョーは、家を継ぐのか?」

「そうだね。いずれ父さんや母さん達の面倒を見なきゃいけないな。トムはどうするの?」

「俺は16歳になったら、家を出なくちゃいけない。貧乏だし、両親もそうやって生きてきたから、働かなきゃいけない。勉強は好きじゃないから、高校へ行かなくてラッキーだけど、家を出た後、エリーが心配なんだ」

「なんで?」

「エリーは時々、ぼんやりとする時があるんだ。俺は、そんな時間も大切だと思うが、世界にはそれを忌み嫌う人が大勢いる。悲しい事に、家族さえも例外じゃない。だから、俺が傍にいて守ってきた。本当はエリーを連れて家を出たいけど、金がない。だから俺が金を貯めてエリーを迎えに行く日まで、友達として様子を見に行ってくれないか?」

「そんな大事な事、突然頼まれても困るよ。第一、君たちの事、何も知らないし、それに……」

「これから、知っていけばいいさ」

 トムが優しく笑う。それはエリーにとてもよく似ていた。星が綺麗で、本当に降って来そうな夜。目に映る世界を、信じてみたくなった。

* * * * *

そして、トムは街を去った。見送りに行くと、彼は不安と希望が胸をくすぶっていたが、視線は光を捉えていた。

僕とエリーは東本願寺で遊ぶことが多かった。ここは観光客も多く、僕らの事を気に留める人間なんていなかったし、身体に染み付いた匂いを外なら気にしなくて良いからだ。特に何かをする訳でもなく、境内の隅に座り、風の匂いを嗅いだり、夕日に染まったりしていた。トムとは2回しか会っていないし、友達と呼べるほど、打ち解けたわけでもないのに、なぜエリーのことを気にかけているのか、自分でもよく分からなかった。行き場のない僕と同類だからなのか。

日に日に、エリーの指の皮が剥けて荒れていた事や、頬や足に赤い花が咲いてきた事を、見て見ぬふりをした。彼女は伸びてきた髪を輪ゴムで結んでいた。それに懐かしさを覚えつつ、あの子はどこで何をしているのか、思いを馳せていた。

しばらくすると、彼女の両親から「エリーは忙しい」と理由をつけられ、なかなか会うことができなくなった。嫌な予感は、ずっとくすぶっていた。でも、どうすることもできなかった。だって、僕は子どもだし、トムとの約束を守れば良いだけだから。

リトル東京に桜が咲いた。ひらひら舞う花びらのシャワーが綺麗な日、エリーと会った。僕は店の手伝いをして得た小遣いで、白い花がついた髪ゴムを買い、彼女にプレゼントした。不思議そうにそれを見ていた。僕は気に入らなかったらどうしよう、と不安になる。

「……ありがとう」

「どういたしまして」

「どうして、私に優しくしてくれるの?」

「あの日、星が降って来そうだったから。ただ、それだけだよ」

「よく分からないわ」

「分からなくていいし、意味なんて知らなくていいよ」

エリーはたどたどしい手つきで髪を結ぶ。結び終わると、花のような笑顔を僕に向けた。これが、僕らの最後の思い出だ。

そして、トムがこの街に戻ってくることはなかった。彼は家族から離脱した代償に、自由を手に入れた。僕は家族や土地、仕事の連鎖を断ち切れない代わりに、安定を得た。どちらが幸せなのか、今はまだ分からない。ただ、今もエリーの幸せだけは願ってやまない。もう、それしかできないから。

* * * * * 

数年後、リトル東京は8割が日本人と日系人の街になる。未だに見えない壁は存在するが、人口増加に便乗して豚骨ラーメンのブームが到来した。家業が成功し、利益を株に投資し、資産を増やしていった。儲けた金で店舗展開をしていった。アメリカ全土に20店舗を開き、日本へ1店舗進出することにした。場所は豚骨ラーメンの本場福岡にした。

新店舗視察のため福岡に行き、昼間に仕事を終わらせ、夜の中洲を歩いてみた。もう3月だが、夜の風は冷たかった。屋台に客引き、ホストのような男たちの群れ、風俗店のギラギラした看板が、目に飛び込んでくる。22歳の頃、初めての日本旅行で観光した新宿歌舞伎町に似ていた。

夜風に桜の匂いがした。茶色の髪に白い花の髪ゴムを付けた女性が通り過ぎた。

僕は「まさか」と思い、振り返る。幻影は人込みに溶けて、見えなくなった。

* * * * *

空を見上げる。人口の光を吸収した鉛色の空。祈るようにしばらく見上げてみたが、星は降って来なかった。

 

* このストーリーは、リトル東京歴史協会による第9回ショートストーリーコンテストの日本語部門佳作作品です。

 

© 2022 Miyuki Kokubu

fiction Imagine Little Tokyo little tokyo short story contest

Sobre esta serie

Each year, the Little Tokyo Historical Society’s Imagine Little Tokyo Short Story Contest heightens awareness of Los Angeles’ Little Tokyo by challenging both new and experienced writers to write a story that captures the spirit and essence of Little Tokyo and the people in it.  Writers from three categories, Adult, Youth, and Japanese language, weave fictional stories set in the past, present, or future. On May 26, 2022 in a virtual celebration moderated by Derek Mio, noted actors, Keiko Agena, Helen Ota, and Megumi Anjo performed dramatic readings of each winning entry.

Winners

  • Adult Category: “Tori” by Xueyou Wang 
      Honorable mentions 
  • Youth Category: “Time Capsule” by Hailey Hua
      Honorable mentions
  • Japanese Language Category: “教えて” (Tell Me) by Nao Mutsuki
      Honorable mentions
    • 回春” (Spring is coming over) by Miyuki Kokubu (Japanese only)


*Read stories from other Imagine Little Tokyo Short Story Contests:

1st Annual Imagine Little Tokyo Short Story Contest >>
2nd Annual Imagine Little Tokyo Short Story Contest >>
3rd Annual Imagine Little Tokyo Short Story Contest >>
4th Annual Imagine Little Tokyo Short Story Contest >>
5th Annual Imagine Little Tokyo Short Story Contest >>
6th Annual Imagine Little Tokyo Short Story Contest >>
7th Annual Imagine Little Tokyo Short Story Contest >>
8th Annual Imagine Little Tokyo Short Story Contest >>
10th Annual Imagine Little Tokyo Short Story Contest >>